2017年09月11日

エル ELLE/ELLE

 不道徳な映画だ、という意見と、絶賛の意見と、まさに賛否両論という事前の評判。
 ま、ポール・ヴァーホーヴェン監督の場合、<不道徳>というのはほぼ褒め言葉じゃないのかと思いつつ、なみいるハリウッド女優が即座にお断りしたという主演オファーを自ら望んで引き受けたというイザベル・ユペール見たさに参戦。

  エルP.jpg 犯人よりも危険なのは、“彼女”だった――。

 野心的なゲーム会社のCEOであるミシェル(イザベル・ユペール)は、自宅で突然覆面の男に暴行される。 けがを負い、食器類など室内も破損するが、ミシェルは警察に通報せず、お風呂に入って割れ物をホウキで片づけてごみ箱に捨て、夜に訪ねてくる約束の息子ヴァンサン(ジョナ・ブロケ)のためにスシのデリバリーを電話でオーダーする。 そしてやってきた息子にもいつも通り対応する。 翌日もいつも通りに出社したミシェルは、共同経営者で親友のアンナ(アンヌ・コンシニ)と新しいゲームのプレビューに出席して社員たちと意見を取り交わし、いつものように仕事をしてから病院に行き、性感染症の検査をしてもらう。
 普通(?)ならばショックのあまり半狂乱になってしまうような体験をしたのに、ミシェルは何事もなかったように振る舞いつづける。 しかし彼女の中では着々と犯人捜しの計画が構築されていた・・・という話。
 オープニング、黒いバックに黄色い文字でクレジットが出る。 穏やかで流れるような、でもどことなく不安をかきたてるような音楽に合わせて。 それを破るのは悲鳴であり、声と音だけでいきなり観客の度肝を抜く。 冒頭からヴァーホーヴェン節全開。
 『ELLE』はフランス語における女性単数名詞。
 とにかくイザベル・ユペールがすごい。 それにつきる。

  エル1.jpg その魅力に、あたしはやられちゃいました。
 あとから考えると彼女はちょっとずれてる・おかしい人なのに、ミシェルのポーカーフェイスや自信満々の表情に、「彼女は普通の・まともな人なのでは?」と思ってしまい、かなり早い段階でミシェル目線であたしもこの物語を観てしまっていることに気づく。 なので彼女の言動すべて肯定的にとらえてしまっていた。
 ミシェルは高い教養の持ち主で美人なのに、彼女の行動はときに驚くほどぞんざいで、「他人からどう見られるのか」をまったく意識していないように見える。 カフェに立ち寄るとき、一人なのに四人掛けの席を普通にとり、テーブルの上にカバンを放り投げるように置く。 歯を磨くときもうがいした水の吐き出し方が雑(というかうがいそのものも雑)。 飼い猫に対する態度もかなりクール。 人間関係においても、また同様。

  エル3.jpg そのかばん、気になる。
 服装や持ち物などもサラっとお洒落だし。 流行は追っていないけど(関心がないわけではない)、オーセンティックな上質のものを持っている感じ。 仕事においてもプライベートにおいても、明らかに<大人の女>。 なのに、小さな子供のようながさつさが同居している。
 それが彼女への興味をかきたてるのだ。 ミシェルとはどんな人物なのか。 彼女の元夫や親友アンナの夫、向かいの家の若夫婦、仕事場の若いゲームクリエイター等々、彼女に接点を持つ人々をじっくり観察したくなるのは彼女を読み解きたいがためなのだ。 でも誰もミシェルほど何か複雑なものをかかえてはいない。 でもこの中に、犯人はいるはずなのだ。

  エル2.jpg 必要になるかもしれないので銃の訓練もしちゃいます。
 ま、そりゃそうだよね、と納得してしまう彼女の行動。 明らかな証拠がないので犯人を挑発する行動にも出ますが・・・それが無謀に見えない、というすごさ。 目的のためにはパワハラ・セクハラも気にしない、という態度にはすがすがしささえ感じてしまいます。
 何故ミシェルがそもそも警察の介入を拒んだのか、という理由は彼女の少女時代のある事件が原因だとわかりますが、それがわかってもそれ自体に更なる謎がついてきて、一向に解明されない。 両親の愛を得られた実感がないせいなのかなぁと思いはするけれど、そんな簡単なことでミシェルを説明するのは陳腐な気がする。 彼女は今のままでいいのだ、これまでも、この先も。
 そんなわけでミシェルに魅入られてしまったあたしには、この映画のどこが不道徳なのか、不快なのか不愉快なのかまったくわかりません。
 ポール・ヴァーホーヴェン監督、『ブラックブック』のときよりも更に洗練されているぞ!、ということに驚きと感嘆を禁じ得なかった。 そういうシーンも多いけど、「エロい」とかまったく感じなかったし。
 失うものなど何もない、と心の底で思っている女は、何でもできる。
 襲われたときのことを思い出し、「こうすればよかった」とミシェルの妄想が犯人をボコボコにやっつけるところを思い描いて、ニヤリ、とほくそ笑む場面は痛快だった。 最終的にも痛快に終わるんだけどね。 ミシェルとアンヌが微笑みあうことで「男ってバカばっかりよね」と切って捨てるみたいに見えちゃうところとか・・・。
 ポール・ヴァーホーヴェン監督はグロくてゲスな映画を撮りつつも、その根底にはいつも<女性賛美>があると思う。 それは女神崇拝のようなものではなくて、女のどうしようもなさ・業みたいなものも含めて全肯定というか(男の欲望についても同様に否定はしていないが、そのかわり男の登場人物たちは大概ひどい目に遭うけどね・・・)。
 なるほど、これはいい意味で問題作だわ・・・。 ミシェルは謎を抱えたままだけど、それがまた潔い。
 原作を読んだら印象が変わってしまうかもしれないけど、あたしはこの映画版のミシェルを支持する。
 この役を断るなんて、女優として滅多にないものすごいチャンスだったのに、なんてもったいないことをした人たちだろう。 それとも、やはりアメリカはなんだかんだ言ってキリスト教的道徳感が人々の奥底に根強いのだろうか。 その点、やはりフランスはすごいな〜。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする