2016年04月18日

Mr.ホームズ 名探偵最後の事件/MR. HOLMES

 シャーロック・ホームズ物は原典が偉大すぎて(というか、あまりにも子供の頃から読み親しみすぎてて)、小説としてのパスティーシュ物(作者はコナン・ドイルではなく、ホームズ物の設定をそのまま借りた新しいホームズの物語)を読んだことがない。
 むしろ、手に取る気も起こらないのは改めて感じると不思議。
 でも映像作品ならなんか別。 どうせ違うものだし(グラナダTVの『シャーロック・ホームズ』連作は原作に最大限に近い世界を構築したとは思っているし大好きですが。 ホームズ役はジェレミー・ブレッドで!)、だからBBCの『Sherlock』もミーハー心で楽しめる。
 で、今回は93歳、老境にいるホームズが主役! エセックスの田舎に引越し養蜂をしているというのは原典(正典?)に載っている設定通りだし、しかもホームズをイアン・マッケランがやるというのだから、これは観ないわけには!
 のちに、原作小説が存在することを知って・・・映画オリジナルじゃなかったんだ・・・とショックを受けたけど。

  ミスターホームズP1.jpg 私には、やり残したことがある。

 シャーロック・ホームズ(イアン・マッケラン)も93歳、今は海辺の家で養蜂をしながら、家政婦のマンロー夫人(ローラ・リニー)とその10歳の息子ロジャー(マイロ・パーカー)と少々口やかましくも静かな日々を過ごしていた。 だが、ホームズは日々減退していく自分の記憶と戦い、自分が探偵として現役を引退せざるを得なくなった30年前の未解決事件についても考えていた。 ローヤルゼリーに次ぐ滋養食材として山椒を探し求めた日本への旅行でヒントを得たホームズは、利発なロジャーを助手として最後の事件を解決しようとする・・・という話。
 物語は純文学テイストで進むのだけれど、ところどころ過去のホームズ映画等に対するオマージュが見えてニヤリとする場面も。 あたしがいちばん受けたのが、<ワトソンが書いた小説としてのシャーロック・ホームズ譚>(世間の人々はそれがすべて事実だと思っている)が映像化された作品でホームズを演じていたのがニコラス・ロウだったこと!
 『ヤング・シャーロック』の主役だった人だよ!
 しかし『ホビット』でいくらガンダルフが老け込んだとはいえ、イアン・マッケランご本人は93歳ではないはず(確か彼は70代後半?)。 より老いた彼を観るのかぁ、なんかなぁ、と複雑な心境。 ポスタービジュアルはそんなに老けてはいないから余計に。

  ミスターホームズ3.jpg こっちの予想以上にヨボヨボとされていたので、びっくり! というかショック大きい!
 でも戦争で父親を亡くしたロジャー少年との交流は、ホームズから父性(祖父性?)を引き出しているようでもあり、かつてのワトソンとの関係の再構築のようでもあって微笑ましい。
 映画館のパネル展示を見て驚いたのだが、真田広之が出てるじゃん!、というのにもびっくりで(そういえばライヘンバッハの滝以降、行方不明になったホームズはその間に一時期日本を訪れたことがあるという記述があったような)。 アンソニー・ホプキンスに続きイアン・マッケランと共演なんてすごいな!

  ミスターホームズ2.jpg ホームズに日本を案内する外交官タミキ・ウメザキとして登場(勿論彼には彼の目論見があり、地元に戻ってからのホームズを悩ませることに)。 外国語の台詞でもこんなに芝居のうまさが伝わってくるんだからすごいよ! 勿論、台詞以外の動作などから伝わるものもあるんだけど。

 そしてローラ・リニーまで出てる! この子役の男の子、どこかで見たことある! なんでこう好きな人ばかり出るの、評価が甘くなるじゃないの・・・(そもそも監督のビル・コンドンと主演イアン・マッケランはあの名作『ゴッドandモンスター』をつくり上げたコンビである)。
 そんなわけで映画内の時間軸は現在と30年前の二つ(かっこいいほうが30年前)。
 現在パートもエセックスでの出来事と、その少し前の日本滞在時とにパートは分かれる。

  ミスターホームズ4.jpg ロジャーがまた賢くてかわいい! さすがホームズが助手に見込むだけある。
 マンロー夫人はハドソン夫人以上におせっかいというか世話好きというか・・・ローラ・リニーがすっかり“田舎のおばちゃん”となっていることにもびっくり。

 人は生き続けていく限り老いる。 勿論老いを楽しむこともできるが、ある程度を過ぎると<衰え>から目をそらすことができなくなる。 現代の科学・医学においても変わらず、いわんやシャーロック・ホームズにおいてもをや、である。
 いや、天才的頭脳の持ち主であればあるほど、自らの衰えを認められないし許せないのであろう。 老けメイクの奥で輝く眼に、ホームズの怒りと苛立ちが見える。 衰えを受け入れることはあきらめることではないのだが・・・と、一応彼に比べればまだ若い(とはいえ衰えは感じ始めているけど)あたしがそんな風に思ってしまうのは不遜であろうか。
 老けメイクだけではなく、全身の動きすべてに<老い>を表現しつくイアン・マッケランの鬼気迫る姿には、否応なく死が迫る事実を前に懸命に頭脳を守ったまま対抗したいという執着を感じさせて、凡人であるあたしには及びもつかない葛藤があることを示してくれる。

  ミスターホームズ1.jpg だってこの頃の記憶の方が鮮明だったりするんだもんね。

 けれど、事件の真相が彼にもらたしたものは知的好奇心を満足させることだけではなく、また別の真実(人は一人では生きられないとか、誰かのためになれることが大切だとか、ワトソンさんならば当たり前だと言うだろうけどかつての若きホームズならば鼻で笑ってしまいそうなベタなこと)だった。
 そしてそれが、彼の心の平穏に少しでも役に立ってくれれば。
 ラストシーンに広がる美しい風景が、それを表してくれるものであるならば、あたしもうれしい。 ホームズの晩年は幸福なものであったと思っていたいからね!

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする