2016年01月11日

杉原千畝/PERSONA NON GRATE

 最初に杉原千畝の功績が広く知られるようになった頃(20年くらい前?)は、それこそ「命のビザ」・「日本のシンドラー」というキーワードに代表されるように、彼がとてもヒューマニストだったから、というような“美談”に集約されていたように思う。
 勿論、美談を否定するつもりはないが、あの当時の外交官であれば今以上に諜報員的な役割が強かったはず(いや、今でも本来そうであっていいはずだが)。 今更、あえて彼を主人公に映画をつくるならそんな部分もしっかり押さえてほしいなぁ、と思いつつの鑑賞。 冒頭はまさにスパイ映画さながらの展開で(007と違って杉原は花瓶で殴られてしまうところなんかリアル)、これは期待がもてそうだ!、と盛り上がる。

  杉原P.jpg ひとりの日本人が、世界を変える――
    激動の第二次世界大戦下 日本政府に背き命のヴィザを発行し続け6000人にのぼるユダヤ難民を救った男の真実の物語

 1935年、満洲国外交部に勤務していた杉原千畝(唐沢寿明)はハルビン大学仕込みの高い語学力と情報網の重要性を利用して、ソ連との北満鉄道譲渡交渉を日本側に有利な条件で成立させることに成功。 次はモスクワ勤務の予定だったが、彼の能力を警戒するソ連から<ペルソナ・ノン・グラータ:好ましからざる人物>の評価を下され、在モスクワ日本大使館への赴任の話はなくなり、リトアニアのカウナス日本領事館への勤務を命ぜられる。 それでも同地でオリジナルの情報網を構築して激動のヨーロッパ情勢を分析、日本に情報を発信してきたが、ついに第二次世界大戦が勃発。 日本国内で軍部の力が増すにつれ、都合の悪い情報は無視されるようになってきてしまい・・・という話。
 日本側にとっても彼は<好ましからざる人物>となったのだ。
 まず、杉原千畝はとても有能なインテリジェント・オフィサーだが、天才というわけではない、という設定にしてあるのがよかった。 やるべき仕事をしっかりやり、集まった情報から判断すれば誰だって同じ結論に達するでしょう?、という合理性重視の人。 現地人を重用するのもその方が役に立つからだし、差別意識など非合理的なものは持っていないだけなのに、現地職員たちから結果として信頼される。

  杉原3.jpg 飛び込みで自らを売り込みに来た彼を、運転手として雇うのも(そして諜報活動の片腕とするのも)杉原の心意気故。
 だからユダヤ人へのビザ発給に至ったのも、ヒューマニズムがなかったとは言わないが、根本には合理性があったから(それ故に、彼が“情”を優先して行動したと見える場面は感動もひとしお)。 といってもお涙頂戴ではないつくりが素晴らしいのであります(さすがチェリン・グラック監督、日本語ベラベラしゃべっても外国人だけのことはある)。
 彼の合理的な説得力が周囲の人を動かすわけで。 でもその範囲が狭かったのが日本の悲劇だったと言えましょう。

  杉原6.jpg 小日向さんの七変化(正確には3変化ぐらい?)も面白かったですよ。
 また、彼は6000人のユダヤ人の命を救ったことにはなったけど、その結果、生き残ったユダヤ人科学者の力があったがためにのちに日本がひどい目に遭った(原爆作成者のひとりになった、的な)、という日本にとってのマイナス面も指摘されており、彼の行動がすべて善とはならなかった、という運命の皮肉を描いているところも好ましい。
 彼はただの善意の人でも希代のヒューマニストでもなく、ひたすら苦悩する一人の人物だったのだ。 それがいかんなく描かれているのがよい。 ただ全体的にストーリー展開が早足だったのが気になったかな、ぐらい(でも満州時代にもある程度時間を割こうと思ったらこうなってしまうのだろうか)。 
 CMなどでぶっ飛んだキャラをやりながら、そのイメージを寄せ付けずに杉原千畝を表現しきった唐沢寿明はすごいですなぁ。 半分ぐらい英語の台詞も難なくこなしていたし(滝藤賢一さんの英語にも「おぉっ!」ってなりましたけど)。

ラベル:映画館 日本映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする