2017年08月04日

しあわせな人生の選択/TRUMAN

 あぁっ!、とチラシ(ポスターだったか?)を見て声を上げそうになる。 『瞳の奥の秘密』のあの人だ! 人の顔をなかなか覚えられないあたしが一本の映画で印象づけられてしまった顔(女性検事役の女優さんの顔は浮かんでこないのに)。 映画自体もなかなか好評価のようですが、この人が出てるなら観なければ、と思ったのでした。 だって『瞳の奥の秘密』は長い時間を描いたものだから、どの年齢が彼そのものなのかよくわかってなかったから。

  しあわせな人生の選択P.jpg きみから教えてもらった事、それは、決して、逃げださない勇気――。

 北の国に住む男は、なにやら覚悟を決めた様子で南へ旅立つ。 男の妻はそれを優しく見守る。
 その男トマス(ハビエル・カマラ)は現在カナダに住んでいる。 向かった先はスペインのマドリード、旧友のフリアン(リカルド・ダリン)に何十年ぶりかに会いに行くためだ。 トマスが滞在できるのは4日間、その間に余命宣告されているフリアンにいったい何ができるだろうと考えながら。
 そう聞けば「また難病・闘病ものかよ」とお思いでしょう。 あたしもはじめはそう思いました。 それでも観に行ったのはリカルド・ダリン観たさだったけど(でもトマス役の人も『トーク・トゥ・ハー』のあの人なんだよなぁ、老けましたね)、日本映画から想像するような闘病物ではまったくなかった。

  しあわせな人生の選択1.jpg 互いによろこびあう再会。
 フリアンは役者で、今も舞台に立っている。 かつては映画に出ていたこともあるらしい。 その業界に知り合いがたくさんいる。 一方のトマスはエンジニアで、フリアン曰く「北の果てで何か作ってる」。 こんな二人が一体どこで親しくなったのか・・・劇中でははっきり言及されないが、たぶん学生時代なんだろうなぁ、という印象。 フリアンの病状も直接彼から聞いたのではなく、フリアンのいとこで美人のパウラ(ドロレス・フォンシ)からトマスは連絡をもらっていて、すべての治療をやめて余命を静かに過ごしたいと決めていたフリアンは、最初説教されるものと思ってトマスを追い返そうとした。 トマスとしても望みがあるなら化学療法を続けてほしい気持ちもあったけれど、肺がんは思っていたよりも深刻で、多分これまでの付き合いからフリアンを説得するのは無理だということがわかっているのでしょう、医者との面談以後はフリアンの希望を叶える方向にシフト。 だって一緒にいられるのは4日間しかないのだから、話す内容にも気を遣うよ。

  しあわせな人生の選択5.jpg フリアンの愛犬、トルーマン。
 実はフリアンにとっていちばんの心配事は、愛犬のトルーマンの里親探し。 トルーマンはブルマスティフという犬種で、結構お年寄りなので見つけるのは大変だと予想され、かかりつけの獣医さんにもいろいろお願いしている(そりゃーもう、自分の病気のことより熱心に)。 そそて原題もこの犬の名前なのである。 漠然とした邦題よりも観れば納得のいくタイトルなのだが、ただ『トルーマン』だったら多くの人はアメリカ大統領を連勝しちゃうよね・・・邦題つけるのって難しい!
 全部受け入れることにしたトマスは話す内容にもこだわらないようにして(とはいえそこは男の人同士なのでそんなにお喋りするわけではなく、必要最小限って感じ)、それを感じ取ったフリアンもトマスには我儘言いたい放題することにして、<死ぬ前にしたいことリスト>(というほどちゃんとしてない、結構思いつき)を実行していくことに。
 このへんが、男の友情!、って感じですごくいい。 女の友情とは全然違うからこそちょっと憧れる。

  しあわせな人生の選択2.jpg トルーマンの散歩もいつの間にかトマスの仕事(?)に。 フリアンのカラダがしんどいということもあるのかも。
 フリアンは時々ひどく咳き込むけれども、いきなり倒れて病院に運ばれて死の床、みたいな場面はないし、酔っぱらって「ほんとは死にたくないんだ〜」と愁嘆場を演じることもない。 淡々と過ぎていく時間、日々。 フリアンの元妻とすれ違ったり(トマスとも昔からの知り合いのようだ。 トマスの奥さんも知っているみたいだったし・・・この二人、どういう関係なんだろう? それがいちばんの謎で、結局最後までわからない)、雰囲気でフリアンの近くにいる親しい人々は覚悟を決めているんだということがわかる。

  しあわせな人生の選択4.jpg フリアンの息子に会いにいきなりオランダへ。
 死ぬまでにしたいことリスト2番目、息子に会いに行く。 「それはいい!」と賛成したトマスだが、オランダの大学に行っていると知ってびっくり。 「オランダまで、日帰りで?」(飛行機代を払うのもトマスである)。 しかも会う段取りもつけていない(息子の留守電に「明日会いに行くよ」と吹き込んだだけ)と聞いて更にびっくり。 国を越えて行くんだからもう少し準備万端整えようよという理系的発想のトマスの気持ち、すごーくよくわかる。 二人の性格の違いがとてもよくわかる場面。 フリアンは行き当たりばったり、思い付きで「なんとかなるさ」の人なのだ。 でも正反対の性格だからこそ、ずっと親友としていられたのかも。 
 あたしはどちらかといえばトマス的性格に近いので、フリアン的豪快さに憧れる。

  しあわせな人生の選択3.jpg 美人のいとこ、パウラ登場。
 パウラとトマスには昔何かあったみたいな雰囲気・・・。 でもある程度の年齢になっちゃえばそういうこともみんな「過去のこと」になるのかも。 とはいえ、死を覚悟しているフリアンよりも、身近に「死」という存在を感じさせられてしまった二人のほうが実は動揺が激しくて・・・というのもあるあるではある。 なにしろそのことについて考える時間の長さも深さも違うから。
 トマスとフリアン、どっちの立場に立つほうが楽だろう。 観客は多分、そんなことを考えるんじゃないか。
 あたしはフリアンの立場がいいなぁと思いました。
 きっと、次にみんなで会うのはフリアンの葬儀の場なのではないだろうか、とうっすら思いながらも誰も口にはできず、トマスの帰る日は迫る。 そんな<途中の4日間>という切り口がこの映画の素敵なところ、お涙頂戴にならず人生というもののことを考えられるところ。
 まさに人間ドラマとはこういうもの、みたいな。 ゴヤ賞独占も納得。
 フリアンとトマスのパートナー関係、すごくよかった。 いい役者は年齢を経て、よりいい演技で観客を魅了するという証明がまたここに。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする