2016年04月24日

服従/ミシェル・ウエルベック

 本作は<2022年、フランスにイスラーム政権誕生>、という設定でして、「来たるべき近未来の予言書!」という感じの宣伝文句で、ちょうど日本語版が刊行された当時(当日だったか?)“シャルリー・エブド事件”が起こったということもあり(その後もフランスではイスラム過激派によるテロも起こっていますが)、文芸書としては大変タイムリーに売れた、という記憶が。 本屋さんでも平台に積まれていたもんなぁ。
 しかし単行本はできるだけ買わない派のあたし、図書館に予約を入れて地道に待っておりましたならばやっとやってきました。 しかし次の方も待っているので、早々に読み終える方向で。

  ウェルベック服従.jpg 画像ではわかりにくいですが、タイトルの<服従>という文字の上にシルバーのドットが均等に重ねられています(一瞬、点字かと思ったが違った)。 タイトルフォントさえも“服従”させられているということ?
 そして翻訳者の名前より解説者の名前が大きく出されちゃうってどうよ。

 パリ第三大学で教員をし、ユイスマンスを研究テーマにしている“ぼく”・フランソワは日々を怠惰に送っている。 社会的接点は最小限に、しかし若くて美人の女性とお付き合いはしたいがそのことに情熱を傾けることもできず、漠然と「自分は何のために生きているのか」という虚無も抱えつつ、かといって自殺する勇気もない彼は当然政治などにも関心がなく、2022年の大統領選挙の結果を踏まえ、変わっていくフランス社会を前になす術なく佇み、そして流されていく、そんな話。
 ウエルベック、あたしは全部の作品を読んでいないのですが(その昔に『素粒子』、最近のウエルベック文庫復刊ブームのおかげでちまちまと)、あたしの中ではSFと純文学の境目をうろうろしている、というイメージが。
 だからこれも、「予言の書」というよりは「ウエルベックの悪ふざけ」という感じがしないでもない。 語り手“ぼく”の薄っぺらさときたら読んでて怒りを覚えるほどで、「あぁ、軽薄でのんきな、しかし自分に魅力があると思っているインテリほど役に立たないものはない」としみじみ感じさせてくれる(勿論、ウエルベックは意図して主人公をそう設定したのだろうけど。 自分の欲望のためにはなんでも自覚なしに売り飛ばす男として)。
 なのでキャッチコピー的に期待されていることはほぼまったく書かれていない、と思ってもらって間違いない。 発売当時の熱狂ぶりも、思えば潮が引くようになくなっていったなぁ、と思い返せばそれも納得。 大真面目にフランスとイスラム原理主義について述べている解説が的外れというか、すごく温度差を感じてしまうほどだし。
 結局、インテリを名乗っていても男ってダメなやつなんです、楽な方に流されていきます、という自白の書、という感じか。
 だから彼の自信を更に喪失させるようなパワフルで魅力的な女性は出てこない(存在はするのだろうが、描写がない)。 イスラムはそのための装置だったのではないか?
 とはいえ文は平易であり、翻訳小説特有の読みにくさはない。 なるほど、ウエルベックがフランス・ヨーロッパで人気ならば、村上春樹が人気があるのもわかるわ、と納得した。

ラベル:海外文学
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする