2016年03月04日

部屋/エマ・ドナヒュー

 映画『ルーム』のチラシに、原作本の邦訳がある旨の記述があったので急いで探した。
 ハードカバーは2011年(原著は2010年)、文庫は2014年1月とある。
 全然気づいてなかったよ!

  部屋1インサイド.jpg部屋2アウトサイド.jpg 文庫版では上・インサイド下・アウトサイド と副題つき。

 5歳になった“ぼく”・ジャックはママと二人で≪へや≫に住んでいる。 そもそも部屋で生まれたジャックは≪へや≫の外の世界が現実として存在するのか理解できない。
 ジャックの語りで紡がれる『インサイド』は≪へや≫の中での毎日の暮らしぶりから怒濤の脱出劇までを、『アウトサイド』では≪そと≫に出てからの様子が綴られる。
 知能の高いママによって一般的な5歳よりもはるかに進んだ知能と言語能力を持つジャックだが、生まれてから直接日光を浴びたことがない・広いところを走ったり動いたりしたことがない(狭い部屋に監禁されていたわけだから、いくらママが運動させようとしても限界がある。 階段ののぼりおりもしたことがない)ため体力的には“普通の”日常生活を送れるぎりぎりで、それをもどかしく思っているのが余計に切ない。
 作者は実際のオーストリアで発覚した事件がインスピレーションのもとになったことを認めつつ、直接特定の事件をモデルにはしていないこと、世界中で起こった同様の事件を参考にしたこと(そこには日本も含まれている)、描きたかったのはそのような犯罪についてではなく、困難な状況の中で生き抜く母と子の姿である、的なことを言っている。
 確かにジャックの一人称故、犯人である“オールド・ニック”の姿は最小限にしか出てこない(それはママがジャックを犯人から守り通したからだ)。 そして、せっかく脱出してもそれで終わりではなくて、新しい世界との対応、マスコミや人々の好奇の目からいかにして逃げるかが焦点になってくる。
 ジャック視点なのですべてにやんわりとしたフィルターが掛けられているけれど、それ故にその状況を想像するだけで胸が痛んで泣きそうになる(たまたま上巻を読み終わったあたりで『ルーム』の予告編を見たが、涙腺が決壊しそうになった)。
 世界は確かに美しいが、醜いものも確実に存在して思わぬところに隠れている。
 賢くてかわいいが、限度や落としどころをまだ十分学べていないジャックの未来に幸あらんことを。
 つくづく、子供がどう育つかって手間と愛情を惜しまないことなのかなぁって感じてしまう(ママは否応なくジャックと24時間一緒にいたからすべての愛情を注げたし、ジャックの存在があったから監禁生活にも耐えられた。 でもそれは結果的にであって、犯人や犯行を許し認めることには絶対ならない)。
 今も世界中のどこかで、人知れず監禁されている人たちはいるのだろう。 一刻も早く救出されてほしいと願わずにはいられない。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする