2017年02月26日

虐殺器官/GENOCIDAL ORGAN

 <Project-Itoh>、有終の美。
 『屍者の帝国』のあと公開されるはずだった本作、完成直前に制作会社が倒産し、急遽『ハーモニー』が繰り上げて公開。 完成中止も危ぶまれたものの、プロデューサー自らが新しい制作スタジオを立ち上げて、一年数カ月遅れでようやく公開にこぎつけた・・・アニメ業界はいろいろ大変だとは聞いていたけれど、こういうときにそれを見せつけられるとは。 でも頓挫せずに完成させてくれたことに、まずは「ありがとう」という気持ち。

  虐殺器官P2.jpg 殺戮本能を呼び覚ますこの言葉に、君は抗えるか。

 西暦2025年、サラエボでテロリストによる手作り核兵器が爆発し、町は壊滅する。 それを契機に、テロはそれを仕掛けてきた人物たちがいる国や地域で内戦や紛争という形で顕在化する。 アメリカ軍の特殊部隊大尉クラヴィス・シェパード(中村悠一)は、開発途上にあるそんな国々で頻発する紛争や虐殺の背後に存在する、ジョン・ポール(櫻井孝宏)という謎に包まれた男の存在を知らされ、彼の捕獲作戦を命じられる。 クラヴィスは相棒のウィリアムス(三上哲)とともに特殊暗殺部隊を率いて彼の行方を追跡していくが、“殺戮の王”と呼ばれる彼の正体がそもそもつかめない。 彼と関係があったと思われるチェコ語指導のルツィア(小林沙苗)に近付くことにするが・・・という話。
 冒頭、三人称視点で物語が進むことにびっくりした(原作が「僕」による一人称のため)。 クラヴィスが登場してからは「僕」のナイーブな語りですさまじいことが展開されるのであるが、そのギャップが原作通りで(むしろ、「おぉ、あの描写を映像化するとこうなるのか?!」という意外性が強くて)、あたしは個人的に『屍者の帝国』のときのようなわくわく感に包まれた(いや、物語的にはワクワクする話じゃないんだけど・・・)。

  虐殺器官2.jpg 戦闘シーンのすさまじさと美しさには、つい目を奪われる。 虐殺というタイトルなれど、R15+の容赦ない描写もあれど、「戦いのむなしさ」もまた究極的に描かれる。

 なんでも、最初は村瀬修功監督、『ハーモニー』をオファーされていたそうであるが、諸般の事情で『虐殺器官』を担当することになったとか。 一年8ヶ月待たされるんだったら、どっちも村瀬監督で観たかったなぁ!、という気持ちになってしまった。 いや、このタイムラグはそういう意味で生まれたわけじゃないけど。
 それくらい、原作を読んだ人の解釈をそのままこの映画でも引き継げるように、という心配りが感じられ、あたしは別の意味で「胸アツ」になりました。

  虐殺器官1.jpg クラヴィスの軍人には似つかわしくない繊細さがしっかり表現されていることで(しかも展開上そのことに違和感を抱かせないあたりで)、すでに及第点なんだが。

 原作が発表されてもう10年以上。 時代設定はそこでは明確にされておらず、「おそらく2020年代?」という感じだった。 しかし映画となった時期はもう時代設定が近未来ではなくなり、そして物語自体も絵空事ではなくなっている。 伊藤計劃の描いた未来に世界は近づいてしまったのか、それとも伊藤計劃が明確に未来を予測していたのか。 
 それ故にか、ここまでかなり忠実につくってきたのに、希望と絶望がないまぜになったラストシーンを映画では変更。 希望が先行するものになっていた。
 だからこそ、この映画単体で観たときの満足度は高く、もしかして原作に挫折した人はこれを観てから読み返すと容易に理解できるのではないか、という完成度。
 だから、この世界観のその後となる『ハーモニー』を同じ監督でつくってほしいと思ってしまったのだ。 この<希望>がその後の世界にどう反映されたのか、知りたかったから(マイケル・アリアス監督の『ハーモニー』が原作と違う解釈になっていたので余計に・・・かもしれない。 別に原作通りにつくらなくてもいいのだが、その場合、原作を別方向に大きく凌駕しないことには責められる、というリスクが伴うのです)。

  虐殺器官4.jpg 美しい背景と人物の絶妙なミックス感、素晴らしい。
 そして“軍人なのにナイーブ”というクラヴィスの二面性を涼しげな目元とともに好演した中村悠一と、それとは逆にいつも以上に骨太な演技で攻めてきた三上哲(彼のほうが傲慢ながらその奥にあるナイーブさを表現するのがお得意なのだと思っていたので)のお二人のコンビ感と、ジョン・ポールの得体の知れなさを補強する年齢不詳感、大塚明夫さんら脇を固めるベテランの方々の多さ(Project-Itoh作品の中でもこれが群を抜いて登場人物が多いので)もまた満足感を高めてくれたかと。

  虐殺器官P1.jpg 最初のポスター。
     「2016年11月13日ロードショー」の文字が泣ける。

 「声の仕事はプロ声優に」と言っちゃうといろいろ各方面から論争になってしまう話題なんだけれど、とりあえずあたしは「舞台を経験した人ならば声の演技の根本をわかっている人だと思うので、舞台経験のある人ならばOK。 あとは監督の演技指導次第」だと思ってます。 場数踏めばうまくなるはずだし、声優未経験で主要キャラに抜擢されたら不安しかないけど、早くから経験積んでもらえれば。
 なにしろあたしは声優といえば広川太一郎・羽佐間道夫が両巨頭という世代なもので、<声のお仕事>に対する要求はとても高い。 最近のアニメはあまり見ていませんが、海外ドラマは大概吹替版で観ているので外画を主に吹き替える方ならばよく知っている(それに、詳しい人に聞いたところ、外画吹替えの方々はキャリア中堅以上だということなので・・・そりゃみなさんうまいわけですよ)。 それに慣れているので、「萌え声問題」があたしには今一つピンとこないんだな・・・だって、海外ドラマは40代以上の女性が主役ってこと、普通にあるから。
 なので<Project-Itoh>三部作はそのあたりも踏まえてくれた、普段アニメに接しないけどSFは好き、という観客に大きく開かれた作品群だったと思う。 まぁ、SF自体がマニアックなジャンルだと言われてしまったらぐうの音も出ないですけど。
 とはいえ、これは世界に通じる作品になっているのではないか、と思った。
 ぜひ、アメリカやヨーロッパでも配給してほしい! 『虐殺器官』はハリウッドでの実写化もありかも!
 <Project-Itoh>はまだこれからも続く。 そんな夢を、みていたい。

ラベル:日本映画 映画館
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする