2017年04月13日

砂時計は血の匂い【和田慎二傑作選】/和田慎二

 『亜里沙とマリア』に引き続き、和田慎二傑作選(書籍扱いコミックス)の2冊目が登場!
 最初はタイトルだけの告知だったので、「あぁ、今回は『愛と死の砂時計』『オレンジは血の匂い』か」と思っていたのだけれど・・・実際に本を手にしたら、帯に<神恭一郎VS西園寺京吾>の文字。
 いや、このふたりは昔の友人ではあるけれど、直接戦ったことはないはずだけど・・・。
 どうやら、神恭一郎登場作品の代表作ともいえる2編に、西園寺京吾の作品も収録されているから、という意味らしい・・・。
 あぁ、びっくりした。

  和田慎二傑作選砂時計は血の匂い.jpg この絵のタッチが・・・懐かしいけど同時に安定感をもたらすなぁ。
 そんなわけで、収録されているのは『愛と死の砂時計』・『オレンジは血の匂い』・『パニック・イン・ワンダーランド』・『バラの追跡』。

 『愛と死の砂時計』<和田慎二版・『幻の女』>というべき作品で、あたしは本家や類似作品よりもこっちを先に読んでしまっているため、この作品が基準になっておりました。
 でも今回改めて読み直してみて・・・まず視点が違うこと(『幻の女』をはじめ、ほぼ身に覚えのない罪で投獄される男の側から描かれているものが多いけど、これでは男の内面描写はほとんどなくて、彼の婚約者視点で物語が動く。 少女マンガだから、と言われるとそれまでですが)、そして中盤でもう犯人が読者にはわかってしまう!、ということ。 探偵役が真相に近付いたと思えば手掛かりを持つ人物が先んじて殺されていく、という展開だけで十分ハラハラものなのに、犯人が身内にいると早々にばらしちゃって一緒に犯人を追うのだからハラハラ度倍増! 元ネタを越えよう!、という気概を感じます。
 そしてブルマン立て続けに3杯飲んじゃう、神さんのクセ(?)も思い出してうれしかった。

 『オレンジは血の匂い』も、和田慎二復讐シリーズ(?)の中で好きな作品の上位に食い込む作品です(今は『深海魚は眠らない』がダントツの一位なのですが、それが現れるまではこれが一位だったかも。 『銀色の髪の亜里沙』は別格)。
 カメオのつくりかたもこれで学びました。 その当時小学生、以後、大学生ぐらいになるまで「カメオのつくりかた」が一般常識ではないことに気づかなかった!、というくらい、あたしはマンガから大量の知識を得ています。 でもそれが普通だと思っていたんですよ・・・だから最近は、そういう話が通じる人に出会うとものすごくうれしい。 全然違うんだけどちょっと「戦友」ぐらいの気持ちになるというか。
 この作品は細かな章立てが特徴で、結構めずらしいかなぁ、と思う(他には川原泉の『銀のロマンティック・・・わはは』ぐらいしか思いつかない)。
 ヨーロッパ観光ツアーのように各地を転々とし、ヒロインは命の危機に瀕し、と今思うと二時間サスペンスドラマ要素てんこ盛りなのではありますが、和田慎二世界においては一切がなんの違和感なく存在してしまうすごさ。 神さんはお国柄に合わせてカプチーノ3杯だし。

 『パニック・イン・ワンダーランド』は<マンガ・ファンロード1号>に掲載されたお遊び原稿。
 和田慎二レギュラーキャラクター勢揃い。 これだけ1985年のものですが(他の作品は1973年・74年)、人気マンガ家であるが故に通った企画という感じ。

 そして『バラの追跡』
 海堂美尾と西園寺京吾の出会いを描いたものですが・・・前半があたしの記憶と全然違う!
 でもラストは同じで、なんでだろうと思っていたら、和田作品で唯一のリメイク、『バラの追跡』を読者の対象年齢をあげてもう一度新たに描き直した『バラの迷路』があるとのこと。 あたしが読んだのはそっちだ!
 美尾さんはその後、神恭一郎探偵事務所の秘書として働くことになるので、彼女の人生は『スケバン刑事』でもやんわり語られることにはなるのだが・・・(そこで、西園寺京吾と神恭一郎の繋がりも判明する)。
 こうやって別作品の登場人物が繋がっていくのがまったく不自然にもやっつけにも感じられないのは、裏シナリオがきっちりつくられているからだろう。 最近のマンガ家さんでそこまでしている人ってどれくらいいるのかな、ってちょっと考えた。

 あと、美内すずえロングインタビューと、いろんなマンガ家さんからのトリビュートイラスト集。
 これの版元が秋田書店である、という関係上か、トリビュートに出てくる人たち、もっと大物を集められないのか・・・という個人的に若干の苛立ちは感じます。
 でも美内すずえロングインタビューはそれなりに読み応えあり。 全盛期の仕事のやり方等は勿論面白いし興味深いのだけれど、いちばん切なかったのは、訃報のあと、悲しみを紛らわしたくて和田作品を読みふけろうと思ったのに、自分のは書庫に仕舞っていてすぐに出せる状態じゃないからとマンガ中心の本屋に行ったのに、若い店員さんに“和田慎二”が通じなかった、というくだり。
 「いつの間にこんなことになったんだろう・・・」、という言葉が、重い。
 けれど美内すずえ作品も、『ガラスの仮面』以外を手に入れようとしたら結構難しいのではないだろうか。
 マンガだけじゃなくて小説もそうだけど、描く方は命を削って仕上げているのに、出版点数の増大と書店や出版社の物理的スペースの関係上、絶版に追い込まれるペースはどんどん早まっている。 それにマンガはどうしても「リアルタイムで読むもの」というイメージがあるから、よほど好きだったりなにかきっかけがない限り、過去の作品までさかのぼって読もうという人は少ない。 時代が変わればどうしても描写が古くなる・使われる言葉が変わるから(『バラの追跡』でも“シュレッダー”に注釈がついていた、これは当時にしては新し過ぎた単語だったんだろう)、なにかブームがこないことには再版されない。 これはもう、出版業界の宿命としか言いようがないのだが。
 こうして新たな作品集が編まれるのも、結局「和田慎二が死んだから」なのだ。 なんだろうなぁ、まったく・・・。
 だからこそ、「自分にとって大事な作品・作家」に巡り合える幸運を、読者はかみしめるしかない。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする