2016年08月04日

ブルックリン/BROOKLYN

 小説ではダメ男を描かせれば絶品のニック・ホーンヴィだが、映画の脚本では女性が主人公のことが多い。 別に原作があるからなんだろうけど、「なんか女心、あらわすのがどんどんうまくなってる!」という気が。 小説と脚本という構造の違いもあるでしょうが、やはりあたしには気になる作家であります。

  ブルックリンP.jpg 愛が見えない街で、私は未来を探していた。
    アイルランドからアメリカへ――洗練されたニューヨーカーに変わっていく彼女の選択が、大切な答えを教えてくれる。

 1950年代のアイルランドの田舎町。 エイリシュ(シアーシャ・ローナン)は母と姉の三人暮らし。 町で唯一(?)の食品店で働いていたが、自らの内気な性格が因業ババアと呼んでもいいくらいの店主と合わず、つらい日々を送っていた。 そのときのアイルランドは景気が悪く、特技も資格もない若い女性が仕事を見つけるのは至難の技で。 姉のローズ(フィオナ・グラスコット)が簿記の資格を持っており、工場で安定した職を得ていたのとは正反対。 妹の将来を気遣うローズは、エイリシュにニューヨークに行ってみたらと神父様の紹介を取り付ける。 地元で暮らせない若者たちはアメリカに渡っていたのだ。 母と姉、そして友と会えなくなるのは淋しいけれど、エイリシュはアメリカに行くことに。 そこではまったく想像のしなかった世界が待っていて・・・という話。
 船に乗るときに着ていた緑のコートが印象的。 ブルックリンに住むようになっても、彼女はしばらくこのコートばかり着ている。

  ブルックリン1.jpg 百貨店の化粧品売り場で働くも・・・お客様との“気さくな会話”ができずにお叱りを受けることもしばしば。
 第二次世界大戦の傷跡が治りかけ、移民がアメリカという新天地に夢を持っていた時代。 そして田舎では、女が一人では生きていけなかった時代。 朝鮮戦争の影響で労働力を必要としていたアメリカと貧しいアイルランドの関係性も見えてきて大変切ないのだけれど、この映画の主題はそこではない。 これって「違う国に行く」とスケールアップしてるけど、どの国でも起きてたことだよな、と感じる(それこそ日本でだって、田舎暮らしの女の子が大学に行く・就職するという形で大都会に出ていく構図と同じ)。 しかも不安と期待で胸がいっぱい、というのは時代に関係ないかも。
 で、エイリシュは神父さんの紹介だからアイルランドから渡ってきた女性たちがまとまって住む家に下宿することになり(その家主のおばさまがジュリー・ウォルターズで、口は悪いがアイルランドの因業ババアと違って実は心根は優しい)、デパートの売り子という職も得て、あたかも寮生活を送っているよう。 生活はアイルランドにいた頃より明らかに上向いているのだが、彼女を捉えているのはホームシック。 そうだよね、知っている人が誰もいない知らない土地だもんね、と子供の頃から転居の多かった(そして親の都合で子供の頃から一人で留守番が多かった)あたしはちょっとしみじみ。 あたし自身はもう慣れてしまってあの頃の不安な気持ちとか明確に思い出すことはないけれど、エイリシュに共感はできる。
 とはいえ、彼女は若い女性である。 いくら内気な性格とはいえ時が経てば順応する力がある。 緑のコートを変えたとき、彼女には新天地で生きる覚悟と自信が育っている。
 そんな感じでファッション(着る服の色や持ち物)でこんなにも心情や状況をわかりやすく表現している映画は珍しいかもしれない(だいたいの映画でやってますが、ここまで露骨にわかりやすいのはやはり珍しいと思う)。

  ブルックリン3.jpg 勿論、彼氏もできちゃうよ。
 そんなエイリシュの成長物語ですが(そういう意味ではNHK朝の連続テレビ小説に近いものがある)・・・ブルックリンでの生活が順調に見えれば見えるほど、この先になにかがありそうでドキドキしていると、急にアイルランドに帰らなければならない事態が勃発!
 そして久し振りに帰ってみた故郷は、かつてと違って多少景気は良くなっており、なによりニューヨーク(ブルックリン)で得た自信と努力と資格と時間がエイリシュを美しく変えていて故郷の人々の態度や反応もまったく違っていることに気づく。 あんなに息苦しかった町が、今は自分をあたたかく迎えてくれている・・・かつてダンスパーティーで壁の花だった自分が、あたかも主賓のようにパーティーに招かれる、そんな状況に感慨を持たない女などいるか? 親友の結婚式まで滞在してと言われ、その間手伝ってくれと仕事のオファーもあり、やはり家族と暮らせるのはいい、と思ってしまうのは当たり前。 いくらブルックリンに彼女を待っている人がいたって、心が揺れてしまうのは当然、だって若い女の子だもん。 結婚相手で人生が決まってしまう時代なんだから。

  ブルックリン2.jpg 役に立つ若い娘を逃してはならんと町ぐるみでお見合い的なことに。 相手はお坊ちゃま風ハンサムのドーナル・グリーソンでびっくり! 『エクス・マキナ』のときよりかっこいい・・・。
 だから帰郷後のエイリシュの行動はひどい、と多くの人は思うでしょうが、あたしは彼女を責める気にはなれない。 もし自分でもそうなってしまうかもしれないし、と図々しくも考えてしまうのは、ひとえにシアーシャ・ローナンがしっかり<ごくごく普通の、どこにでもいそうな女性>を素晴らしく演じていたからではないかと。 それにしてもつい数年前という気がしていた『ハンナ』『ラブリー・ボーン』の頃にはあった“少女性”ががらっと姿を変え、すっかり大人の女性になってしまったことにびっくりです。
 以前、こっちでできた友達にあたしは引っ越しが多かったので故郷というものがどこなのか認識するまで結構時間がかかったという話をしたとき、「生まれてからずっと同じ家で暮らしてきて、学校も会社も家から通って、結婚相手もわりと近所の人で、私はずっとこのエリアから出たことがないから、ちょっとうらやましい」と言われ・・・でも一カ所にずっといるという経験はあたしにはないのでそれはそれでうらやましいかも、とないものねだりごっこをしたのを思い出しました。
 故郷を決めるのは自分自身。
 映画としては新しいものはないのだけれど、そんなふうに観た人の心を揺さぶる古典的なスタンダード性を持ち合わせたこの作品は、その丁寧なつくりと相まって「あぁ、映画を観たなぁ」という贅沢な気持ちを味あわせてくれた。 帰り道は、とても満足感でいっぱい。
 申し訳ないが『TOO YOUNG TO DIE』とは比較にならんな、と思ってしまったのでありました。
 もっとも、あっちも比較してほしいとは思っていないだろうけれど。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする