2016年09月02日

悲しみのイレーヌ/ピエール・ルメートル

 『その女アレックス』の記憶もまだ鮮明なのにこれは読めないや、と思っていたのであるが、この10月にカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第3弾が出ると聞いて、順番は違うけどその前に読んでおかなきゃいけないかなぁ、と思ったのである。 厚さ的にも、通勤電車に持ち込むのにちょうどいい感じだし。
 <カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ>としてはこの『悲しみのイレーヌ』のほうが一作目なのである(そして作者のデビュー作でもある)。 でも内容のインパクトとしては『その女アレックス』のほうがパンチがあるので、そっちの邦訳を先にしたという出版社の事情はわかる(実際、アレックスがあそこまで売れて話題にならなかったらこっちの方は邦訳されないままだったかもしれないのだし)。
 しかし大した宣伝もしていないのに、アレックスは売れてしまった。 年間ランキングでも軒並み一位をとってしまった。 文芸春秋は戦略ミスに頭を抱えたであろうか。 それとも何も考えていなかったか。 開き直ったような邦題にはそんな捨て鉢ささえ感じさせる。

  悲しみのイレーヌ.jpg だって、この事件についてのカミーユ警部の断片的な回想が『その女アレックス』に出てくるのだから、完全なネタばれなのである。 まぁ、それを差し引いても読めるものにはなっているのだが・・・意外性は減る。

 パリ市内で、この上なく残忍に殺された女性二人の遺体が発見される。 捜査を担当するカミーユ・ヴェルーヴェン警部とそのチームは、肝心な手掛かりも掴めないうちにマスコミに邪魔されるなどして、第二・第三の事件の発生を許してしまう。 ある日、カミーユは事件の恐るべき共通点に気付き、新たな展開を迎えようとするが・・・という話。
 あらすじだけであれば「典型的なシリアルキラー物」である。
 『その女アレックス』を読んだ方々には“チーム・ヴェルーヴェン”の活躍も楽しめる。 相変わらずルイはかっこいいし。
 しかしこの事件の4年後のカミーユの姿を知っている身としては、ちょっとした描写にいちいち反応してしまう(最終的に示される事実は同じなのだが、ここでは書かれていないことがアレックスには書いてある、という意味では事件は違えども純粋な続編と言えるかも)。
 が、そこにばかり引っ張られていては第一部と第二部の構造の違いに騙される、というメタミステリになっているのだが(新本格以降の日本人作家はだいたいこれをやっているのだが)、フランス人もこの手を使うのか、という印象。 でも日本人作家とはそのスタート地点が違う気がしないでもない。 日本のメタミステリはロジック重視から派生したものが多いが、フランスはもともとの文学自体にそういう傾向があるような気がするから。
 やっぱりフランス文学は、ちょっとヘンだ!
 でもそれは、慣れ親しんでいないから、英米文学の影響がそれだけ強いから、ということなんだろうな。
 さて、『傷だらけのカミーユ』(え、更に?!)の刊行を待ちましょうかね。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする