2016年06月09日

さざなみ/45 YEARS

 シャーロット・ランプリング、好きです。 そんな彼女の“キャリア最高の演技”、と言われたら期待も高まります。
 結婚45周年記念したパーティーを週末に予定しているジェフ(トム・コートネイ)とケイト(シャーロット・ランプリング)。 が、月曜にジェフに届いた手紙には、ケイトに出会う前の昔の恋人(山岳事故で行方不明、死んだと思われていた)が、スイスの氷河の中で凍りついたまま眠っているのが発見されたという知らせ。 彼女の存在をまったく知らなかったケイトには思いもかけない衝撃だが、ジェフは美しい思い出に浸り始めてしまう。 順風満帆であったはずのこれまでの45年は音を立てて崩れていくのか、それとも二人はまた更に絆を深めるのか、パーティーまでの6日間を追う物語。

  さざなみP.jpg 妻の心はめざめ、夫は眠りつづける――

 オープニングのケイトと郵便配達人との些細な会話のやりとりで、ケイトがとても心優しく、気遣いの出来る人だと十分にわかる。 それに対してジェフは言葉が足りていないぶっきらぼうなタイプ(あたしは最初、ジェフはかつて軽い脳梗塞かなにかを患ったのでは?、と感じたのだが、劇中ではそれらしきことを示唆するものはなかった。 現在進行形の認知症初期も疑えるが・・・違うのならジェフはかなりデリカシーのないタイプだ。 一般的な男性全般ともいえるが)。

  さざなみ3.jpg 週のはじめ、愛情豊かに接するケイト。 こんなやさしい笑顔を向けてもらえる幸せ、わかっているのか!
 実際にもよく見かけますよね、こんな素敵な女性がなんでこんな人と結婚したの?、的なご夫婦。 あたしにはケイトとジェフはそんなふうに見えてしまったけれど・・・こればっかりはご本人たちにしかわからないことだし、驚いたことにケイトはジェフを深く愛し、それ故に心配してまめまめしく世話してしまう。 でもジェフはそれを普通のことと受け取ってしまう節あり!
 おまけに、不用意にも死んだ恋人のことを(遺体が見つかったという驚きのせいもあるだろうが)「僕のカチャ」と口走ってしまうという大失態。 しかし本人は失態と気づいていないし、動揺しているときだからこそ本心が出るともいえるし、そりゃケイトとしては心穏やかではいられないでしょうよ。 「きみと出会うずっと前のこと、昔のことだよ」では済まされないなにか、自分自身のこれまでを全否定されたと感じてしまうのも無理はないかと。
 あたし自身は45年も生きていないので、自分で決めて45年一緒に生きてきた相手にまるで裏切られたかのような感覚は想像するしかないんだけど・・・それは“嫉妬”なんていう軽いレベルではないことはわかる(そもそもケイトは嫉妬で我を忘れるような性格ではないと描写されている)。
 ほぼ二人芝居だし、ケイト目線で描かれるせいもあり、無神経にしか見えないジェフにいらっとするけれど、多分ケイトの感情はそれ以上。
 映画的表現としては<さざなみ>のように静かですが、実際は荒れ狂う暴風雨。

  さざなみ5.jpg 自分の感情を抑えるように、振り切るように一心不乱にピアノに向かうケイトの横顔は・・・美しくもかたくな。
 男は過去を美化し、女はもっと現実的―ともよく言われますが、ジェフは昔の恋人との美しい思い出に酔いすぎて現実・すぐそばにいるケイトをないがしろ。 それが一時のことだと思えればいいだろうけれど、そもそもジェフはそんな過去をケイトに話していない・これまでもずっと彼女は彼の心の中にい続けていたのかもしれない・そして自分とは得られなかった何かを彼女とは得たのかもしれない、となれば自分は、自分との45年間(結婚以前の付き合いを含めればそれ以上)はなんだったの?、ってなりますよ・・・。 そしてケイトはさんざんサインを出しているのに、ジェフはまったく気付かないし、もしくはフォローが遅い。

  さざなみ4.jpg だんだん態度が冷たくなっていっていることに気づいているのかいないのか・・・。
 これを観て、「ケイト、ちょっと気にしすぎじゃない?」と思った人! あなたはジェフのタイプです、気をつけてください!
 結局のところ、どれだけ長く暮らそうとも、傍から見てどれだけいい夫婦だと思えても、その実態はとても脆い―二人が常に壊さないようにと気を遣っていかないと結婚生活も愛情も、些細に思えることで足元をすくわれることがある、というへたなサイコホラーより怖い作品。 勿論、それを芸術の域に高めているのは、シャーロット・ランプリングの微細な表情・態度の違いで伝えてくる感情。
 スリムジーンズがこんなに似合う70歳ってだけで反則だけど!
 パーティーでかける音楽が二人の思い出の60年代ソング、“ハッピー・トゥギャザー”や“煙が目にしみる”だったりするのがなんとも・・・そしてジェフのケイトへの愛と感謝を込めたスピーチが白々しいというか、自分に酔っているだけに聞こえてしまうのがなんとも・・・そういう気持ちがあるのなら、普段から態度なり言葉で示さないと。
 恋愛や結婚だけでなく、人間関係の根底は信頼です。
 <ラスト15秒の衝撃!>に偽りなし!
 ・・・あたしは茫然となりました。 今も結構、引きずってます。

ラベル:外国映画 映画館
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする