2016年06月05日

アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち/THE EICHMANN SHOW

 勿論、あたしの動機はマーティン・フリーマンなんだけど、『ハンナ・アーレント』でアイヒマンを<凡庸な悪>と結論付けたきっかけの裁判をテレビ放送する側から描く、というところも気になりました。

  アイヒマンショーP.jpg アウシュヴィッツの真実を伝えるために――。

 1961年。 ホロコーストに関与し、数多くのユダヤ人を強制収容所に送り込んだ最高責任者とされる元SS(ナチス親衛隊)将校アドルフ・アイヒマンの裁判がエルサレムで行われることになった。 アメリカのテレビプロデューサーのミルトン・フルックマン(マーティン・フリーマン)はこの問題に関心を寄せ、裁判の様子をカメラに収めて世界各国で放送しようとイスラエル側に掛け合う一方、撮影監督としてドキュメンタリー監督の長いキャリアを持つレオ・フルヴィッツ(アンソニー・ラパリア)を招聘。 出来る限り集めた少数精鋭のスタッフで世紀の裁判の模様を放映しようと意気込むのだが、次から次へと問題が発生。 更にナチ残党の脅迫を受けながらも、ミルトンとレオは時に対立しつつも映像を世界に届けることに尽力する・・・という話。

  アイヒマンショー4.jpg 知名度的にはマーティン・フリーマンのほうが上だからでしょうが、実質はダブル主演です。

 そもそも、この“アイヒマン裁判”が公開されるまでホロコーストの実態を世界が知らなかった・知っていたとしてもそれほど本気にしていなかった、ということに驚く。 ドイツの一般市民が全貌を知らされなかったのはわかるのだが(自国内で都合の悪いことを国民に知らせる意味がない)、特に敵国側は世界にむしろ知らせておきたい情報なのではないか(自分たちの正当性をより主張できるじゃないか)。
 それでも知っている人は知っているから、「当事者たるイスラエルに冷静で法的に正しい裁判ができるのか」という懸念が生じるわけだし、それを証明するためにテレビクルーが入れたという事情もあり、イスラエルにとっては国家として世界に認められる絶好の機会でもあったわけで(でも現代視点でつくられているなぁと思うのは、ミルトンにイスラエルとパレスチナ問題をさらっと語らせているところだ)。

  アイヒマンショー3.jpg でも判事から「テレビカメラが見えるのは裁判自体に影響が出る」と言われて契約を破棄されそうになったり・・・様々な工夫と努力で中継録画にこぎつけたスタッフたち。

 で、時節悪く(?)、裁判が始まってからガガーリンが宇宙に行ったりで視聴率競争で負け、「もっと使える、視聴者に訴える画を!」と叫ぶミルトンと、アイヒマンの本質に迫ることに執着するレオとの方針の違いがぐんと明らかに。 視聴率至上主義のテレビマンとしては「アイヒマンは“怪物”でいいじゃないか」なのだが、ドキュメンタリー監督の使命としてレオは「アイヒマンは特別な“怪物”じゃない。 そんな状況に置かれれば誰だってアイヒマンになりうる」ことを証明したいのだ。 それは誰も認めたくないことであっても。
 が、アウシュヴィッツ生還者たちの証言が始まると、その内容にスタッフ全員が息をのみ、視聴率云々の発言すら消し飛んでしまう(実際には世界中も息をのんで見ることになる)。
 当時の映像が裁判の証拠として(映画の中でも)ふんだんに使われ、クルーの中には耐えられずに退席してしまう者もいる。 むしろ2016年を生きているあたしのほうがそういう映像に耐性があるというか、これまでに見たことあるのが奇妙な気がした。
 でもこのような<証拠映像>を当時撮った人たちがいたわけで、彼らは実態を知っているはずではないか。 誰がどんな目的で撮ったのだろう、と考えるとそれはそれでうすら寒い気持ちに・・・。

  アイヒマンショー2.jpg 結局、アイヒマンは何者だったのか・・・そんな問い自体が一種の不毛。

 マーティン・フリーマンはいかにもテレビマン的な俗物っぽい部分から、家庭を愛するよき夫・よき父であり、圧倒的な事実を前に「報道とはなにか」という根本に立ち返るいい意味での素直さと、清濁併せ持つ人物としてミルトンを好演。 しかしレオ・フルヴィッツ演じるアンソニー・ラパリアに一歩譲った感があるというか、あたしにはレオの方が惹かれる人物だった。 職人的頑固おやじ気質のせいですかね!
 ホロコーストに関して新しい情報は出てこなかったんだけど(テレビクルーの奮闘ぶりというのは知られていないことですが)、こういう映画を今イギリスがつくった、ということに意味があるのでしょうね、きっと。 イスラエル・パレスチナ問題への融和への布石、だと思いたいところです。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする