2016年06月24日

シチズンフォー スノーデンの暴露/CITIZENFOUR

 いわゆる2013年に世界に激震が走った『スノーデン事件』について、その頃のあたしはニュースをきちんと追いかけていなかったので、部分的な印象だけが残っている。 つまり、「元NSA職員が機密情報をリーク」・「ロシアに亡命、ってことは旧ソ連のスパイ?」的な。 ウィキリークスのごたごたもあったし、どこまでが本当でどこからが本当じゃないのか、判断する術はなかった。 でも本当にスパイならここまで名前と顔が全世界に広まることは避けるはずだし、とりあえず殺されなくてよかったですね、と思ったのだった。
 で、この映画。 なまわかりにもなっていないこのことについて詳しくわかるかもしれない、と考えたのは事実である。 でもこの種のドキュメンタリー映画はスピードが命。 本国で2014年に制作されたこの映画の日本公開が2016年って・・・問題なく上映するためにはそれだけの時間が必要だったのだろうか、とかつい考えてしまう。

  シチズンフォーP.jpg 国家は、あなたを監視している。

 そもそもこの映画、イラク戦争やグアンタナモなどアメリカ政府の矛盾を批判するドキュメンタリーを撮っていたローラ・ポイトラス監督本人にスノーデン氏が接触をとったところから関係は始まっている(そのときは当然匿名だし、メールの暗号化の相談からスタートしている用意周到さである。 ちなみにドキュメンタリーの内容から、監督自身も政府から監視され、様々な妨害を受けてきたらしい)。
 だから<スノーデン事件>を総括する後追い映画ではなくて、リアルタイムで進行する様子を映し出す『24』手法なのである!
 動いて喋るエドワード・スノーデン氏はこちらの予想よりはずっと若かった。 けれどCIA・NSAにいたというその経歴から、気持ちをあまり表情に出さないような訓練をしているのだろうか、と感じるほどに彼はその場にいる誰よりも冷静に事態を把握し、その重要性・危険性をわかっていながら、誰よりも静かな笑顔をたたえ、態度も言葉も丁寧だった。

  シチズンフォー2.jpg むしろ動揺しているのは英ガーディアン紙の記者の方。 ちなみに彼らが実際に会ったのは、香港のあるホテルの一室。
 こっちは事情をわかっているからだんだん彼も動揺していることが見て取れるんだけど、それを知らなかったら何もわからないままかもしれない(しかも彼は不安の理由を「恋人が心配で」などときちんと言語化する。 コンピュータおたくにありがちの、合理的かつ理性的なタイプだった)。 たとえどんな心情であっても、キーボードをたたく手のタッチの軽快さは変わらない。 もしくは、それが彼の理性を保つための手順だったのかもしれない。
 携帯電話のSIMカードを抜く、ぐらいは常識だと知っていましたが、「IP電話も普通に盗聴されてます」とさらっと言われると「あぁ、ネット回線使っているもんね」とあっさり納得してしまう自分もいる。 すべてがデジタルに変わってしまったことで、勿論便利にはなっているけど逆にとってもまた便利なのだということ。 むしろアナログ時代のほうがそういう面では安全だったんだろうな。
 ときどき、「はっ、リアル『ジェイソン・ボーン』か!」と思ってしまう瞬間があったりする。
 最初にCNNがニュースを流したときもキャスターは「ジョン・ル・カレの小説のようだ」とも言っていたしね。 やはり人はショッキングな事実に出くわすとフィクションと比較してしまうようです。
 そして、香港のホテルで彼が持っていた本は『HOMELAND』だった(あのドラマの原作本なのかどうかはわからない)。 けれどドラマ『HOMELAND』のシーズン5のオープニングで、「スノーデンは卑怯だ」というどこかのニュースから採ったらしい誰かの言葉が入っている。 なんて皮肉だ。

  シチズンフォー3.jpg CNNやガーディアンの一連のスクープ後、彼は<国家による監視>反対派のアイコンに。 彼以外にも<国家による監視>は存在しているといっている人たちはいたのだが、彼ほどリアルな証拠を提示できていなかったのだろう。
 つまりはスパイ行為を働いていたのはアメリカ政府側の方で、なのにそれを告発した彼のほうがスパイ呼ばわりされる不可解さがまかり通る<国家>というもののおかしさの話なのだ(勿論、そのことは誰よりも彼がいちばんわかっていたが)。 国連の仲介が入り、彼はジュリアン・アサンジ氏と同様、エクアドルに行く予定だったようだ。 しかし、彼はロシアにいる。 アメリカの“手”は逃れたかもしれないけれど、ロシアが彼の安住の地だとは思えなくて、いろいろと重苦しい気持ちになった。
 確かに<テロとの戦い>の現場にいる人々にとっては些細な情報が生命線になることもあるだろう。 “愛国者法”を前にしたら個人に対する“些細な”人権侵害など取るに足らないと思えるかもしれない(実際、テロ後のボストン市民たちの中には「テロを起こされるぐらいなら多少の人権侵害は気にしない」と発言した人もいたらしい)。
 だが、どこで線を引くのか。
 盗聴・監視の網が世界中に広がっている現在、何をどうすれば元通りになるというのか。
 『パーソン・オブ・インタレスト』はそんな現在を好意的に解釈しようとした物語だったけど、シーズンが進むにつれダークな内容になっていっているのは、だんだん事態が現実に近づいているということなのかもしれない。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする