2015年12月21日

恋人たち

 なんとなく、橋口亮輔監督は超シリアスな作品はつくらないと思っていた。
 どこか悲しい現状にもささやかながら笑いがあって、というイメージが。
 しかし今回は主要人物の一人が通り魔に奥さんを殺されたという設定で、これは笑いにはできないだろ、とおののきつつ、橋口亮輔監督の新境地なのかな、と思ってみた。
 橋梁点検に天才的な勘を働かせる職人であるアツシ(篠原篤)には、愛する妻がある日突然通り魔に襲われ殺されたという過去があり、ずっとそれにとらわれている。
 もはや自分には関心がない夫と考え方が違いすぎる姑(木野花)と古くて狭い家に住みつつ、お弁当屋さんでパートをしている瞳子(成嶋瞳子)は、お弁当屋さんに鶏肉を卸している男(光石研)とふとしたことで親しくなって以来、灰色で平凡な毎日がバラ色のときめきに満ちたものに変わっている。
 自他共に認めるエリート弁護士の四ノ宮(池田良)は友人(山中聡)に以前からひそかに想いを寄せていたが、この恋は叶うわけもないことはわかっている。
 そんなバラバラの三人の日常が少しずつ交錯していく・・・そんな話。

  恋人たちP2.jpg それでも人は、生きていく
   今を生きるすべての人に贈る絶望と再生の物語

 大した説明がなくても物語に引っ張り込む、人物の断片の積み重ねからくる描き方はさすがです。 事情も、関係性もぱちぱちとピースがはまるように全体像が見えてくる。
 恋人たち、とはなんとも皮肉なタイトルだなぁ、と最初思っていた。
 でもこれは、「愛し合っている二人」を指す言葉ではなく、「(どのような形であれ)恋をしている人(たち)」という意味だったのだ。
 ワークショップで見出された新人3人がメインで、脇をベテランで固めるという構成が結構安心材料で、新人の方々がそんなにあやうく見えないというか、むしろうまいんじゃない?、と思わせる(どうやら、役者に合わせて脚本はあて書きされたようなのでそれも納得)。 必要であれば(というかそこまでの決意も感じさせず)あっさりヌードになっちゃう瞳子さんからも、「実は小劇場の役者さんか?」みたいなものを感じさせるし。
 橋口監督は、程度は大なり小なりあれど、絶望を覗いてしまった人に希望を与えるエンディングを用意している。 それは綺麗事かもしれないけれど、「それでも、生きていく」ためには必要なもので。

  恋人たち5.jpg 川の流れと空の色が効果的に使われている。

 ただ、あたしは個人的にもっと絶望感が深い内容だと思っていたので・・・「あ、意外に、こんな感じ?」と驚いた。 もっと痛みを受けるかと思っていたから・・・あたし、ひどい人になってる? それとも『裁かれるは善人のみ』で耐性ができた?
 つらいのはわかる、特にアツシ。 わかるけど、亡くなった奥さんがいなくなったせいにして、日常生活を送れない理由にされちゃったら、奥さんとしても不本意じゃないかなぁ(というか「私のせいにしないでよ」って思うんじゃないかなぁ)、とつい考えてしまうあたしがいるのです。 悪いのはあくまで犯人、いなくなってしまった彼女への恨み事を言いたいのもわかるけど、それを言ったらおしまいじゃない、的な。 死にたかったら死ねばいいし、犯人を殺すなら殺せばいい。 しかしなにも行動せずにいるのは(勿論、悲しみに沈みこむ権利はあるし、それはそれで普通の反応だ)、その結果伴うリスクも受け入れなければならないだろう。 弁護士につぎ込む費用の前に、まず自分の生活だろ。 犯罪被害者なら多少なりとも公的援助が受けられるはずだし、それが原因で仕事ができないなら短期間でも生活保護を受けたっていい。 そういうルートを取らずに国民保険事務所でキレるのは、なんかちょっと違うなぁ、と。 不器用すぎるにもほどがある、と腹立たしくもあるんだけど、勿論、それは当事者じゃないから言えること。
 悲しみにおぼれるのは実は簡単でとても楽なことなのだ、と彼に早く気づいてもらいたい、と思うのは冷酷なことだろうか。 優しい先輩の穏やかな言葉を、もっと彼が前向きに受け止めてくれればいいのだけれど。
 あぁ、そうか、彼は<底辺の人物>として設定されているのか。 学もなく、そのことに劣等感をずっと感じつつ何もせず、初めて愛してくれた人だけが自分の人生のよりどころで。
 もし、その人と出会えなかったら彼の人生はどうなっていたんだろう?

  恋人たち2.jpg いちばん“恋人たち”という表現にはまるいいトシではしゃぎっぷりの二人。
 お弁当屋さんで働く主婦な瞳子さんもある意味<底辺側>の人かも。
 人をあまり疑うことを知らないから、つまらない詐欺にころっとだまされるしだまされたことにも気づかない(もしくは気づかない振りで自分を守る)。 だから自分の過ちにもあまり自責の念を持たないというか、きれいに忘れられるというか。 そういう意味ではとても強く、たくましい人と言えるのかも。
 いろいろあっても、最後には「いい人生だった」って思えるのはこういうタイプの人かもしれない。
 堂々と自分を「勝ち組」と言い切れる弁護士は、エリート臭半端ないんだけど、社会的にはマイノリティである<ゲイ>であることをどれくらいマイナスと受け止めているのだろう?(受け止めていない気がする・・・一緒に暮らしている彼氏に対してもすごく上から目線だし、鼻持ちならなさが素晴らしく自然でうまかった)。 性的少数者だからって性格がすぐれているとは限らないと冷静に描けるのも橋口監督ならでは。 そのくせストレートの幼馴染(現在妻子もち)にずっと恋心を募らせててって、今の彼氏にも失礼でしょうが! 本人にとっては純愛のつもりでも、気持ちがダダ漏れな分、ストーカーっぽいから!(これは同性異性関係ない)

  恋人たち1.jpg 多分、幼馴染の彼は四ノ宮の気持ちを知っているけれど、気づかない振りで何も言わないことが相手のためだと思っているんだろうなぁ。
 他者からの偏見によって(勿論、それはよいことではないのだが)いちばん大切なものをなくす羽目になって初めて、世間的にマイノリティであるすべての人々に対して(それこそ、依頼人の一人であるアツシに対しても)共感の気持ちを持つことができたのだろうか。
 あやしいけど、それが彼にとって新しい一歩になればいいと思う。
 と、3人についていろいろ考えることはあるのだが・・・詐欺師の手口が現実に明らかにあった事件なのですーっと醒める。 フィクションが現実を模倣してどうするのだろう。
 結果的にフィクションが現実に追いこされることはあるけれど、自らそれを真似するのは話が違う。 フィクションの意味すら否定しかねないということに、つくり手は気づいているのかどうなのか(現実の事件を現実以上に掘り下げる覚悟があるなら別だけど、この場合そうじゃなかったし)。
 趣味や夢想としてでも自分が書いた・描いた作品に足を投げ出す・平然としわをよらせる彼女の態度にも疑問が・・・役者さんたちはすごく頑張っていたけれど、彼らが体現すべき人物に矛盾があった、ということかもしれない。 もしくは、あたしにはまだまだ世の中に知らないタイプの人が沢山いる、ということなのかもなぁ。
 あぁ、人生まだまだ勉強です。

ラベル:日本映画 映画館
posted by かしこん at 23:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする