2016年10月13日

ハドソン川の奇跡/SULLY

 最近はすっかり映画の始まる時間に間に合うかどうかばかりを気にしていて、終わりの時間にまで注意を払わないことが多くなった。 これも「セーフ、間に合った!」ということに安堵してから上映予定時間表を見て・・・「え、終わるの早くない?!」と驚いた。
 最近のイーストウッド監督作品は2時間越えのものが多かったから、てっきり今回もそうかと思っていたけれど96分とな! まぁ、帰りの時間が早くなるのは翌日への影響が少なくなるのでありがたいが・・・。
 ちなみにかつてあたしは飛行機マニアで、故に飛行機事故マニアでもあった。 『世界の飛行機事故全記録』的な大型専門書を図書館でコツコツ読破したこともある(重くて持って帰れなかったのだ)。 個別の事故のルポルタージュも結構読んでいる。 ただ、“ハドソン川の奇跡”が起こったときはその時期は過ぎていたのでネットのニュース記事を追いかけた程度だったため、あたしには新鮮でした。

  ハドソン川の奇跡P.jpg 155人の命を救い、容疑者になった男。

 2009年1月15日、真冬のニューヨーク850m上空でUSエアウェイズのエアバスA320旅客機が突然のバードストライクにより両翼のエンジンが停止した。 乗客乗員155名を乗せた飛行機はただの70トンの塊となり、急速に下降していく。 離陸した空港に戻るか別の近くの空港に緊急着陸するか選ぶように管制塔から指示が出るが、ベテランパイロットのチェズレイ・サレンバーガー機長(トム・ハンクス)は副操縦士ジェフ・スカイルズ(アーロン・エッカート)のサポートを得て、ハドソン川への水上不時着(着水)を決断。 見事やり遂げ、急を知った船舶やヘリの迅速な助けもあり、全員が生還した。

  ハドソン川の奇跡1.jpg 「まさか、朝のニューヨークに感動するなんて・・・」と呟く副操縦士。 911の悪夢がパイロットたちに与えた影響をその一言で伝えてくる。

 しかし問題はそこから始まる。 機長の決断は正しかったのか? 空港に戻った方がよかったのではないか? 結果的に死者は出なかったが、乗客を無駄な危険にさらしたのではないのか? マスコミには英雄扱いされる機長だったが、査問委員会では事故は操縦者の過失によるものではないのかと容疑者扱いされていて・・・という話。
 結果的に助かったんだからいいんじゃないか、と素人はつい思うが、事故調査委員会は今後の事故を防ぐためにも徹底的に原因を追及する。 また、着水という選択は本当に最終手段であり、かなりのリスクを伴うことは過去の事故からも常識とされている(たとえば1982年1月13日、ワシントン・ナショナル空港を離陸したボーイング737旅客機が吹雪のためポトマック川に墜落した事故では、乗員乗客79人中74人が死亡していて、“ポトマック川の悲劇”と呼ばれている)。 だから管制官も奥の部屋に閉じこもり、「着水なんてやめてくれ」と悲痛に叫んだのだろう、彼は全員死亡を思い描いていたのだから。

  ハドソン川の奇跡4.jpg すれすれ。
  ホバークラフトやセスナと違い、確かな技術がないと、大型旅客機を水上に水平着陸させるのは至難の業である。 でもそのあたりの説明が十分ではないような・・・とはいえ別の事故を引き合いに出したくなかったのだろうな。

 原題“SULLY”はサレンバーガー機長の愛称。
 だからこの映画は事故そのものを描いたのではなく、この事故にたまたま遭遇し、それでも乗り切ったサレンバーガー機長のこれまでの人生やパイロットとしてのプロ意識、妻ローリー(ローラ・リニー)や子供たちとの関係なども描く。 事故の描写は機長の悪夢として何度か再現されるけれど、真相は最後の審問会の場まで持ち越される。 それでも出し惜しみ感がないのは、やはり短めにまとめたせいもあるだろうし、乗客たちの人間ドラマの断片をうまく散りばめてあるせいかもしれない。

  ハドソン川の奇跡2.jpg 着水後、乗客に「落ち着いて」と声をかけながら残っている人が誰もいないか確認する機長。 のちに副操縦士に「私たちも脱出しましょう」と言われるも、なかなか動けない。

 審問会のシーンにどうも既視感があるなと思ったら、デンゼル・ワシントンの『フライト』に似ていたからだった(もしかしたらあの映画は、実際にパイロットがサリーのような機長ではなかったら、という発想から生まれたフィクションではなかったかと感じてしまった)。
 しかしイーストウッドは実話に<アメリカの今>をのせてくる。 これからも彼が描きたいのはいつを舞台にしようとも<アメリカの今>なんだろうな、という気がしていた。 だからこそ今回、いつの時代でも<アメリカの良心>を体現する男、トム・ハンクスが必要だった。
 アーロン・エッカートのヒゲ姿にはちょっと笑ってしまったが(老けて見える!)、でも老け加減ではトム・ハンクスも負けてはいない。 サリー本人に似せた結果なんだろうけど。

ラベル:外国映画 映画館
posted by かしこん at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする