2016年06月20日

海よりもまだ深く

 映画館でチラシを見た時、「これって『歩いても歩いても』の変奏曲?」・「是枝監督、最近ペース早くない?」というふたつの疑問がほぼ同時に沸き起こった。
 なんとなく、ドキュメンタリータッチの内容で無名の役者を使う感じだった初期の作品群に比べると、『誰も知らない』のあとの『花よりもなほ』以降は有名な人を使うようになったし、ここ最近は同じ俳優さんを続けて起用している。
 やっぱりその方が楽だからなのかな? そして宣伝上手なフジテレビと組み続けているからかな? 作品を観る前から、そんなマイナスイメージを持ってしまった(それは個人的に『海街diary』に対する恨みが残っているからか?!)。
 ていうか、主題歌がハナレグミってだけでもうずるいんですけど!

  海よりもまだ深くP.jpg 夢見た未来とちがう今を生きる、元家族の物語。

 15年前に文学賞を受賞し、そこそこ売れた小説家としての過去はあれども、二作目が書けない良多(阿部寛)は、「これは小説のための取材」と言い訳がましく現在は調査専門の探偵事務所で働いている。 良多は離婚した元妻の響子(真木よう子)と息子の真悟(吉澤太陽)に未練たっぷりで、また小説を書きあげて認められれば家族が再生できると思っている節があるが、月に一回の面会日にも約束の養育費を渡すことができないほどだらしない生活を送っているのに、響子に恋人ができたことを知ると動揺して尾行してしまうほど情けなく、探偵事務所の若手所員(池松壮亮)に笑われる始末。
 一方、良多の母・淑子(樹木希林)はふがいない息子にあきれつつも無償の愛情を注いでおり、妹(小林聡美)は兄がなにか母につけこむのではないかと警戒している。 そんな、よくありそうな家族の物語。

  海よりもまだ深く1.jpg 樹木希林と小林聡美が母娘だなんて反則過ぎるキャスティングでしょう! 辛辣な会話がポンポン飛び出してもむしろ微笑ましいという素晴らしさ。
 あたしは比較的“ダメ男”に耐性があるというか、それはそれとして受け入れられるタイプかなぁ(自分の近くにいるなら別の話ですが、物語としてなら大丈夫というか)と思っていたのですが・・・良多さん、ダメでした。 何故ダメかを考えると、「お金にルーズなところ」。 人のこと言えないくらいあたしもルーズなところありますが、こやつは絶対にやってはいけないことを平気でする(つまり、養育費として準備したお金がちょっと足りないからと競輪につぎ込み、勿論すってんてんになってしまうのだ)。
 この、「絶対手をつけてはいけないお金」を、「もっと増やせる」という根拠のない自信で使っちゃう、この金銭感覚のゆるさは許せるレベルじゃない。 そりゃ離婚されるわ、というか結婚前に気づけ!、とどっちにも説教したい感じで、子供がかわいそうです(普通の少年時代を持てない彼は、絶対アダルトチルドレンになるわ)。 元奥さんが働いているから、自分が養育費を出さなくてもなんとかなるだろと甘えているようにも思え、「だったらそんな約束するな!」なのです。
 祖母の愛情があるから息子くんのバランスはなんとかなっている部分もあるだろうけれど・・・自分の母親がお金や生活のため(自分の将来のためも含む)に再婚を考えている、というのは複雑な心境だろうな、と胸が痛むのであります(すでに彼は子供なりに気を遣い、父・母それぞれにいい顔をし、下手な大人より苦労していると思う)。 恋愛や結婚がダメになるのは当事者の問題だけど、子供が介在したら問題はもっと別のところにあるってこと、みなさんわかって!、って感じ(でもそういう人たちならこんなことにはならない気がするが)。

  海よりもまだ深く3.jpg 面会の日、「用があるから」と去っていく母親を見送る息子の表情には何とも言い難い不安が・・・父親が嫌いなわけじゃない、むしろ父と母が元通りになってほしいといちばん思っているのは彼なので、自分の意思が反映されない・自分の存在が役に立たないことにいちばん傷ついているのも彼で。 そのことに両親は気づいているのだろうか。 少なくとも父親たる良多は、自分の見栄を張ることに精一杯で、それを息子にある程度見抜かれていることに気づいているのかどうか。 ほんとかっこ悪い。
 どうしても、こういう話をあたしは子供視点で見てしまうようです。
 ちょっとしか出てこない橋爪功の役回りは何の意味があるんだろう、と思えば・・・結局、傍から見たら社会的に成功したと思われるような人も、「かなわなかった夢」というやつを抱えていて、その燻りをどうにかするためにその後の人生を生きてしまう、ということなのかもしれない、と納得。 男性のほうがロマンチストだとよく言われますが、男性全部がそういうわけじゃなく、そういう傾向の人が多いかもってことで、その傾向の中でも度合いの強い弱いがあるってことなんですかね。
 そんなわけで良多に対してとてもいらだってしまったので、<かなえられなかった夢のあとの時間を生きる>というテーマになかなかそぐえないまま観てしまった。 探偵家業でコンビを組んでる若者(池松くん)的視点で彼を観ることができれば楽しめたかもしれないのだけど(自分の想像を超える存在として良多のことを面白がっているように見え。 だから返ってこないの承知の上で一万円も貸すし、競輪場とかにもついていってしまうんだろう。 好意は持っているけど絶対自分はこの人に影響は受けない・真似しないという自信があるから。 そしてダメな父親の“本音”を間近で見られるから)、あたしにはそれは難しいことだった。

  海よりもまだ深く2.jpg 別の種類の生き物、ぐらいのスタンスで接するのがいちばんストレスもかからなくていいかも。 生きてきた時代が違う感じがあるのも大きいかと。 池松くん、『MOZU』と全然違う“普通の(社会人としての)若者”を好演しています。
 それはもしかしたら、響子が良多を許せないのと根本は同じ感情なのかもしれない(違うのは、あたしが良多に対してかけらもいい感情を抱けないところだけど。 ダメ男でも阿部寛が演じれば許されるということなのか、それとも一般的な基準でも彼は<愛すべきダメ男>の範疇なのか、よくわからない)。
 「なんで男の人はいつまでも夢をあきらめないのかねぇ。そのほうが幸せになれるのに」などと達観したいい言葉をいう祖母であるが、同時に、「最近はねぇ、女の人も学があると自分で稼げちゃうからさ」という(その年代の方にとってはそういう価値観なんだろうけど)残念な発言もあり・・・まぁそこが、“普通の人”であるってことなんでしょうけれど。
 <普通の人が普通の人生を送る>、ということの難しさがここでは描かれているのかもしれない。 普通ではない人、自分で思っている普通と世間一般の普通との誤差、普通のつもりだったのに結果的に普通ではなかった、とでもいうような。 それは「普通とはなにか」という大問題に答えがないからなんだけど。

  海よりもまだ深く4.jpg 多分、彼女の求める<普通>は良多の求めるものとは違う。 そもそも良多は普通を求めてはいないと思う。 かつて二人が惹かれあった理由はその“違い”だったのだろうけど・・・。
 ただ救いは、ダメ男くんにほんの少しの“成長”を与えてくれること。
 「父親として生きる」という本当の意味をつかみはじめた彼の姿を。
 ・・・多分、あたしに<家族>は鬼門なのだ。
 団地は、かつては誰もが住みたい場所だったのかもしれないけれど、当時の設計者・施工者たちはこんなに長く人が住み続けることを想定していたんだろうか。 エレベーターもなく、バリアフリーには程遠い。 当時は個人の住宅にエレベーターをつけるなんてこと自体ありえないことだったんだろうか(コスト面と、住む人の若さかな〜)。 高度経済成長期といえば聞こえはいいけど、勢いだけで後のことを考えていなかった気がする。 もしくは、すぐに建て替えることになるかもしれないと考えていたのかもしれない。
 それもまた、思っていたのとは違う未来。
 子供は親を選べない。 そして親もまた子供を育てていく過程で一緒に成長していくという。 最初から完璧な親などいないけれど、でも親となったからには、できるだけ子供に負担のかからない生き方をしてほしい、と願うのは難しいことなのだろうか。
 そんなこと、「子供がいないやつに言われたくないよ」って吐き棄てられて終わっちゃうかもしれないけど、普通の子供時代を送れなかった子供は、多かれ少なかれ大人になってから子供時代を取り戻そうとするものなんですよ。 そうしないと自分が大人になることに納得できないというか(勿論、個人差はあります)、そんなアダルトチルドレンからのお願いです。
 家族の物語をずっと描き続けている監督も、多分普通の子供時代は送っていないんじゃないかな。 すごくプライベートな部分に踏み込んでつくった作品なんじゃないか。 そんな気がしました。

ラベル:映画館 日本映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする