2017年05月22日

三連の殺意/カリン・スローター

 『ハンティング』という上下巻が面白そうかな、と手に取ってみたものの、シリーズ物だった。
 だったらまず一作目を読まないとダメでしょ!
 そう思って探したら・・・ちゃんと翻訳が出ていて安心。

  三連の殺意.jpg 原題の意味は『三連祭壇画』。 三つのキャンバスが開いていくうちにそれぞれ違う意味を持つ絵になる。 実際、この物語も三部構成。

 ひどい状態で殺されて捨てられた売春婦。 事件の担当となったアトランタ警察の刑事マイケルのもとに、ジョージア州捜査局特別捜査官のウィル・トレントがやってくる。 今回の事件は過去の事件と類似性があるという。
 そんなわけで、ウィル・トレントシリーズの一作目です。
 特筆すべきは、ウィルの<捜査官らしくなさ>。 やせぎすの長身、いつも三つ揃えのスーツ姿、人に威圧感を与えるどころか自信なさげに佇む“優男”。 でも身体にははっきりとわかる傷跡がある・・・。
 実はウィル、幼少時に母親に捨てられてから里親に預けられるも虐待を受け、児童養護施設と里親を行ったり来たりで(そのたびに虐待の傷も増え)育つ、という複雑な過去があり、他人の感情に共感できない・自分の感情の表し方もよくわからないというプロファイラー向きではなさそうなタイプ。 おまけに失読症(それを周囲に悟られないように地道な努力を現在も欠かさない)。 それなのに事件解決率98%という優秀な捜査官だというキャラクター。
 そしてウィルとともに施設で育ったアンジーはアトランタ警察の風俗犯罪取締班の刑事(ときには娼婦の格好でおとり捜査に出ます)。 この二人もまた幼少時に虐待を受けた者同士、強い絆で結ばれつつも普通の感情表現ができないのでお互い傷つけあうばかり。 一緒にいないことがお互いにとって新たな出発になるとわかっているのに離れられない。 共依存というべきか、互いのひどい過去を知っているからこそ理解しあえるのに、相手への共感は自分の傷を抉ることでもあって。 ウィルは感情をあらわさないことで自分を守り、アンジーは攻撃的になることで自分を守る。
 主人公はスーパーマンではなくむしろ迷える人、というのがここしばらくの流れとはいえ、ウィルの背負うものはあまりに多すぎないか?

 そして事件ですが、事件の捜査を開始する第一部と、無関係ではないにしろ別の人物の視点から描かれる第二部が、実は表裏一体であったとわかったときの驚きたるや!
 まさに原題通りに別の風景が同じものだと気づかされる衝撃は、綾辻行人『十角館の殺人』を初めて読んだときの感じに近い、というのは言い過ぎかしら。 でも「おおっ!!」ってなりました。
 そこで事件のだいたいの筋書きと犯人はわかってしまったので・・・ページの半分以上を占める第三部が長すぎる。
 読者はもう犯人はわかっているのに、全然気づかないウィル・トレントにいらいら。 彼の個人的な苦悩はわかるけど、そんなんでよく捜査官をやってられるなぁ、と別の意味でハラハラ。
 約20年前の事件も関わってくるのだけれど、いろいろ小出しにされるけど読者が知りたい肝心のことが書いていないという・・・。
 事件そのものよりも人間ドラマ重視、ということなのかもしれませんが・・・なんかモヤモヤが残って消化不良。
 しかも『ハンティング』はウィル・トレントシリーズの3作目で、2作目が先月の終わりに出たばかりだという(順番通りに翻訳されないパターン)。 じゃあ、やはり2作目『砕かれた少女』(このタイトルも表紙もひどい)から読むべきか。
 決して『三連の殺意』に満足したわけではないのですが・・・なんというかウィルとアンジーの過去と現在の関係が悲惨すぎて、逆に気になるのですよ。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする