2017年08月03日

ヒトラーへの285枚の葉書/ALONE IN BERLIN

 きゃーっ、ダニエル・ブリュール!
 なんか出演映画が続いてうれしいわぁ、という感覚で。 でもドイツ映画だと思ったのに、原題は英語。 予告のセリフも英語。 あぁ、世界配給か・・・(正確にはイギリス・フランス・ドイツの合作)。
 冒頭、森の中でひとりの新兵が銃に倒れる。 その<死>の描写っぷりがすさまじい。 ぐろいとかではなく、目から光がなくなっていく様を強烈に印象付け、そこに横たわっているのは死体であるとセリフもナレーションもなしで示す。 森の緑の深さ、差し込む光の輝きとともに、戦争の無益さが強烈に印象付けられる場面。

  ヒトラーへのP.jpg ペンと葉書だけを武器にして、真実を生きていく――

 1940年6月、ベルリン。 フランスを打ち負かしたことで街は先勝ムードに沸いている。 だが、労働者階級のクヴァンゲル夫婦、オットー(ブレンダン・グリーソン)とアンナ(エマ・トンプソン)は悲しみのどん底にいた。 最愛のひとり息子ハンスが戦死したという知らせが届いたからだ。 腕のいい職工であるオットーは国営の工場で職人たちのリーダーを務め、すべて国のためだと疑いもしていなかった。 だがそのために息子は死んだ・・・オットーは悲しみをまぎらわせるかのように息子の顔を思い出しながら木彫りの像を作る。 アンナは婦人会の活動でナチス高官の妻だから贅沢三昧で何もしない相手にキレ、活動から外される。 二人は深い悲しみを共有するが、それは次第に怒りにかわり、オットーは総統のポートレイトに「嘘つき」と書く。 それがきっかけで、オットーは不特定多数の誰かにあてた葉書を書く。
 「総統は私の息子を殺した。 あなたの息子も殺される。 このカードを次に回せ」と。
 ポストに投函はせず、人が集まる場所にこっそりと置いて立ち去る。 それを日々繰り返した。 そうすることで夫妻は息子の魂の巡礼をしているような気になった、二人の絆も更に深まった。
 だが、それでは終わらなかった。 葉書を見つけた一般市民から通報があり、ゲシュタポのエッシャリヒ警部(ダニエル・ブリュール)が捜査を担当することに・・・という話。

  ヒトラーへの2.jpg ダニエルったら、ゲシュタポだわ!
 インテリで冷酷無比なキャラとして登場。 でも台詞は英語・・・なんか残念。 ダニエルがドイツ語を喋れるだけに! でも街の看板や、オットーが記す葉書の文面はドイツ語なのだ。 この統一性のなさが、微妙な吹替版のような感じがして。 クヴァンゲル夫妻を演じる二人が英語圏の方だから仕方がないのだろうけど・・・(でもオットー役の人はいかにもドイツの労働者階級っぽいのだが)。
 ドイツ国内でのレジスタンス活動は『白バラの祈り〜ゾフィー・ショル』などで多少知っていたつもりだったが、この映画も<ハンペル事件>と呼ばれる実際の出来事を描いたもの。 白バラをシンボルマークに学生たちが団結していたレジスタンスに比べ、このお二人の活動はあまりにささやかで地味である。 でもそれすら許されないという空気感が、なによりおそろしい。 見つかれば死刑確実だというだけでなく、葉書を見つけた市民はほとんどゲシュタポに届け出るのだ。 恐怖政治か!?

  ヒトラーへの3.jpg 手袋をして、細心の注意を払って葉書をしたためる。
 葉書の文面から、エッシャリヒ警部は「労働者階級の犯行、戦争で息子が死んだことが引き金」と推理し、葉書の置かれた場所を街の地図にピン止めして行動範囲を執拗に探る。 追うものと追われるものの関係が、深夜〜早朝のベルリンの寒さや白い息とともに緊張感で彩られる。 結構同じことの繰り返しでだれるかな、とも思ったけれど、ローテクの時代ならではのスリリングがあった。
 そして見つかる葉書の枚数がどんどん増えていくことに、いらだちを隠さないSS。 自分たちで捜査する気もないくせに、全責任をゲシュタポに押し付ける。 いるよね、こういうやつ!
 精一杯やっている(彼の仕事はこれだけではない)エッシャリヒ警部に理不尽な命令を下し、更に殴る蹴るの暴行・・・SSならば何をやっても許されるという発想がもう権力の末期を示しているのだが、その時代を生きている人たちにはそれがいつ終わるのかなんてわからない。 歴史を未来から見る者は、その点ずるいのかもしれません。

  ヒトラーへの4.jpg 自分がつかえていたものは・・・屈辱的な仕打ちに疑惑が生まれる。 そして、それまで自分がしてきたことにも。
 オットーの書いた葉書はすべて警部のもとに集められる。 拾った人・見つけた人はその一枚しか読むことはないが、葉書を全部読んだのはエッシャリヒ警部なのだ。 オットーが書いた葉書は全部で285枚。 警部の手元に来たのはその8割だとしても。
 いろんな感情が渦巻く複雑な役柄で、「この役、ダニエルでよかったなぁ」と安堵した。
 やはりうまい人にはやりがいのある役をやってほしいよね!

  ヒトラーへの5.jpg 早朝の散歩を利用して。
 二人のコンビネーションはどんどんうまくなっている。
 とはいえ、ベルリンは初めからこうではなかった。 アパートの一室にひっそりユダヤ人の老婆が隠れ住んでいるのを、アパートの住人全員で守ろうとするのが普通に行われていた(が、老婆の財産を狙うコソ泥がすべてをぶち壊し、密告万歳社会になっていく)。
 結局のところ、「自分の身がかわいい」と思うものが一定数以上増えると、世の中はそう変わってしまうのだ。
 もともと、夫妻だって初めから戦争反対・反ナチスではなかった。 彼らもまた一般市民だったのだ、息子を失って初めて「これは他人事ではなかったのだ」、と気づくまで。 けれど、そういう状態になったとして、誰もが同じことができるだろうか。 生きる甲斐をなくしたとはいえ、二人は「勇気ある行動」をとることを選んだのだから。
 ドラマなれど、ところどころドキュメンタリータッチ。 事実が重すぎるせいか、映画全体のトーンもどんどん暗くなる。
 でもこういう事実は知っておいたほうがいいんだろうなぁ。
 原作『ベルリンに一人死す』を図書館に予約入れました。 警部は実在するのだろうか・・・それがいちばん知りたい。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする