2016年11月08日

怒り

 吉田修一はどうも苦手だ。 <「現実の事件をモチーフに」小説を書く>という姿勢は別にかまわないのだが、明らかにモデルとなった事件を読者に想起させてしまうのはいかがなものか、とあたしは感じてしまう。
 だったら『深紅』(野沢尚)や『記憶の技法』(吉野朔実)のように、ひとつの事件にガツンと取り組み、まったく別のテーマを描き出すぐらいの覚悟がほしい。 そうでないなら特定の事件を思い起こさせるな!、と言いたくなる。 フィクション本来の力を侮っているように感じて。 震災のような<大きな出来事>を前にして個人の物語は埋没してしまいがちだからこそ描くのは意味があるけれど、『横道世之介』が特にそうだったが、個人の物語に寄り添って読んでいても、現実のリアルな事件が出てきてしまうと一気に世界が醒めるんですよ!
 フィクションとして描かれた<現実>が、音を立てて崩れる感じ。
 ネタを考えている作者の姿が見えてしまって、面白く読んでいたはずの物語が、台無しになってしまう瞬間。 そんなふうに感じるのはあたしだけなのだろうか。 吉田修一作品が次々と映画化されるのは、それだけ人気があるからであろうし。
 そんな後ろ向きな気持ちでの『怒り』。 動機は、豪華キャストだから、につきます。

  怒りP.jpg あなたは殺人犯ですか?

 八王子で起きたある一軒家での殺人事件の現場には、血で書かれた“怒”の文字が壁に残されていた。 それから一年が経過しても事件は未解決のまま。 その頃、前歴不詳の男が三人登場する。 一人は千葉・銚子の漁港で暮らす洋平(渡辺謙)と娘の愛子(宮崎あおい)の前に現れた田代(松山ケンイチ)。 東京ではゲイであることを対外的には隠しながら仲間内でつるんでいたサラリーマンの優馬(妻夫木聡)の前には新宿のサウナで出会って同棲することになる直人(綾野剛)。 家の事情で沖縄に引っ越してきた高校生の泉(広瀬すず)がある日、泉に密かに好意を寄せている同級生の辰哉(佐久本宝)に頼んで連れて行ってもらった小さな無人島で出会うバックパッカーの田中(森山未來)。
 行方不明の犯人についての情報がマスコミを通じて少しずつ世間に出回り始めることで、「もしかしたら、彼が・・・」とそれぞれの胸に飛来する疑惑と不信。 一体誰が犯人なのか・・・という話。

  怒り1.jpg 愛子はちょっと困ったちゃんなのか、冒頭で家を出ていてお父ちゃんに探されている。 そんな娘にどうしたらいいのかわからず、叱ることもできない父。 微妙に機能不全家族。

 群像劇ではあれど、その三つの場所の人々が交差することはない。 だからオムニバス形式っぽくもあり、点描画のようでもある。
 けれど彼らに共通するのは、「誰かを信じるとしたら、その根拠は何なのか」をあらためて突きつけられてしまう人たちだということ。 普通に生活しているだけならたぶん考えないであろうことを考えさせられ、自分の弱さを見せつけられてしまうところ。

  怒り2.jpg 特に少数派である彼らはいろいろ考えることが普段から多そうではあるが、優馬的にはまず保身に走ってしまうという思考が、彼自身をより傷つける。

 なんというか・・・人とはこんなに弱くて、愚かで、どうしようもなくて・・・という話なので、タイトルである『怒り』がなんだか腑に落ちない。 怒っていいのは泉と辰哉ぐらいで、他の人々は「哀しみ」のほうが強い気がして。
 そして豪華キャストにもかかわらず、いちばん光っていたのは多分知名度としてはいちばん弱い辰哉役の佐久本宝くんだという皮肉。
 事件の動機もいまひとつよくわからないというか、伝わらない。
 うーん、トータルとして『悪人』は超えられなかったかな、という印象。

ラベル:日本映画 映画館
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする