2016年06月14日

エンド・オブ・キングダム/LONDON HAS FALLEN

 ジェラルド・バトラーもアーロン・エッカートも好きです。 でも<『エンド・オブ・ホワイトハウス』、待望の続編!>といわれても心が躍らないのは何故なのかしら。 舞台がロンドンに移っても、「どうせ、“ひとり『24』”なんでしょう?」という感じがしてしまうから?
 けれど前作から(生き残った)ほとんどのキャストが続投、というのは大変珍しく、それが気になって・・・悩んでいるうちに公開二週目で上映回数がぐっと減り、「これはヤバイ!」と思ったところにレイトショー復帰で、「もしかして最終週かもしれない・・・」と『64』よりも先に行ってしまいました(実際、最終週でした)。

  エンドオブキングダムP.jpg 今度の標的は、“世界”。

 あのホワイトハウス襲撃から数年後、アメリカ合衆国大統領ベンジャミン・アッシャー(アーロン・エッカート)のそばにはシークレットサービスのマイク・バニング(ジェラルド・バトラー)がいた。 ある日、イギリス首相急死の知らせが入り、各国首脳がロンドンで行われる葬儀に参列することになる。 テロの格好の標的となる脅威を感じたマイクは出来る限りの予備対策を講じてロンドン入りするが、テロリストたちの計画した<同時多発テロ>は想像の域を超えたレベルで発生し、各国首脳はほぼ暗殺、ロンドンの街が焦土となる勢いで多数の犠牲者が出る。 唯一生き残ったアメリカ大統領を捕獲・公開処刑とするためにテロリスト集団は彼を追い、マイクは徹底して護衛のために同行、逃げ道を探す・・・という話。

  エンドオブキングダム1.jpg 今回は、常に二人連れ。
 前作は北朝鮮のテロリストがホワイトハウスを占拠、「第七艦隊を“Sea of Japan”から撤退させろ」という日本人にしかわからないギャグを飛ばしてくれたものの、朝鮮半島と日本海問題なのに国家としての日本の存在は大胆スルーだったので、「英国首相の葬儀に各国首脳が参列」という設定でも日本の首相は出てこないと思っていましたが、なんと出てきました! しかしテロ対策に国として危機感がないことが丸わかりの描写で、「だったら出てこなくてもよかったのに・・・」と思ってしまった(そして「これで世界が変わる」とほくそ笑むテロリストに、「ごめん、日本は首相が代わっても変わらないよ」と心の中で呟くのでした)。

  エンドオブキングダム4.jpg とりあえず山程の爆発、銃の乱射はお約束なれどスケールが大きくなっております。
 うーむ、これはアメリカとイギリスの同盟強化のための映画か?
 しかし過去にはロンドンでも同時多発テロはあったし(映画の中で、大統領とマイクが逃げ込む地下鉄がチャリング・クロス駅なのが笑えない)、フランスでもつい最近起こったばかり。 リアル<今そこにある危機>を描く覚悟もあるのでしょうが、そして徹底して容赦ない描写にすることで逆に現実味を失くして娯楽作にしようという意図があるのかもしれませんが、いろいろつらいです・・・。
 けれどニヤリとしてしまったのは、本国で指揮を執るモーガン・フリーマンが前作より若返っている!、ということ。 前作では下院議長だったのですが、あの<ホワイトハウス陥落事件>を無事におさめた表の功労者ということで支持率上昇したのか、この時点では副大統領になっております!

  エンドオブキングダム2.jpg 堂々たるスピーカーぶりに惚れ惚れ。
 逆に、彼がいるという安心感がアメリカ側の描写から不安を打ち消す作用になっており、ここも続投しているらしい国防長官(メリッサ・レオ、あれ、国務長官だったかもしれない)がいくら悲痛な表情をしようとも、あたしの方にはあまりぐっと来ないという・・・モーガン・フリーマンの安定感が逆に邪魔になるという珍しい例かと。 ジャッキー・アール・ヘイリーが新キャストでアメリカ側にいたんですけどねー、あんまり活躍の場がなくて残念(というかもったいない)。

  エンドオブキングダム3.jpg 乗っていたヘリを迎撃され、墜落したのに、基本的には無傷な二人。 パイロットの様子ぐらいちょっと見てあげて!
 もしかして、折りを見てまた続編つくろうとしてる? で、次の出演が難しそうな人には死んでもらってる? そんな疑惑が湧き起る展開でもあり・・・メリッサ・レオも申し訳程度の出演だったしなぁ。 と、そんなふうに考えないと内容がしんどいのです! リアルを反映とか考えてたらやってられないぜ!
 ともかく、大統領もマイクも過去の事件から学んだ苦労とその後の努力が顔に出ている(なんか老けた?!)、という役づくりは評価したい。
 結局、ちょっと地味だけどこの二人、好きなんです。

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2016年06月13日

ハロルドが笑う その日まで/HER ER HAROLD

 暑いです、あたしにはもう夏です。
 こういうときには北欧の冬の風景を観て、涼まなければ。 というわけでノルウェー映画。
 『ホルテンさんのはじめての冒険』のイメージで、「ほのぼのしてそうだけど結構シビア、ユーモアはどこかゆるめで、結論ははっきり出さない傾向にある」という印象のあるノルウェー映画ですが、さてこれはいかに。

  ハロルドが笑うその日までP.jpg すべてを失っても、人生はそっと寄り添ってくれる――。

 誇りを持って品質にこだわった家具を黙々とつくり続けてきた職人のハロルド(ビョルン・スンクヴィスト)は、あるニュータウンすべての公共施設に自分の商品が採用されて、それ以来その町で自分の店を構え続けてきた。 が、時は流れ、不況の波はノルウェー全体にも、この小さな町にも及ぶようになる。 高品質の家具を修理しながら長く使うという習慣は薄れ出し、ついにハロルドの店の真向かいに北欧最大級のIKEAができたことで、商売は行き詰まり、店をたたまざるを得なくなる。 ショックで妻が倒れ、何もかも失ってしまったハロルドはその怒りをIKEA創業者カンプラード(ビヨーン・グラナート)へ向ける。 カンプラードを誘拐を画策するハロルドと偶然接点を持った少女エバ(ファンニ・ケッテル)もその計画に加わると言い出し・・・という話。

  ハロルドが笑うその日まで3.jpg ハロルドの職人としての気質が、よくも悪くも彼の生き方を決めている。
 怒り・復讐・誘拐といった単語は出てくるものの、ハロルドの行動は行き当たりばったり。 計画性があるわけでもなければそもそも着地点も見えていない。 そのへんがほんとは<犯罪>なのだけれどそういう重さを感じさせないというか、のんきなコントのような展開になっている(だからご都合主義的展開もナンセンスさもあっさり受け入れられるというか)。 落語的、とでも言えばいいのか(だから予告ナレーションが談春さんだったのだろうか)。
 どこかのんきで、間延びしつつもせつなくて、でもやっぱりちょっとおかしい。 本人はいたって真面目だからこそのおかしさ、というのもあるかな。

  ハロルドが笑うその日まで1.jpg 雪や空気の感じから、マイナス10℃前後の気温であろうと思えるのに、氷が割れた池に落ちてもあんまり切羽詰まった感じがしないところに北欧の人たちのすごさを感じさせる。 あたしがいちばん感銘を受けたのはそこだな!
 そもそも、IKEA創業者のカンプラード氏は実在の人物で、ご存命(実際はもっとご高齢のようですが)。 「こんな映画なんですが、お名前使わせてもらっていいですかね?」的な申し出にOKを出しちゃうんだから、太っ腹というか、豪快というか、世間の目を気にするレベルにいないというか・・・。

  ハロルドが笑うその日まで2.jpg 劇中では頑固でイヤミな偏屈ジジイ(でも人を喰ったところもあり)として描かれていますが・・・彼は彼なりの人生哲学が。
 いい家具は一生ものだけど、家具をファストファッションとしてとらえてもいいじゃないか。 2年ごとに違う家具に代えるもよし、IKEA商品の安っぽさに耐えかねて次は上質家具を目指すのもよし、消費者に選択の余地を与えたというのが彼のプライド。 自分の仕事に誇りを持つ、という意味では実はわかりあえる二人だという皮肉。
 ただ、<勝ち組・負け組>という枠組みで見てしまうとどうしようもないんだけど、そこへ至る過程や心情、そもそも自分自身が納得できる生き方だったのかなど、人生すべてを見直す話になっております。
 人生はまだ続く、だから結論は出ないし出さない。
 あぁ、やっぱりノルウェー映画ってこんな感じなのかなぁ。 でもエンドロールの音楽にはハッピー感があったので、それはそれでよし、と思うことにする。

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2016年06月12日

素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店/DE SURPRISE

 ブリュッセルだからベルギー映画かと思っていたら、オランダ映画でした・・・。
 意外に珍しくなかったのか、最近公開が増えたのか、どちらでしょう。 でもよく考えたらポール・バーホーベン監督もオランダ出身だったなぁ。

  素敵なサプライズP.jpeg 今すぐ<逝き・行き>たい!?

 オランダの大富豪の息子ヤーコブ(イェロン・ファン・コーニンスブルッヘ)は、幼少時に父親の死を体験してからずっと生きている実感がつかめず、ぼんやりと生きていた。
 大人になっても、母の死に際の言葉にも救いは得られず、自殺しようとするが次々失敗。 崖から身を投げようと遠出した際、自殺幇助のサービスを行う会社の存在をたまたま知り、ベルギーのブリュッセルに向かう。 その代理店は表向きは旅行プランを提供する会社なのだが、実際の売り物は「最終目的地への特別な旅」、つまりは死への旅だった。
 早速ヤーコブはどのタイミングで死ぬかわからないサプライズコースを申し込むが、同じコースを選んでいたアンネ(ジョルジナ・フェルバーン)と出会い、いつ死ぬのかわからないスリルが生きている実感を伴うことを知る。 もう少し生きてみたくなったヤーコブだったが、その契約はキャンセル不可能だった・・・という話。

  素敵なサプライズ3.jpg バックはヤーコブくんのお屋敷。 ほとんどお城。 沢山の使用人が働いているのだが、自分はそのうち死ぬからと全員に暇を出す。 彼らの生活の糧を奪ってしまったことに気づかないほど、浮世離れしすぎのおバカである。
 <死>というデリケートなテーマを扱いながらもしっかりラブコメなのがお国柄というか、日本ではなかなか作れないタイプの映画だなぁ、という印象(確かベルギーでは尊厳死の権利を法律が保証している)。 ぼんやりくんのヤーコブは、仕事相手としたらめちゃくちゃ腹が立つタイプだけれど、恋愛相手としてならチャーミング(それは優しく穏やかで繊細ということだから)。 まして同じ立場のアンネと出会って共感を覚えてからは彼の感情がメキメキと目覚めていくのがわかる。
 また映像表現も面白く、明らかな特殊効果ってわかるものではないんだけど、ちょっとしたタイミングのずれやアングルでクスッとした笑いがとれる感じが結構好きです。

  素敵なサプライズ1.jpg 二人同時に事故に巻き込まれそうになって・・・でも無事助かっちゃって、いろんな意味で驚きを隠せない二人。
 で、<サプライズ>は突然やってくる死の方法方面かと思いきや、ストーリー自体がサプライズだったという意図しない驚きの展開に。 それがちょっとずるいといえばずるいのだけど、ヤーコブの家にずっと仕えていた執事の方の人間性に免じて許してあげようかなぁ、という気になります。

  素敵なサプライズ4.jpg ずっと支えてくれた人の思いを、ヤーコブはやっと感じ取れる人間になった。
 なのでぼんやりくんの遅れてきた自我の目覚め(?)を描いたものでもあるんだけれど、本質は誰かを思う無償の愛情の存在を描くことだったりする。 それもかなりひっそりと、さりげなく。
 アメリカやイギリスのラブコメとはまたちょっと違う、不思議テイストのラブコメはキュートでなかなか新鮮でした。 でもこの禁じ手は、もう二度と使えないかな〜。

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2016年06月11日

映画『64−ロクヨン』前編によせて

 はい、実は結構前に『64−ロクヨン』前編を観ております。
 「でもこれだけで評価できるかよ!」ということで、後編を観てからまとめて感想を書くつもりです。 ご了承ください。

 実は原作も読み、NHKのドラマ版も見ていたあたし、正直なところ映画版を観るのを迷いました。 ドラマ版の出来もよかった、ということもあるし、前後編商法に納得いってなかった部分もあって(この作品の場合は、です)。 上映時間が長すぎるというのであれば、『沈まぬ太陽』みたいにインターミッションを入れればいいじゃないか。
 そもそも瀬々監督は過去に『ヘヴンズストーリー』という4時間38分の映画を公開しているわけで(観に行っちゃいましたよ、あたし。 そういえばあれにも佐藤浩市が出ていたなぁ。 あたしは前売券で2000円、当日券は2800円でした)、『64』は前後編合わせてジャスト4時間らしいので、全然余裕ではないか。
 でもシネコンなどで全国拡大公開と考えると、一日に上映できる回数が少なくなると困る、という<大人の事情>のせいなんでしょうけどね。
 それにしても、佐藤浩市が主役でいるという重厚感はすごいですね。

  64−1−3.jpg 三浦友和といて遜色ないというか、よりシリアス度が高まる。
 群像劇なんだけど、彼のところにすべてが集まってくるというか、まさにすべてを引き寄せるオーラというか。 主演男優賞ノミネート決定ですね、ぐらいの。
 また、新聞記者・秋川役の瑛太には妙に既視感を覚えたんだけど、ドラマ版で同じ役を永山絢斗がやっていたからだ・・・と納得(兄弟だから顔が似ているせいもありますが、演技のアプローチも似ているのか?)。

  64−1−2.jpg 声とか喋り方もなんか似てる気がするのよね・・・顔そのものよりそっちの印象の方がインパクト残ります。
 それにしても前編を観たら、「警察官にも新聞記者にもなりたくない」と思うこと必至!
 なんというんでしょう、同じ働く者として、「お前らやるべき仕事をまずしてから文句を言え!」と説教したくなりました。
 特に新聞記者、県警の記者クラブでぬくぬくしているくせに「公表しろ!」とただわめいてる暇があったら自分で調べてこい!、って話です。
 と、ずっと怒りがふつふつとわきあがっていたあたしの救いは、お気に入り若手俳優・窪田正孝が出番少ないながらもアップが何度もあり、警察組織の理不尽さと佐藤浩市演じる三上の人間性を直接的にも間接的にも表現するというおいしい役だったということ。 よかったよ〜、とご近所のおばちゃんのような気持ちになってましたです、はい。
 で、前編終わってすぐ後編の予告、という構成にも怒りが。 「続き、すぐ観せろ!」って気持ちになりますよ、あれは(予告でも煽るだけ煽ってるし、結構ネタバレに近いところまで触れてるし)。 でもエンドロールで一瞬静かになり、そして小田和正の歌声が流れるとちょっとクールダウンする不思議。
 なるほど、この主題歌じゃなかったら前後編という設定自体が成立しないかもな・・・と、小田さんの声の偉大さをまた知るのでありました(多分インスト曲だけでは無理)。
 でもそれは、あたしがある程度物語の先を知っているからかもしれない(知らなかったら待たされるのはつらすぎる・・・)。 とはいえ、映画版は原作とは違う結末だそうなので、原作者の了解もとれたそうなので、豪華キャストの熱演も含めて後編を楽しみにしたいと思います。 とりあえず早めに観に行けるよう調整だ!

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2016年06月10日

今日の4冊は。

 全部ハヤカワ文庫からのセレクトです。

  アルファラルファ大通り.jpg アルファ・ラルファ大通り 人類補完機構全短編2/コードウェイナー・スミス
 『スキャナーに生きがいはない』に続く第二短編集(全3巻予定)。
 <人類補完機構>の歴史的には重要な時期に当たる作品が詰まっているようです。

  パターン1かたち.jpg 自然が創り出す美しいパターン1 かたち/フィリップ・ボール
 三ヶ月連続刊行の一冊目。 観た瞬間、「ほしい! 読みたい!」と思ったものの、そんな時間ないし、科学的内容がきちんと理解できるだろうかと不安があったので、一回見送った。 が、翌月、2が出まして・・・。

  パターン2流れ.jpg 自然が創り出す美しいパターン2 流れ/フィリップ・ボール 
 うおぉ、今度は流体か!、と心がざわめく。 絶対複雑系が絡んでくるよな〜、とわくわくする(ちなみにあたしは何故か幾何学模様も異様に好きだったりするので、『かたち』に惹かれたのはそのせいです)。
 で、今月の新刊として3作目が出ました。 

  パターン3枝分かれ.jpg 自然が創り出す美しいパターン3 枝分かれ/フィリップ・ボール
 うわっ、これ絶対フラクタル出てくるよ!、ということで降参しました。
 カオス理論やフラクタル、マンデロブロ集合など、完全に理解できてはいないのですが、何故か大好きなんですよね・・・理解できてなくても「面白い」と思えればそれでいいか、と思って。 あぁ、高校・大学の頃もそんなふうに開き直れていたら、微積分も楽しめたかもしれないのに・・・(でも数学的帰納法の意味はいまだによくわからない。 論理学としてならばわかるのですが)。
 まぁ、この違いはテストがあるかないか、だと思います。 今更学生には戻れません(というか、戻りたくない・・・もう受験勉強はまっぴらです)。

ラベル:新刊
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2016年06月09日

さざなみ/45 YEARS

 シャーロット・ランプリング、好きです。 そんな彼女の“キャリア最高の演技”、と言われたら期待も高まります。
 結婚45周年記念したパーティーを週末に予定しているジェフ(トム・コートネイ)とケイト(シャーロット・ランプリング)。 が、月曜にジェフに届いた手紙には、ケイトに出会う前の昔の恋人(山岳事故で行方不明、死んだと思われていた)が、スイスの氷河の中で凍りついたまま眠っているのが発見されたという知らせ。 彼女の存在をまったく知らなかったケイトには思いもかけない衝撃だが、ジェフは美しい思い出に浸り始めてしまう。 順風満帆であったはずのこれまでの45年は音を立てて崩れていくのか、それとも二人はまた更に絆を深めるのか、パーティーまでの6日間を追う物語。

  さざなみP.jpg 妻の心はめざめ、夫は眠りつづける――

 オープニングのケイトと郵便配達人との些細な会話のやりとりで、ケイトがとても心優しく、気遣いの出来る人だと十分にわかる。 それに対してジェフは言葉が足りていないぶっきらぼうなタイプ(あたしは最初、ジェフはかつて軽い脳梗塞かなにかを患ったのでは?、と感じたのだが、劇中ではそれらしきことを示唆するものはなかった。 現在進行形の認知症初期も疑えるが・・・違うのならジェフはかなりデリカシーのないタイプだ。 一般的な男性全般ともいえるが)。

  さざなみ3.jpg 週のはじめ、愛情豊かに接するケイト。 こんなやさしい笑顔を向けてもらえる幸せ、わかっているのか!
 実際にもよく見かけますよね、こんな素敵な女性がなんでこんな人と結婚したの?、的なご夫婦。 あたしにはケイトとジェフはそんなふうに見えてしまったけれど・・・こればっかりはご本人たちにしかわからないことだし、驚いたことにケイトはジェフを深く愛し、それ故に心配してまめまめしく世話してしまう。 でもジェフはそれを普通のことと受け取ってしまう節あり!
 おまけに、不用意にも死んだ恋人のことを(遺体が見つかったという驚きのせいもあるだろうが)「僕のカチャ」と口走ってしまうという大失態。 しかし本人は失態と気づいていないし、動揺しているときだからこそ本心が出るともいえるし、そりゃケイトとしては心穏やかではいられないでしょうよ。 「きみと出会うずっと前のこと、昔のことだよ」では済まされないなにか、自分自身のこれまでを全否定されたと感じてしまうのも無理はないかと。
 あたし自身は45年も生きていないので、自分で決めて45年一緒に生きてきた相手にまるで裏切られたかのような感覚は想像するしかないんだけど・・・それは“嫉妬”なんていう軽いレベルではないことはわかる(そもそもケイトは嫉妬で我を忘れるような性格ではないと描写されている)。
 ほぼ二人芝居だし、ケイト目線で描かれるせいもあり、無神経にしか見えないジェフにいらっとするけれど、多分ケイトの感情はそれ以上。
 映画的表現としては<さざなみ>のように静かですが、実際は荒れ狂う暴風雨。

  さざなみ5.jpg 自分の感情を抑えるように、振り切るように一心不乱にピアノに向かうケイトの横顔は・・・美しくもかたくな。
 男は過去を美化し、女はもっと現実的―ともよく言われますが、ジェフは昔の恋人との美しい思い出に酔いすぎて現実・すぐそばにいるケイトをないがしろ。 それが一時のことだと思えればいいだろうけれど、そもそもジェフはそんな過去をケイトに話していない・これまでもずっと彼女は彼の心の中にい続けていたのかもしれない・そして自分とは得られなかった何かを彼女とは得たのかもしれない、となれば自分は、自分との45年間(結婚以前の付き合いを含めればそれ以上)はなんだったの?、ってなりますよ・・・。 そしてケイトはさんざんサインを出しているのに、ジェフはまったく気付かないし、もしくはフォローが遅い。

  さざなみ4.jpg だんだん態度が冷たくなっていっていることに気づいているのかいないのか・・・。
 これを観て、「ケイト、ちょっと気にしすぎじゃない?」と思った人! あなたはジェフのタイプです、気をつけてください!
 結局のところ、どれだけ長く暮らそうとも、傍から見てどれだけいい夫婦だと思えても、その実態はとても脆い―二人が常に壊さないようにと気を遣っていかないと結婚生活も愛情も、些細に思えることで足元をすくわれることがある、というへたなサイコホラーより怖い作品。 勿論、それを芸術の域に高めているのは、シャーロット・ランプリングの微細な表情・態度の違いで伝えてくる感情。
 スリムジーンズがこんなに似合う70歳ってだけで反則だけど!
 パーティーでかける音楽が二人の思い出の60年代ソング、“ハッピー・トゥギャザー”や“煙が目にしみる”だったりするのがなんとも・・・そしてジェフのケイトへの愛と感謝を込めたスピーチが白々しいというか、自分に酔っているだけに聞こえてしまうのがなんとも・・・そういう気持ちがあるのなら、普段から態度なり言葉で示さないと。
 恋愛や結婚だけでなく、人間関係の根底は信頼です。
 <ラスト15秒の衝撃!>に偽りなし!
 ・・・あたしは茫然となりました。 今も結構、引きずってます。

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2016年06月08日

スキャナー 記憶のカケラをよむ男

 日本映画興行成績等で東宝一人勝ちの状況が長く続く中、個人的には東映には是非がんばってほしいと思って応援しています(松竹も応援してますが、結構がんばりが形になってきている感じがするので)。 なにしろ子供の頃は『東映まんがまつり』を欠かさず観に行ってました世代ですよ。 でもなんとなく、東映ってマイナーなイメージがあるのよねぇ(だからつい応援したくなってしまうのかもしれない)。
 勿論東映側にも自覚も危機感もあると思うので、ドル箱としての『相棒』を失いつつある状況で、『探偵はBARにいる』のようにシリーズ化できる作品をつくりたい、という熱意は感じる。 だから比較的破綻の少ないウェルメイドな作品が書ける脚本家として古沢良太を担ぎ出し、これを企画したのでしょう。
 とはいえ、あたしの動機は普通に野村萬斎さんが好き、ということだったのですが。

  スキャナーP.jpg あなたの全てを読み取ります。
    その探偵は自らの“手”で謎を解く。

 ピアノ教師(木村文乃)が行方不明になる事件が発生。 教え子である高校生(杉咲花)は「先生はコンクール前に突然にいなくなるような人じゃない!」と、その先生がファンだったというお笑いコンビ<マイティーズ>に先生を探してほしいと依頼する。 実はマイティーズのウリは、片方の仙石和彦(野村萬斎)が残留思念を読み取ることができるというもので、その能力をいかしてネタをつくっていたのだ。
 だが仙石はそのおかげでいやなもの・きたないもの・おそろしいものを沢山見てしまい、本番中に逃走、マイティーズは解散した。 元相方のマイティ丸山(宮迫博之)は今でもピン芸人としてやってはいるものの、空気が読めず泣かず飛ばず。 「お礼はお支払いします!」という高校生の言葉につられて、ほとんど他人と接触しないようにひっそりと暮らしている仙石のもとを訪ねた丸山は、約10年ぶりに再会をしたのだが・・・という話。

  スキャナー5.jpg この二人のコンビ感も微妙・・・まぁ、かみ合わない組み合わせという設定でもあるのですが。
 オープニングから、大変残念な仕上がり。 『怪奇大作戦』的な雰囲気を醸し出そうとしたのかもしれませんが、ミステリ好きにはそれがもうレッドヘリング(とも言えないレベルだけど)であることがわかってしまいます・・・。 ミステリーなのに、ミステリーとして成立しない演出。 がっかりです(そして結果は予想通りだったので更にがっかり感倍増)。
 おかげで<感動の真実>とやらにもまったく感動できない有様。 仙石が火災で燃え残った倉庫で手をかざし、モノが見えてくる特殊効果のシーンは「おおっ!」と言わせるものがあるだけに、金子修介監督はやはり特撮方面に強く、ミステリーには向いていないのではないか・・・という疑惑がよぎります(なんで引き受けたんだろう&なんで依頼したんだろう)。

  スキャナー1.jpg 木村文乃さんは出番が少ない中、神秘性を持たせた役柄を好演していますが。
 動機や背景にいかに悲しい要因があっても、謎が解ける瞬間というのは大なり小なり爽快感を伴うもの。 なのにそれがまったくないのは・・・海外のミステリー映画がいかにレベルが高いか、ということを図らずも証明してしまいましたね。
 サイコメトリーという能力自体、物語に取り上げられるのは特に新しいわけじゃないし、やっぱりウリは野村萬斎しかないではないか、的な(なんで引き受けたんだろう)。
 だったらもっと仙石のキャラを掘り下げてほしかった。 あ、もしかしてそれは、続編を見越しての出し惜しみか?! でもヒットしなきゃ、面白くなきゃ続編はつくれないんだぞ!
 関係者のみなさんには、野村萬斎をいかしきれなかったことを含めて、是非反省していただきたい。 これだから、「テレビのスペシャルでいいじゃん」と言われてしまうんだ!
 ・・・『星籠の海』もすごく不安だ。

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2016年06月07日

今日の2冊は。

 河出文庫今月の新刊からのチョイスです。

  TAP.jpg TAP/グレッグ・イーガン
 『奇想コレクション』の中の一冊で、個人的に待望の文庫化(以前図書館で借りて読んでいたのでした)。 短編集なのですが、ハードSFで難解なイメージのあるグレッグ・イーガンの実は幻想的な持ち味が楽しめる一冊となっております。
 ちなみに著者はオーストラリアの人らしいのですが(これ結構意外!)、本国でよりも日本でのほうが評価されているらしい・・・現代SFの大家だとあたしも思っていましたが、オーストラリアってSFはあまり盛んではないのか?!

  エドウィンマルハウス.jpg エドウィン・マルハウス/スティーヴン・ミルハウザー
 読んではいないんだけど、以前に本屋や図書館で見かけてなんだかずっと気になっている本、ありませんか? あたしにはそんなのが常に何冊(何十冊?)かあって(まぁ、全部は覚えていられないので思い出すきっかけは様々ですが)、思い切って読んでみたらすごく面白かったり、逆に「あれ?」だったりする場合もあって、結局気になっているままだったりする。 これもその一冊でした。
 今回「待望の文庫復刊!」となり、これがそのタイミングなのかもしれない、と。
 帯に伊坂幸太郎と西加奈子の推薦文が載っているのが個人的には「・・・」なのですが、まぁそれは河出書房新社的マーケティングなのでしょう。
 11歳で夭逝した天才作家。 隣に住んでいた幼馴染の(ほぼ同い年の)親友がその評伝を描く。 どうですか、この設定だけでなんだかぐっときませんか!

 ちなみに・・・月刊フラワーズ7月号は全国各地で発売日にほぼ完売していたようです。
 定期購読者が近所の書店でいつも通り買えてない、という状況や多数の問い合わせが出版社に殺到した結果、重版決定だそうな(これぞ『重版出来』?)!
 多分月刊マンガ誌では異例の措置では・・・多めに印刷すると思っていたけれど、印刷スケジュールや流通の問題などで数の変更は簡単にはきかないのかも。
 あまぞんなどでは中古にとんでもない値段がついておりますが、6月11日頃追加分が店頭に並ぶようです。 ダフ屋(?)を儲けさせてはいけない! もうちょっと、待ちましょう。
 でも11日って土曜日じゃん・・・行けるかな、あたし。

ラベル:新刊
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2016年06月06日

アイアムアヒーロー/I AM A HERO

 世界各地で行われているファンタスティック映画祭はSF・ファンタジー・ホラーといったジャンルの映画の祭典なので、個人的には大好きだけど基本的には“B級映画の集い”。 勿論、その中にも傑作はあるので(特にあたしは『ヒドゥン』など大好きです)、この映画の<三大ファンタスティック映画祭制覇>はめでたいとは思うものの、手放しでよろこべないなにかを感じるのは何故なのだろうか。 自分でも意味がわからないので、確認のために観に行くことにした。
 原作は未読(というか、電子書籍で期間限定無料の1巻をダウンロードしたのだが、最初数ページで一回挫折。 次に臨んだときには期間が終了していて読めなかった。 やはり初めて読む作家って、難しい)。
 とりあえず大泉さんが出てるよ!、ということぐらいしか前知識なし(でも宣伝でいっぱいネタバレしてくれているので、ほんと余計なことしてくれた・・・)。

  アイアムアヒーローP.jpg ようこそ。絶叫のゾキュンパニックへ。

 なるほど、R15+は伊達じゃないな!、というくらいグロさ爆発である。
 日本がこつこつと世界に広めてきたJホラー様式を真っ向からぶっ壊すその姿勢をよしとするか、「あー、完全に向こうのホラーテイストに乗っかっちゃったなぁ」と感じるかどうかで評価が分かれそう。 とはいえパニックものでもあるので、Jホラー様式だけでは成立しない部分はある。
 主人公・鈴木英雄(大泉洋)はずっと前にマンガ雑誌の新人賞を獲ったことがあるものの、今は泣かず飛ばず、売れっ子マンガ家(マキタスポーツ)のアシスタントをして糊口をしのぐ日々。 長い付き合いで同棲中の彼女(片瀬那奈)にもすっかり愛想を尽かされ気味で、「今度こそ!」と気合を入れた原稿も編集者に突っ返される。 どん底の気持ちで仕事場に向かえば、なにやらそこここで異変が起こっていて・・・という話。
 キャスティングもB級路線の豪華さで(英雄と同期だけど現在は売れっ子マンガ家になっている人物として片桐仁が登場したときにはそれだけで笑える。 チーフアシスタント役の塚地武雅さんも絶妙)、いいですねぇ。 それにしても大泉さんが大泉さんたる所以はやはりあのくるくる髪なんだな、と改めて実感。 ショートカットに帽子、脱いでもぺたん髪のストレートでは(でもだんだん時間の経過とともに毛先がくるくるしてくる感じが話とは全然関係ないんだけど面白かった)、大泉さんぽくない、全然。

  アイアムアヒーロー1.jpg だから“大泉洋”ではなく、“鈴木英雄”として存在していたような気がする。

 監督がインタビューで「異質なものに出くわしたときの大泉さんの表情が素晴らしくて、彼に主役をオファーした」みたいなことを言っていたような気がするんだけど、実際は鈴木英雄がかぶっているヒステリックグラマーの帽子のほうが目立っちゃってて、せっかくの表情を隠しがちになっていたような・・・なんかもったいない。
 多分一般社会がある程度崩壊したのであろう予測の元、辿り着いた富士山麓にあるアウトレットモールが出現してから、あたしの違和感は頂点に達する。 確かに見た目は三井系のアウトレットモールそっくりなのだが・・・看板が、ヘン。 ローマ字・アルファベットもヘンだし、<駐車場入口>といった日本語の看板もなんかヘン。
 フォント? バランス? 色?
 どこがどう違うとははっきり言えないのだが・・・「なんか日本じゃない!」とは断言できる感じで、なんかちょっと冷めてしまった・・・低予算であっても、荒唐無稽の話であればあるほど、ディテールには手を抜かないでほしいのですが(外国の人から見たらまったく気にならないんだろうけれど、日本に住むものとしてはとても気になるのです)。 チラシの裏を見たら廃墟になっている韓国のアウトレットモールで撮影したそうで・・・そういうの日本で作って持って行けなかったのか?! それとも現地で作ってお金を落とすことも契約に含まれていたのか? ・・・まぁ、違和感の正体はわかりました。

  アイアムアヒーロー3.jpg 逃げる途中で一緒になった女子高生ヒロミ(有村架純)とともに富士山に向かうのは、標高が高い場所のほうが安全らしいというネットの伝言板で情報を得たから。 それが正しいかどうかはわからないけど。

 そしてそのアウトレットモールで展開される“社会”は、あたかもロスジェネ世代のある人が出した論文『希望は、戦争』にとてもよく似ていて(というかまさにその通りで)、別の意味で絶望的になる。 所詮、日本人もその程度か、という。
 現実と思わせておきながら実は英雄の妄想、というシーンがちょっと多すぎて、だんだん「あ、ここも妄想シーンだろうな」とわかってしまうのがつらいところだが、いろいろ無理のある設定も最後まで引っ張るのはひとえに大泉さんの力!
 是非また主演男優賞にノミネートされてもらいたい。

  アイアムアヒーロー4.jpg 本来爽快感をもたらすこのシーンも、あまりに繰り返されると観ている方も疲れる。 勿論、鈴木英雄さんの疲労のほうが半端ないわけですが。

 モールを舞台にしたところは(原作通りなのかもしれないが)ロメロ御大へのオマージュでしょうし、過去の名作ホラーの一場面を彷彿とさせるシーンもガンガン散りばめられているのはホラー好きとしてはニヤリなんですが、それがパロディの域を出ていないのも事実。 ラスボスはあいつだろうな・・・と予測通りなのもちょっと物足りない。 結局、「まぁ、日本映画としては」という但し書きつきの「がんばったね」という評価になってしまうんだよな・・・これで「世界で評価された・日本映画のレベルを超えた」というのはちょっと違うんじゃないかな、と思う。
 あぁ、(これも予想通りだが)なんかすっきり!
 原作上のテーマは不明だが、「ヒーローとは自分からそう名乗るものじゃない、他の人から言われてこそ意味がある」というタイトル自体が逆説である、とはっきりわかるエンディングはすっきりしてていいと思うのだが、根本的な解決にはまったくなっていないんだよね・・・でもそれこそが、「先のわからない人生を生きること」なのかもしれない。
 続編、あるのかな・・・でもここで終わっておいた方がいい気がする。 絶対する。

ラベル:映画館 日本映画
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2016年06月05日

アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち/THE EICHMANN SHOW

 勿論、あたしの動機はマーティン・フリーマンなんだけど、『ハンナ・アーレント』でアイヒマンを<凡庸な悪>と結論付けたきっかけの裁判をテレビ放送する側から描く、というところも気になりました。

  アイヒマンショーP.jpg アウシュヴィッツの真実を伝えるために――。

 1961年。 ホロコーストに関与し、数多くのユダヤ人を強制収容所に送り込んだ最高責任者とされる元SS(ナチス親衛隊)将校アドルフ・アイヒマンの裁判がエルサレムで行われることになった。 アメリカのテレビプロデューサーのミルトン・フルックマン(マーティン・フリーマン)はこの問題に関心を寄せ、裁判の様子をカメラに収めて世界各国で放送しようとイスラエル側に掛け合う一方、撮影監督としてドキュメンタリー監督の長いキャリアを持つレオ・フルヴィッツ(アンソニー・ラパリア)を招聘。 出来る限り集めた少数精鋭のスタッフで世紀の裁判の模様を放映しようと意気込むのだが、次から次へと問題が発生。 更にナチ残党の脅迫を受けながらも、ミルトンとレオは時に対立しつつも映像を世界に届けることに尽力する・・・という話。

  アイヒマンショー4.jpg 知名度的にはマーティン・フリーマンのほうが上だからでしょうが、実質はダブル主演です。

 そもそも、この“アイヒマン裁判”が公開されるまでホロコーストの実態を世界が知らなかった・知っていたとしてもそれほど本気にしていなかった、ということに驚く。 ドイツの一般市民が全貌を知らされなかったのはわかるのだが(自国内で都合の悪いことを国民に知らせる意味がない)、特に敵国側は世界にむしろ知らせておきたい情報なのではないか(自分たちの正当性をより主張できるじゃないか)。
 それでも知っている人は知っているから、「当事者たるイスラエルに冷静で法的に正しい裁判ができるのか」という懸念が生じるわけだし、それを証明するためにテレビクルーが入れたという事情もあり、イスラエルにとっては国家として世界に認められる絶好の機会でもあったわけで(でも現代視点でつくられているなぁと思うのは、ミルトンにイスラエルとパレスチナ問題をさらっと語らせているところだ)。

  アイヒマンショー3.jpg でも判事から「テレビカメラが見えるのは裁判自体に影響が出る」と言われて契約を破棄されそうになったり・・・様々な工夫と努力で中継録画にこぎつけたスタッフたち。

 で、時節悪く(?)、裁判が始まってからガガーリンが宇宙に行ったりで視聴率競争で負け、「もっと使える、視聴者に訴える画を!」と叫ぶミルトンと、アイヒマンの本質に迫ることに執着するレオとの方針の違いがぐんと明らかに。 視聴率至上主義のテレビマンとしては「アイヒマンは“怪物”でいいじゃないか」なのだが、ドキュメンタリー監督の使命としてレオは「アイヒマンは特別な“怪物”じゃない。 そんな状況に置かれれば誰だってアイヒマンになりうる」ことを証明したいのだ。 それは誰も認めたくないことであっても。
 が、アウシュヴィッツ生還者たちの証言が始まると、その内容にスタッフ全員が息をのみ、視聴率云々の発言すら消し飛んでしまう(実際には世界中も息をのんで見ることになる)。
 当時の映像が裁判の証拠として(映画の中でも)ふんだんに使われ、クルーの中には耐えられずに退席してしまう者もいる。 むしろ2016年を生きているあたしのほうがそういう映像に耐性があるというか、これまでに見たことあるのが奇妙な気がした。
 でもこのような<証拠映像>を当時撮った人たちがいたわけで、彼らは実態を知っているはずではないか。 誰がどんな目的で撮ったのだろう、と考えるとそれはそれでうすら寒い気持ちに・・・。

  アイヒマンショー2.jpg 結局、アイヒマンは何者だったのか・・・そんな問い自体が一種の不毛。

 マーティン・フリーマンはいかにもテレビマン的な俗物っぽい部分から、家庭を愛するよき夫・よき父であり、圧倒的な事実を前に「報道とはなにか」という根本に立ち返るいい意味での素直さと、清濁併せ持つ人物としてミルトンを好演。 しかしレオ・フルヴィッツ演じるアンソニー・ラパリアに一歩譲った感があるというか、あたしにはレオの方が惹かれる人物だった。 職人的頑固おやじ気質のせいですかね!
 ホロコーストに関して新しい情報は出てこなかったんだけど(テレビクルーの奮闘ぶりというのは知られていないことですが)、こういう映画を今イギリスがつくった、ということに意味があるのでしょうね、きっと。 イスラエル・パレスチナ問題への融和への布石、だと思いたいところです。

ラベル:映画館 外国映画
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2016年06月04日

孤独のススメ/Matterhorn

 オランダ映画もわりと珍しいのでは・・・そう思ってシネ・リーブル神戸。
 北欧デザインというブランド力に押され気味ではあるものの、実は隠れたデザイン大国オランダ。 このポスターにもなんとなくそれを感じたのも原因のひとつ。
 しかし原題は『マッターホルン』(あの山?)なのに、何故邦題は『孤独のススメ』
 決して孤独を勧めている内容ではないので・・・それとも逆説的に? やはり邦題をつけるのは難しいですな。

  孤独のススメP.jpg すべてを失くした男が何も持たない男から学んだ幸せとは――?

 オランダのある田舎町。 愛する妻に先立たれ、一人で静かに暮らす初老の男フレッド(トン・カス)は毎週日曜日の礼拝以外は周囲との付き合いも避けるようにして、ひっそりとかつ規則正しい毎日を送っていた。
 が、ある日、突然言葉も過去も持たない男テオ(ルネ・ファント・ホフ)が出現、いつの間にかフレッドの家に居ついてしまう。 やむなく始まった共同生活だったが、“他人と暮らす”ことの奇妙さがフレッドのルールを飛び越え、不可思議な友情のような、家族のような感情を芽生えさせ、フレッドにとっての日常が変わっていく。
 しかし厳格なカトリックである近隣住民からは厳しく冷たい目で見られ、偏見の目や嫌がらせに遭うことに・・・という話。

  孤独のススメ3.jpg それまでのフレッドの生活は、すべて定位置、時計の指す時間通りに行われていた。

 基本的に台詞が少ない。 なので説明台詞がもっと少ない。
 普通、会話も成立しないでよくわからない態度をとる男が現れたら、病院から出てきてしまったんじゃないか、誰か探している人がいるんじゃないかと思いそうなものだが、何故かそのままにして受け入れてしまうという不思議。 フレッドは他者との交流を避けるが故にそういう発想が出てこないのか? でもこの映画の世界観的にはそれでオッケーにだんだん思えてくるから面白い。
 劇的なことは起こらず(いや、実は起こっているのだが描写があまりに淡々としていてそう感じさせない)、退屈っぽく見せているんだけど全然退屈じゃない。 ちょっと真面目とちょっとおかしいの境目を絶妙なバランスで行き来する、なんとも不思議なタッチです。

  孤独のススメ2.jpg 人間といるよりヤギやヒツジなどと一緒にいる方が穏やかそうなテオ(だからか、ヒツジの声真似絶品)。

 で、路線バスがすごくレトロ風デザインでお洒落!(機能的にはノンステップバスだし最先端なのだろうが、見た目がほんとにレトロ)。 フレッドが持つそのでっかいカバンは何?、と思えば買い物用バッグだったり(日本で言うところのエコバッグよりもかなり大きく丈夫そうな仕上がり、かつプリント柄)。 スーパーの棚にはダノン製品や輸入食材のお店で見たことのあるオランダ製のお菓子の箱などがならんでいて、個人的に「おおっ!」となる。 電車で大きな町に出れば駅舎もお洒落だし、街のショーウィンドウや看板などもなかなかハイセンス。 そしてまたバスで田園風景に戻り、レンガ造りの家に住む。 風車やチューリップは出てこないけど、多分すごくオランダ的なんだろうなぁ、とにやり。
 本来、フレッドも一人でいたいわけではなくて、妻を失った痛手から立ち直れていないんだけどそれをどうしていいかわからない不器用な男性、というだけ(その割に、ある点でフレッドをちゃっかり利用しちゃうあたり、ただ純朴ではないしたたかさも感じさせるが)。 だから適度に合槌を打つ・リアクションするテオの存在があるからいつの間にかすごくお喋りになってきて、そのことが彼に行動しようという意欲と変化を与えるんだなぁ。
 全体的に静かに進んできたけれど、ラスト15分ぐらいで一気に盛り上がる(それまでに散りばめられていた伏線が一気に回収される)。
 フレッドの過去や悔恨も含めて<現在>がそこにあるという開放感たるや!
 そこに流れる“This Is My Life”にもうっかりと心打たれて、ちょっと泣いてしまった。
 これまでの全てはこのシーンのためだったのね、と納得。
 思いもかけぬ満足感で、席を立ちました。

ラベル:外国映画 映画館
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2016年06月03日

よかったですね!

 もう、そうとしか言いようがない・・・。
 北海道・男児行方不明事件のことである。
 仕事場でも今週ずっと「まだ見つからないのかなぁ」と話題になっており、あたしも一日数回、ネットのヘッドラインニュースで「男児、無事発見」という見出しがこないものかとチェックしていた。 週の前半は。
 徒に犯罪統計記録などを知ってしまっているあたしは、「未成年者(特に子供)の行方不明事件は初動48時間が重要、72時間を過ぎれば生存率は極端に下がる」という統計上の事実に気が重くなっていっていた(勿論例外があることはわかっていますし、これは犯罪の多いアメリカ中心のデータだし、ここは日本だしと思いたいけど日本だって子供相手の犯罪がないわけではまったくないし)。 挙句に場所は北海道の山、クマも出るかもしれないし昼夜の気温差大きいし、おまけに雨まで降ってたし。
 事件性がなければ敵は大自然。 どちらにせよ難しくなってきたかなぁ、とハラハラしていた。 でも夕方開いたネットニュースで「無事、保護」の文字を見つける。
 まじか! どうやって!、と思わずクリック。
 ・・・そりゃ、建物の中にいたのなら、天気関係ないよなぁ。 水も飲めたというし、やはり生命維持において水って大事なのね、と実感。
 それにしても、あたし自身はある程度事態が判明するまで具体的な発言は控えようと思っていましたが(それはネット上でもリアル世界においても、です)、ネット上における憶測から推測、予想へ至るスピードの速さ、負の話題であればあるほど強い伝播力を持つということをまた目の当たりにして、「やっぱりネットってすごいけど怖いなぁ」という認識を新たにしたのでございます。
 勿論、洪水のような情報を取捨選択するのは自分自身。 デマに流されないためにも真贋を見抜く目を自分が持たなきゃいけない。
 こんな自分もネットの隅っこにいるわけですしね・・・(ブロガリ後のこと、まだ悩んでおります)。

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2016年06月02日

今日は9冊(その2)。

 引き続きの残り5冊です。

  御手洗潔の追憶.jpg 御手洗潔の追憶/島田荘司
 なんとなく『星籠の海』が消化不良だったので。
 シリーズ番外編というか、御手洗ファン向けの編成って感じがしなくもなく・・・ま、石岡君がその後どうなっているのかあたしも知りたいので、それはそれでよし。

  エストニア紀行.jpg エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦/梨木香歩
 著者による9日間のエストニア旅行の紀行文。
 そう、エッセイではなく紀行文というところが近頃では懐かしい感じが(逆に、受験国語を思い出すけど・・・)。

  殺人犯はそこにいる文庫版.jpg 殺人犯はそこにいる
      隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件/清水潔
 以前、ハードカバーで読みましたが、文庫版には絶対<文庫版あとがき>やその後のことが記載されるので絶対読みたいですよね!、ということで。
 あの後も、この事件について表立った報道は出ない。 この文庫化をきっかけに、なにか動きが出ればいいですね。 というか出てほしいよ!

  旋舞の千年都市1.jpg旋舞の千年都市2.jpg 旋舞の千年都市/イアン・マクドナルド
 タイトルの“千年都市”とはこの場合、イスタンブールのこと。
 近未来のイスタンブールはナノテク革命と低炭素経済がもたらす活況に沸いていて、しかしかつての名残りというか伝統的ともいえる混沌も残っているらしい。
 「突如起こった、犠牲者ゼロの奇妙な自爆テロ」という設定に惹かれ裏表紙のあらすじを読めば群像劇でもあるらしい。 SFでそれは珍しいのでは!、と思って。

 仕事場にて『月刊フラワーズ』7月号が完売でした、とこっそり報告。
 恐るべし、『ポーの一族』! 恐るべし、萩尾望都!、というのがみなさんの見解でした。

ラベル:新刊
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2016年06月01日

今日は9冊(その1)。

 6月に入って、仕事が少し落ち着いてきました。
 多分前半のピークは過ぎた、はず。 あとは8月後半が恐ろしいのですが、6・7月は比較的穏やかに過ごせそう(希望)。
 しかし何が起こるかわからないのが人生と仕事。 あきらめとともに受け入れるしかないのかな。

  残照.jpg 残照 アリスの国の墓誌/辻真先
 基本的に文庫を買いたいあたしですが、辻真先は別。 長年抱えたシリーズにどんどん幕を下ろしているのは、自分の残り時間と作者としての責任を考えてくださっているからでしょう。 バー<蟻巣>が閉店するということはここに集う人々ともまたお別れということで・・・著者が共に歩んだマンガ・アニメの歴史も語られているようで、まさに辻作品の集大成。 でもシリーズ全部終わらせても、余裕があればまた単発の歴史ミステリなども書いていただきたいものであります。 勿論、親指シフトキーボードで!

  埋葬された夏.jpg 埋葬された夏/キャシー・アンズワース
 これは以前、東京創元社のメルマガであらすじが紹介されていたのを読んで「なんか面白そう!」と即決。 家に帰って「さ、解説をまず読むか!」とぱらぱらとめくっていったら・・・後半1/3ぐらいのところに乱丁を発見!
 ちょっとした乱丁ならばカッターで直してしまうあたしですが、これはなかなか複雑に折りたたまれた状態のまま裁断されてしまい、ページのはじに当たる部分が背表紙のくっついているところまで入りこんでいた。 うーむ。これはきれいにやり遂げる自信がないな、と白旗。 出版社に「取り替えてください」とスマートレターで送ってみました。
 送料はどうやって返ってくるんだろう? 同じくスマートレターの新しいやつが入っているとありがたいのだが。

  偽りの書簡.jpg 偽りの書簡/R・リーバス&S・ホフマン
 こちらはスペインから。 ヨーロッパの近代史がほとんどよくわかっていないあたしはこうやっていろいろ知るんだなぁ、と実感。 そして科学捜査ではなく筆跡鑑定や書かれた文章から真実を読み解くというレトロな新しさに惹かれました。

  はじめてのひと01.jpg はじめてのひと 1/谷川史子
 おぉ、谷川史子らしからぬシリアス調のヒロインの顔に驚き!
 でも中身は多分そんなにシリアスではない・・・気がする。

ラベル:新刊 マンガ
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