2015年12月23日

パリ3区の遺産相続人/My Old Lady

 なんとなく、コメディリリーフではないケビン・クラインを見るのは久し振りじゃないだろうか、と思って。 でもあたしの目的は実はマギー・スミスだったりするのですが(最近、じいさまだけでなくばあさまにも惹かれている気がするなぁ、あたし。 こういうばあさまになりたい、という憧れだろうか)。

  パリ3区のP.jpg セーヌのほとり 人生はめぐり逢う
  父の遺したアパルトマンに住む見知らぬ母娘。 そして明かされる秘密とは――

 マティアス・ゴールド(ケヴィン・クライン)は疎遠だった父親が亡くなったことで、パリの3区と4区にまたがるマレ地区にあるアパルトマンを相続した。 ずっと父親を憎み、人生の負け犬になり下がっているマティアスにとって、この遺産は一発逆転の最後のチャンスとばかりに有り金をはたいてパリ行きのチケットを買った。 マレ地区は観光地ではなく、むしろパリ市民に人気の高い場所で、アパルトマンは部屋数も多くて庭付き。 これは高く売れそうだ!、とよろこぶが、そのアパルトマンにはイギリス生まれの老婦人・92歳のマティルド・ジラール(マギー・スミス)が住んでいた。
 彼女によればこのアパルトマンはフランス伝統の不動産売買制度“ヴィアジェ”によってマティアスの父に売却され、元の所有者であるマティルドが亡くなるまで転売できない上、毎月2400ユーロを年金のように彼女に支払い続けなければならないということがわかり、マティアスの怒りが爆発。 最後まで父は自分の邪魔をする、と・・・。
 マティアスは現在57歳。 うーん、この歳までアダルトチルドレンを引きずると大変なことになるな・・・と思わず自戒してしまうのでした。 それくらい、マティアスのダメっぷりはすさまじい。 マティルドさんの余裕ある態度と比較すれば余計に(まぁ、92歳から見れば57歳はまだまだひよっこに見えるのかもしれないが)。

  パリ3区の遺産相続人1.jpg マティルドの娘クロエ(クリスティン・スコット・トーマス)との第一印象はお互い最悪。 でもそれが意外に・・・というのはお約束。

 ヴィアジェ、というシステムがいまいちよくわからなかったのですが、マティアスが売買の話を持ち込んだ街の不動産屋のルフェーヴル(ドミニク・ピノン)の説明でなんとなく(このおじさんもすごくいい味を出していて大変素晴らしい)。 先の持ち主が早く死ねば買い主はとても安く建物を手に入れることになるけれど、買い主が先に死んでしまった場合は先の持ち主を養い続けただけで契約もおじゃんというまさに<時間>をかけたチキンレース。 でも、お金では買えない関係性が先の持ち主と買い主との間にはできあがる、という、実にパリ的な味わいのある契約、のように思われる(現実においてはいい感じにならない場合もあるんだろうけど、他の方法もあるのにあえてヴィアジェを選択するということは、もともとなんらかの関係なり感情があるのではないか。 金銭的にそこでしか折り合えなかった、という可能性もあるが)。

  パリ3区の遺産相続人2.jpg これで92歳は若すぎるでしょ(マギー・スミスは80歳です)! 健康の秘訣は毎日のワインだそうです。

 前半はそんな仕組みで物語を引っ張られ、後半はマティアスの父とマティルドが本当は知り合いでした・・・ということから広がる波紋(内容は観客には想像ができますが)と、アダルトチルドレン卒業の過程、といったところか。
 予告のイメージでは、まったく関係のない人々によってつくられていく疑似家族的な話かと思っていましたが、そんなファンタジックな要素はかけらもなく、おとなげない台詞の応酬が続きます。 そこはやはり芸達者な三人、あたかも舞台劇を観ているかのよう(そういえばこの話自体舞台っぽい。 あとからチラシをよく見たら、ブロードウェイの舞台用に書きあげられた戯曲をもとにしたものだとか)。
 傍から見ていくらいいトシであろうとも、子供の頃に受けた心の傷をうまく修復できないままの人はいるし、理解してもらえる人に出会えるだけでかなり違うのに、そのチャンスがなかった人を自己責任と切り捨ててしまうのも乱暴だし、つまり子育てとはそれくらいの危険性をはらんでいるものなのですよという話であり、でも再スタートは何歳からだって可能ですよという話でもある。

  パリ3区の遺産相続人3.jpg マティアスにとってはこの庭の石がひとつの転機。
 多分、この映画、いわゆる“普通”に生きてきた人から見たらやたら「ご都合主義」の退屈な作品に見えるだろうし、アダルトチルドレン要素を大なり小なり持ち合わせている人にとっては身につまされ、「そうなってくれたらいいな」というハッピーエンド(実際はスタートだけど)になるんじゃないだろうか。 ま、中には自分にそんな要素があるって気づいてない人もいるよな、冒頭のあたりまでのマティアスみたいに。
 おシャレほのぼの映画系の予告にそんなトラップを仕掛けてあるなんて、ずるいぞ。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 19:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする