2016年07月02日

オータム・タイガー/ボブ・ラングレー

 東江さんの訳本はもう残り少ないのだから大事に読まねば、と思っていたのに、読み始めたらもうダメだった。
 「ゆっくり読め!」と自分に言い聞かせているのに、気がつけば一気読み。 別に涼しい土地の話でもないのに! 恐るべし、東江一紀、恐るべし、ボブ・ラングレー。
 主人公のジャック・A・タリーは自分のことを何のとりえもないごくごく平凡な男だと思って生きてきた。 定年を4日後に控えたその日、彼の静かな生活は一変する。
 東ドイツ諜報機関の大物から亡命をしたいと申し出があり、その接触要員にタリーを指名してきたのだ。 意味がわからないままパリに飛ばされるタリー。 そこに待っていたのは30年以上前の出来事、終戦直前の記憶だった・・・という話。

  オータムタイガー.jpg <オータム>とは<人生の秋>を指す。

 そもそもタリーの現職はCIA第三部門本部長である。 若い頃は諜報活動に従事していたことはあるものの(当時は戦争中だから誰もが通らねばならない道のようなものだ)、その後は事務屋一筋。 が、待ってほしい。 自分は何のとりえも特徴もない男だと思っているやつが、そもそもCIAに入るのがおかしい。 彼の自己認識は他者とは違っている、でもそこがタリーという人物の面白さというか、奥深さになっている。
 で、物語は70年代後半から一気に1945年にさかのぼり、タリーの体験した“困難極まりない秘密指令”の話になっていくのだが・・・これがもうハラハラドキドキの連続で、だからこそ読むのが止められなかったのだ。
 東江節の特徴のひとつであるユーモアが抑えられているのにこんなに読ませられるとは、原文の緊迫感を違和感なく日本語にしているからか、もともとの物語の構成が素晴らしいか、きっと両方だろう。 連合軍側でもダメなヤツはいるし、ドイツ軍だからって全員が極悪非道ではないという描写も(甘っちょろいのかもしれないが)、21世紀から読めばフェアに感じる。 結構人がバタバタ死んでいるのであるが、読後感が不思議と悪くないのはそのせいもあるかもしれない。
 『北壁の死闘』も面白かったけど、これも素晴らしかった。 味わいが全然違う。
 ボブ・ラングレー、図書館で発掘しようかなぁ。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする