2016年05月11日

ボーダーライン/SICARIO

 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の新作!、というだけでわくわくなのに(そのくせ文字を見ないと監督の名前をさらっと自分で発音できない)、主役がエミリー・ブラントなんて! しかも題材が国境と麻薬戦争だなんて! なんて大胆なところに斬り込むんだ!
 メキシコの麻薬カルテルについては以前からうっすらと知ってはいたものの、それが強烈で、しかもアメリカと密接が関わりがあると知らされたのはソダーバーグの映画『トラフィック』ではなかっただろうか。 あれから十数年以上(もしかして20年とか?)たっている。 それでも、解決どころか泥沼一方の様相を呈しているのは何故なのか。
 答えが出ないことはわかっているが・・・。

  ボーダーラインP.jpeg その善悪に境界<ボーダー>はあるのか――

 『ボーダーライン』なんてドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品にしては安直なタイトルだ、と思っていたら、冒頭で原題“SICARIO”についての説明が出る。 曰く、「シカリオ:暗殺者」なのだそうである。 これも邦題をつけるのに困ったパターンかなぁ、と推察。
 メキシコとの<麻薬戦争>を終わらせるべく、メキシコ麻薬カルテルの全滅を目的とした特別任務が組まれた。 優秀なFBI捜査官のケイト(エミリー・ブラント)は、特別捜査官グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)にリクルートされ、チームに加わることに。
 しかし詳細は知らされることはなく、顧問を名乗る謎めいたコロンビア人アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)がどこの所属なのかもわからない。 はっきりしているのはただ<麻薬カルテル殲滅>という目的だけ。 密かに国境の町フアレスに潜入した一行だが、あっさりと人が命を落としている現実を目の前に突き付けられたケイトは法と秩序を守るFBI捜査官という自分の根幹をも揺るがす無法地帯の現状に愕然とする・・・という話。

  ボーダーライン3.jpg そもそも彼女をこの件に引き入れることになったアメリカ側国境沿いの“死の家”事件にて。
 とにかく緊張感が半端ない。 『プリズナーズ』も緊張感あふれる作品だったけど、それとはまた種類の違うもの―死ぬか生きるかの一瞬の差はどこにあるのか、といったレベルで、わけのわからないままチームに放り込まれたケイト同様、観客もまたわけのわからない状態で緊迫の渦に放り投げられる。 しかも序盤に『プリズナーズ』を観た客にはカタルシスをくれるのかと思いきや、それを逆手にとって余計にショッキングさを与えてくれるという意地悪さんである(あたしはそれにまんまと引っ掛かり、のどの奥で悲鳴を上げた)。
 血の報復がなによりも恐ろしいのは、法や秩序どころか良心やそもそも「人として」といった理屈や言葉や多分正しい方向であろうと思われる感情すら通用しないところだ。 <無法地帯>どころではなく、縄張り争いのためだけでいくらでも人が死ぬ、命の価値すら問えない。 ケイトの葛藤は「悪を制するために自らも罪に手を汚すことは正義に値するのか」というものだが、この地域ではそんな問いかけ自体が自分の身をあやうくする(実際、彼女は何度も死の危機に直面することになる)。 そこをある程度割り切ってしまったのがグレイヴァーであり、それすらも超越したのがアレハンドロなのだが、必要とあれば身内さえ裏切る(というか切り捨てる)こともいとわないグレイヴァーのように彼女はなれるはずもなく、外側からも、内側からも彼女は蝕まれていく。

  ボーダーライン2.jpg この二人の種類の違う得体の知れなさも必見! まったく、なんてキャスティング上手なの!
 そんなケイトをエミリー・ブラントが熱演!
 彼女以外のキャスティングが思い浮かばないほどぴったりの役柄で、下手をすれば法と正義を振りかざすケイトは「現場をわかっていない鼻持ちならないヤツ」になりかねないところをうまく回避。 それも、ジョシュ・ブローリンのクセ者感と、ベニチオ・デル・トロのただならぬ者感と相まって、奇妙なアンサンブルを奏でている。 三人それぞれ、向いている方向が違うのに。

  ボーダーライン1.jpg 闘う女子の凛々しさもまた体現。 それ故に内的葛藤での脆さが光る。
 とにかく緊張感とわけのわからなさに翻弄されまくった。 今度WOWOWで放送されるときには、もっとちゃんと冷静になって観よう!、と決意するのでありました。
 それにしても、メキシコとの麻薬戦争にも終わりは見えない。 形が違うからわかりにくいけれど、アメリカは<テロとの闘い>の前に泥沼を抱えていたのに、もうひとつの泥沼にも踏み込んでしまっているわけだ・・・どちらにもアメリカ的法と秩序は通用しない。 世界はいつでも混沌の時代なのだと思い知る。
 しかし同じ国境でもアメリカとカナダの間はいたって平和だ。
 問題は、結局は貧富の差なのか。 搾取する者とされる側の問題なのか・・・現実は、いつも痛い。

ラベル:外国映画 映画館
posted by かしこん at 23:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする