2016年02月09日

フランス組曲/SUITE FRANCAISE

 戦後70年とかそういう節目は世界各国にあるらしい。 ナチス関連映画が(新しい観点のものも含めて)それなりに毎年何本かつくられるけれども、このところすごく多い、という感じがする(日本に入ってくるまでのタイムラグがあるので、余計にその期間が長く感じるのかもしれない)。
 そんなわけで本作は、パリがナチスに占領された時期のフランス片田舎での物語。
 でも今作のいちばんの目玉は、アウシュヴィッツでなくなったという著者が遺した原稿が発見され、それを元にした映画である、ということだよなぁ、と思いながら観に行く。 勿論、ミシェル・ウィリアムズは好きだがあたしの観たいポイントのいちばんはそこだったりするし。
 原作者イレーヌ・ネミロフスキーはその当時活躍していた現役の作家であったようだが、ユダヤ人だったため1942年にアウシュヴィッツに送られ、一カ月後にはなくなったそうである。 残された娘たちは逃亡中も母の書きつけを肌身離さず持っていたが日記だと思い込んでいて、つらい記憶に向き合いたくなくてずっとそのままにしてしまい、それが日記ではなく小説だと気づくのに60年以上たっていた・・・という、もうそれ自体がドラマになるエピソード。

  フランス組曲P.jpg その旋律はあなたのもとへと連れ戻す
   1940年、ドイツ占領下のフランス―― 愛と使命に翻弄された男女の物語
   アウシュヴィッツに散った作家が残した一つのトランク そこには、命を削って書き続けた“愛の物語”が眠っていた――

 1940年、ナチス・ドイツの占領下にあったフランスで。 田舎町で大地主の厳格な義母アンジェリエ夫人(クリスティン・スコット・トーマス)とともに暮らしながら、出征した夫の帰りを待っているリュシル(ミシェル・ウィリアムズ)は、小作人から容赦なく取り立てをする義母のやり方についていけず、しかし正面切ってそれに異を唱えることもできない日々を送っていた。 ある日、ついにこの町にもナチス軍が到着。
 彼女の家に、ナチス軍のブルーノ・フォン・ファルク中尉(マティアス・スーナールツ)が宿泊することが決められる。 ナチスの軍人は残酷だと聞かされていたが、ファルク中尉は芸術を愛し、ピアノを借りて作曲もする繊細で穏やかな人物(彼がつくっているのが“フランス組曲”というタイトルのピアノ曲)。 リュシルが孤独であるように、ブルーノもまた軍の中で孤独を抱えていた・・・という話。

  フランス組曲1.jpg いつしか、ともに愛する“音楽”を通じて惹かれあうようになっていく二人。
 よくある悲恋ものといえばそれまでなのだけれど、よく観るとそうでもなくて。
 絵に描いたような残忍なナチス将校も登場して小作人たちに迷惑をかけるし、それを自浄できない<軍隊>という組織の理不尽さ、それが個人の“恋愛”の枠を超え、占領国の男と被占領国の女という立場が浮き彫りになってしまうどうしようもなさ。
 趣味や関心が共通項となって分かり合えたはずの人でも、結局他国人(この場合は敵国人でもあるわけだが)である、ということが足枷になる、他の事を優先してしまわざるを得ない時代だということがしみじみと。 だがリュシルにとっては、それが自立へとつながっていく、というのがなんとも皮肉というか・・・そうでなければ女性は誰かの言いなりでしか生きていけないときだったのね。

  フランス組曲4.jpg とりあえずクリスティン・スコット・トーマス、今回の役は怖すぎだった。
 実際に戦場で戦っている人々も悲惨だが、残されて生活をしていかなければいけないものたちも違う種類の悲惨さがある、ということをまじまじと知る。 非日常の中にある日常は、進んでしたいことじゃない。 やはり戦争や一方的な支配は全方向に迷惑だ。
 唐突に訪れるラストは予定調和ではないが故に心に引っかかり(原作が未完で途切れてしまっているから仕方ないのだが・・・あたかもとってつけたような感じさえある)、それ故にまた「作者もまた歴史の犠牲者の一人である」という事実を突きつけられる。
 だからこそリュシルには生き残ってもらえるような、希望を感じさせるラストにしたかったのだろうか。 しかし単純な希望ではありえないところが、エンディングのあたしの胸中をより複雑にさせるのだが。
 恐ろしい現実を前にして、日記を綴るよりそれをもとに物語を紡ぐ方がもしかしたら難しいかもしれない。 ただの現実逃避ではなく、他の、しかも後世の人間が読むに耐えるような作品にするには。 原作者の強靭な精神、フィクションのもたらす力、そういうものを実感する映画だった。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする