2016年11月10日

ダゲレオタイプの女/La femme de la plaque argentique

 黒沢清監督、初海外進出撮影映画で、オールフランスロケ(スタッフもキャストも現地の人たち)、しかもホラー原点回帰ということでかなり前から期待していて、どうにかやっと観に行けた。 キャストにはマチュー・アマルリックの名前もあるし!
 でも、予想以上に「静かな映画」だった。

  ダゲレオタイプの女P2.jpg 愛が幻影を見せ、愛が悲劇を呼ぶ。

 世界最古の写真撮影技法・ダゲレオタイプで撮影しているプロカメラマンのステファン(オリヴィエ・グルメ)のもとで助手として働くことになった青年ジャン(タハール・ラヒム)。
 面接を受けにきたその日、ステファンの屋敷で階段をのぼる青いドレスを着た女性を見かけるが、すぐに姿を見失う。 のちにステファンの娘で、等身大ダゲレオタイプ写真のモデルをしているマリー(コンスタンス・ルソー)があの日の女性だったのかと思い、長い撮影時間に身動きしないため拘束器具に固定され続けることに黙って耐える彼女が気になり始める。 マリーは植物園で働きたいという夢を持っているが家を出ることになるので父には言い出せず、ステファンは娘を溺愛しているので許されるとも思えない。 そして、かつてステファンのモデルだったステファンの妻(つまりマリーの母親)ドゥニーズが屋敷で自殺していたことを知ったジャンは、マリーを外の世界に連れ出そうとするが・・・という話。

  ダゲレオタイプの女1.jpg マチューはファッション誌に載せる写真を依頼するプロデューサー的役柄でした。
   ステファン役の人、どこかで見たことがあると思ったら『息子のまなざし』のあの父親の人ではないか!

 青いドレスの女性が現れた段階で(結構最初のほう)、この物語の大筋は見えてしまった気がするが・・・イギリスの伝統的な“ゴースト・ストーリー”を踏まえつつ、日本の“怪談”をフランスで語ったらこうなった、という感じ。
 つまり全然怖くない。
 暗示されていることはあれどかなり省略されているので、想像はできるのだがそれは「哀しい」であって「怖い」ではない。 むしろサイコ方向に行くのではなくファンタジック方向に進んでしまったため、「ちょっといい話」的な印象さえ受けてしまう。
 もはや『Cure』のようなエッジの効き過ぎたサイコホラーを監督に期待するのは時期が過ぎてしまったのだろうか。

  ダゲレオタイプの女2.jpg 等身大写真の露光時間は70分以上。
     ちょっとずつ時間を延ばして最適時間を実験しているようにも思える。 だからこそその写真には、「時を封じ込めた」ような静謐さとリアルな存在感がある(普通の写真サイズならば露光時間は10分程度でいいようです)。
 直接銀板に被写体を焼きつけるため長時間の露光を必要とし、それ故に写真は一枚しか存在しない(焼き増しなど不可能な)ダゲレオタイプという撮影技法が、せっかく素晴らしいモチーフなのに出オチ感があるのが残念。 『ドリアン・グレイの肖像』的意味合いもあるのだとわかるのだけれど、あまりにもマリーの<現実感のない佇まい>的存在感のほうが強すぎて、“生と死の境”が最初からかなり曖昧。

  ダゲレオタイプの女3.jpg だからジャンでなくても、マリーに惹かれてしまう気持ち、わかる。

 本来、これがじわじわ伝わってくることで怖さが生まれたのかもしれないのだけれど・・・それよりも、自分の思い込みのためになにをするかわからない、生きている人間のほうがやばい、という話になってしまっているような。
 俳優さんたちはそれぞれいい仕事をしたと思うし(予想通り、マチューは「興味あるから出たいな」ときっと本人が言って来たのではないかと思うようなチョイ役だったが)、屋敷の雰囲気も悪くないのだが・・・なんでだろう(パリからちょっと離れた郊外の街並みにこんな屋敷があるのもすごいが、家と家との間隔などはやはり日本と全然違っていた)。
 昼間から幽霊が出てきてしまうことに、日本人としてはつい違和感を覚えてしまうのかしら(奥様の亡霊が現れても、どんなにアップになってもピントが合わないという工夫に感嘆はするけど驚かないのは外がまだ明るいからか?)。

  ダゲレオタイプの女P1.jpg その撮影は永遠の命を与える愛。
     (ポスターとしてはこっちのほうが好きだな)

 愛には忍耐や束縛がついてまわるものだが、そこから自由になれれば愛もまた一段階高いところへ到達できるのではないか。 なんとなく、そんなラヴストーリーだったのではないかという気がします。
 それにしてもマリーを演じるコンスタンス・ルソーさんの控えめ過ぎる佇まい、美しい。
 だからこそその存在を何枚もの銀板に焼きつけたくなるステファンの、妄執に近い気持ちがわからなくもない。
 つまりはそれが、悲劇ということか。

ラベル:外国映画 映画館
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする