2016年07月08日

探偵は壊れた街で/サラ・グラン

 いわゆる<女性私立探偵もの>というジャンルにくくられる内容ですが、裏表紙のあらすじによれば「クレア・デウィットはただの女探偵ではない」と宣言されております。 誰とも違うやり方で真相に近付き、うぬぼれではなく自分が最高の探偵だとわかっている。 そんな人の一人称、というところが気になりました。

  探偵は壊れた街で.jpg タイトルが『女探偵は――』ってなっていないところもいい。

 2007年のニューオーリンズ、クレアは依頼人から失踪したおじの捜索を頼まれる。 ハリケーン・カトリーナの傷跡がまだ色濃く残るその街では今もまだすべての機能は回復していない。 地方検事補でもある依頼人のおじはハリケーンで命を落としたのかもしれないのだが、嵐が去った後の目撃情報もありはっきりしたことはわからない。
 その街には思い出したくないことが多いクレアだったが、諸々の事情で引き受けることになり・・・という話。
 事件自体は特別珍しいことではないのだが、やはり独特なのはクレア・デウィット独自の探偵術。 フランスの探偵ジャック・シレットが書き残した『探知』という本に出会ったのがクレアが探偵になったきっかけだが、この『探知』が至るところに顔を出す。 そしてクレアもほぼ全文暗唱しているようで、ふとしたきっかけで『探知』の一節がよみがえり、それが新しい方向を示したり、彼女に確信を与えたりする。 必要ならば酒を飲みマリファナを吸い、銃も自在に操るし、占いや夢の結果も受け入れる。 すでに故人となった師匠コンスタンスの存在もまた、今も彼女に影響を与えている。
 古典的な探偵像(特に論理や証拠を重要視するタイプ)とはかなりかけ離れている。 一歩間違うと、結構あぶない人である(すでに過去に彼女と関わりを持った一部の人たちからはそう思われているようだが)。
 ニューオーリンズ描写もいろいろと痛々しい。 アメリカ社会の病巣は深い。
 全然違うのだけれど、あたしはキャロル・オコンネルのキャシー・マロリーのことを思い出した。 彼女は刑事だけれど一匹狼で、天才すぎて誰も彼女の行動についていけない。 あっちは三人称なのでよりマロリーの特異さと孤独が浮かび上がるのだが、もしもクレア・デウィットが一人称で語られなかったら読み手が受ける感覚は意外に近いかもしれない。
 夢に現れる行方不明の幼馴染の親友の存在とか、クレア自身にも(本作でもそれなりに描かれてはいるけれども)様々な謎やら傷やらがありそうです。 シリーズ2作目もつい最近邦訳出ましたし、独自路線を進む女探偵の登場を祝いたい。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする