2017年06月01日

僕とカミンスキーの旅/ICH UND KAMINSKI

 『グッバイ・レーニン!』の主演・監督が12年ぶりに再びタッグを組む、というだけでちょっとわくわくのこの作品。 勿論、『グッバイ・レーニン!』と同じレベルのものを期待してはいけないとわかっている。 でも最近は英語作品に出演の目立つダニエル・ブリュールだけど、やっぱり彼の魅力をより引き出してくれるのはヨーロッパ映画のほう。 なんか彼のドイツ語、久し振りな気がする!
 ていうか、『グッバイ・レーニン!』からもう12年もたったんですか・・・そのことにびっくりです。

  僕とカミンスキーの旅P.jpg ピカソ、ダリ、ウォーホル! かつて美術界が熱狂した! 盲目の天才画家と青年の奇想天外なロードムービー

 1920年代にポーランドからパリへ出てきたマヌエル・カミンスキーはその後、マティスの弟子となり、モダンアート華やかなりし60年代ではNYのポップアート展で<盲目の画家>として一躍スターダムに。 ピカソが嫉妬したとか、ウォーホルが褒めたとか伝説には事欠かない存在となった。 しかし現在、カミンスキー(イェスパー・クリステンセン)はスイスの田舎に隠れ住んでおり、美術界から姿を消している。
 無名ながら名誉欲と自己顕示欲が人一倍強い美術評論家のゼバスティアン(ダニエル・ブリュール)は、カミンスキーの伝記を書くと出版社に売り込む。 彼も高齢、近々死ぬだろうから、今伝記を書いておけば彼が死んだときの注目度と売り上げは計り知れない、とプレゼンしたのだ。 早速、カミンスキーを探す旅に出るゼバスティアンだが、カミンスキーも老獪で一筋縄ではいかない相手。 もしかしたら彼は目が見えているのではないか、と疑念を持つゼバスティアンだが確証は得られず、なんとか彼を家から連れ出すことができたものの、忘れられない初恋の女性に会いたいと言われ、かみ合わない二人のドタバタ珍道中が始まる・・・という話。

  僕とカミンスキーの旅4.jpg カミンスキーの作品群。
 オープニングの、カミンスキーの伝記映像が楽しすぎ! 実際のフィルムにさりげなく加工して、いかにもこういうのあるある、みたいな。 よく知らない・うろ覚えの人はあっさりだまされそう、カミンスキーが実在の人物だということに。 でもこのフェイクドキュメンタリーの仕上がりのキュートさが、この映画の魅力−芸術と人生を捉えながらもキッチュで、どこか滑稽−そのものに思えて。 エンディングも様々な絵画のパロディが次々と繰り出されてとても楽しい。
 そしてダニエル・ブリュールが普段の好青年とは程遠い、金と名声ほしさの美術評論家という極めつけの俗物を演じており・・・ほんとにこいつ自分勝手でゲスでクズなんだけど、ダニエルのせいかなんか憎めない。 これもきっと監督の計算のうちなんだろう、まんまとはまっちまったぜ!

  僕とカミンスキーの旅3.jpg このヒゲ姿が胡散臭さを倍増させている(実際は電気シェーバーが壊れてヒゲを剃れないからなんだけど)。 31歳(という設定)に全然見えないし・・・。
 カミンスキーもまた結構困った人ではあるんだけど、もうお年だし芸術家ってのはそんなもんでしょ、と、こちらの頑固ジジイ好きにもすぱっとはまり、不愉快なもの同士の二人のごたごたした旅路が、キュートに見えちゃうから困ったもの。 つくづく、観る分にはあたしはヘンな人が好きらしい。
 若干ストーリー的にはもたつくというか、中盤はオープニングのような勢いがなくなるのでここで脱落してしまう人がいるかもしれないけど(あたしもちょっと眠気に襲われかけた)、そこを切り抜ければ物語は盛り返します。

  僕とカミンスキーの旅1.jpg スイスからベルギーまでごたごたの旅をして、ついに初恋の女性テレーズと再会。
 わー、お歳は召してるけどかわいい人だなぁ(いや、過去に何回か観ている女優さんなんだけど、テレーズという女性の印象にぴったりで)、と思えば、彼女はジェラルディン・チャップリン。 チャールズ・チャップリンの娘だという(知らなかった・・・)。
 なんかもうこの二人のやりとりだけで十分いいものを見た、みたいな感じがした。 時間の流れって、すごいなぁ。 でもあたしには何十年か先、そういうものを突き付けてくるような不意の再会とか、相手がいないわ・・・。
 でもそれは、幸運なことなのかもしれず。
 そんなところまで同席しちゃってるのに、ゼバスティアンとカミンスキーは<心の友>になるわけでもなく(微妙な信頼関係らしきものは生まれるけれど、あくまで微妙なままである)、ゼバスティアンは美術評論家として成功するのかもしくはゲス人間を卒業できるのかもまた未知数で、まったく大人って成長しないな!、という内容であったりするのだが。

  僕とカミンスキーの旅2.jpg とはいえ、「海に行ってみたい」というカミンスキーの願いをかなえるゼバスティアン、二人の散歩姿は見ていてどこかいとおしい。
 芸術には答えがない、価値も時代とともに変わる。 それと同じように人生にも答えはなく、価値判断も人それぞれ。 ゼバスティアンは自分の人生に折り合いをつけられるのだろうか。 つけてほしいなぁ、と心の底から願ってしまった。
 クセのある人物を演じるとき、なんで役者ってこんなにもイキイキしているように見えるのかしら。
 まるですべてが幻想のような曖昧な終わり方も、この物語にはふさわしい気がした。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする