なんだかんだいろいろと思ってましたが、結局読んでしまいましたよ、『ミレニアム』の新作というやつを。
最初、4作目が出るという告知を見たときは、「えっ、泥沼裁判にカタがついて、未完成原稿をもとにつくれたの?!」と思ったのですが・・・遺族と出版社側の依頼で書きあげられたもの、ということ・・・。 あぁ、ラーソンのパートナーの方、大変。
えーと、現存する<『ミレニアム』三部作>の作者はスティーグ・ラーソンなのですが、彼は本の出版前に突然の逝去。 その後、世界的な大ヒットになり、多額の印税が入ったわけですが、ラーソンはパートナーである女性と結婚していなかったし、遺言書も残していなかった。 『ミレニアム』シリーズは彼女とアイディアを交換しながら書き上げたとも言われているのに、彼女には一銭(スウェーデンだからクローネか)も入らず、出版社と遺族(ラーソンの親兄弟)にお金が全部行くことに。 そこでこじれちゃったんですよね。 第4作目の未完成原稿は彼女の手元にあるが動かせず、多分和解もできてないんじゃないか。 で、親兄弟の方も遺産があまりに莫大な額のため(そして世界中から注目を集めてしまったため)、手をつけることができず、結局暴力に苦しむ人々のための基金を設立したんじゃなかったっけ。
もともと、『ミレニアム』は全10部構想といわれていた。 やっぱり遺族側がお金がほしくなったのか、出版社が儲けたかったのかはわかりませんが、「続きを読みたい」という読者の期待にこたえる形で、ラーソンの遺稿に関係なくまったく新しくスタートを切ったのが、この4作目だということで。 作者のダヴィド・ラーゲルクランツはジャーナリスト出身で、ルポルタージュなどを書いていた人だとのこと。 『ミレニアム』三部作を研究しまくり、この作品を完成させたらしい。
とはいえ、違う作者。 進んで読む気にはなれなくて・・・で、評価も賛否両論だし(まぁそれは当たり前だと思うけど)。
グインの新しい続きを今も読めないあたしなのに。 でも、『ミレニアム』は3作だけだし、映画もあったけど一年ぐらいでががっと読んだし、グインほどの思い入れはないから大丈夫なんじゃないだろうか・・・と思って、今回手に取ってみた次第。
あの事件から数年後。 ジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィストはいまひとつやる気がなく、スランプに陥っていた。 それに比例して雑誌『ミレニアム』の売り上げも下がり、会社は経営の危機にさらされていた。 編集長のエリカは雑誌存続のために株式の30パーセントをセルネル社に売り渡すことを決めていた。 なのに相変わらずミカエルにはやる気がない。
そんなある日、ミカエルのもとに大スクープになるという情報が持ち込まれる。 人工知能研究の世界的権威であるバルデル教授に関わる問題で、その話の中にリスベットの影を感じ取ったミカエルは早速教授に接触を図るが・・・という話。
正直なところ、これが『ミレニアム』じゃなかったら、普通に「面白かった」というレベルだと思う。 北欧ミステリ的な重厚さには欠けるが、AI、サヴァン症候群、ハッキングと数学などを絡めるエンタメ重視姿勢は映像化を想定しているようにも思えて、読ませる勢いは確かにある(あたしも結構すぐに読み終わっちゃったし)。
でも。
なんと言ったらいいんだろう・・・キャラクターが発する熱量が違う。
確かに筆者は過去作品を研究つくしたのだろう。 人間関係に齟齬はない。 伏線だった<リスベットの妹>もしっかり登場させて、まさにファンの期待に応えている。 でも、それだけなんですよ。 矛盾はないけど・・・優等生の模範解答を見ているような感じ。
やる気のないミカエル、というのがまずいまひとつ想像できないし(そういう状態の彼ならばでれでれと女性の間を行ったり来たりしてそうだけどそんなこともなく)、なにかうっかりをしでかす抜けたところもないし、全体的に真面目な人になっちゃってる。
リスベットも・・・うーん、想像外の行動をするのが彼女なのに、全部想定内。
登場人物は作者の内面から生まれるもの、ってこういうことだったのね。
しかも話は終わったようでいて終わっていない・・・新しい作者は3作書くことを契約しているようで、つまり新たなる三部作の幕開けってことなんだろうけど・・・メインキャラクターが出てるけど、どうもあたしには“スピンオフ”だという感じがしてしまって・・・。
物語を別の人が引き継ぐって、ほんと難しいんだなぁ、と実感。
ラベル:海外ミステリ