2015年10月07日

ヴィンセントが教えてくれたこと/St. VINCENT

 <ビル・マーレイ最高傑作!>というコピーに、「え、彼の最高傑作は『ブロークン・フラワーズ』じゃなかったの?」と思って確認したかった。
 離婚調停中のMRI技師・マギー(メリッサ・マッカーシー)は12歳のひとり息子オリバー(ジェイデン・リーベラー)とともに新しい町に引っ越してくるが、隣に住んでいたのは偏屈ジジイと近所でも評判(?)のヴィンセント(ビル・マーレイ)。
 酒とギャンブルが生き甲斐のようなヴィンセントにマギーははじめ警戒するが、残業を断れず、仕方なくオリバーの世話を彼に頼むことに。 気まぐれで気難しいヴィンセントにオリバーは困惑するが、心の奥底にあるヴィンセントの心の機微を感じ取ったオリバーは尊敬の念を持って接するようになり、そしてその交流がヴィンセントの頑なな心を溶かしていく・・・という話。

  ヴィンセントが教えてくれたことP.jpg さあ、人生のホームワークを始めよう。

 だが、そこはビル・マーレイである、そんな甘ったるい話ではないしあえてストレートな感動を避ける方向に進むのは想定内。 それに、主人公はあくまでオリバーの方だもん!
 賢くて繊細なオリバーを、ひ弱とレッテルを貼っていじめの標的にする粗野さはあまりにステレオタイプな<アメリカの学校>であるが、マギーが息子のためにとカトリックのいい学校に入れても結局そうなのか・・・と悲しくなる。 しかしその分、先生方の対応が柔軟で大変面白かった。 特にオリバーのクラス担任教師(クリス・オダウド)が「僕、ユダヤ教徒かも」と彼に言われた時のリアクション、最高!
 宗教に関係なく受け入れる、という寛大さが押しつけがましくなくユーモラスさにあふれている(それは同時に、ブルックリンが人種のるつぼどころじゃなくいろんな人がいる、という状況を示してもいるのだが)。 あ、この先生神父さん、メガネかけてて一瞬分からなかったけど、『ブライズ・メイズ』の警官さんだ!

  ヴィンセントが教えてくれたこと4.jpg メリッサ・マッカーシーも強力コメディ路線ではなく、基本シリアステイストで「息子を守りたい母」をやっていてよかった。 シングルマザーであっても、手に職を持っていると強いのはどこの国でも同じか。

 ナオミ・ワッツが現役ストリッパーで臨月近い妊婦のロシア人、という設定もなかなかだが、「夜のお仕事の人」というヴィンセントの紹介を「夜勤の人」と母に説明するオリバーくんの天然っぷりもなかなかである。 というか、この子かわいいぞ!、と子役チェックに厳しいあたしも太鼓判を押したい。
 このままいい感じに成長していい役者になっていただきたいものだ。
 それにしても、あぁ、ビル・マーレイがジジイになってる!、としみじみする。
 『ブロークン・フラワーズ』にあったペーソスの中に潜むダンディさがかけらもない(まぁ、こういう粗野ながんこジジイをやらせても見事に似合うわけですが)。 で、心の奥底に秘めた悲哀を台詞ではなく背中や、ちょっとした表情であらわすのがうまいというか、ずるいんだよなぁ。 またネコがヴィンセントに何気なくなついている描写がなんとも言えずほっこりするというか、ネコがなついてるんだからなんだかんだいって悪いやつではないのよね、ダメな人だけど、と納得する。

  ヴィンセントが教えてくれたこと2.jpg で、この二人がオリバーを挟んでなんとなく仲良くなっていく過程も好き。

 だから終盤、原題にある<聖人>の意味がわかるときに押し寄せてくる感動ときたら!
 あたしはそう言ったオリバーに泣いたよ。
 しかしその感動を一気にひっくり返すエンドロールのヴィンセントのいい加減さがほんと素晴らしすぎて脱力(ボブ・ディランの歌をくわえ煙草でテキトーに歌う、そして煙草を怒られるたびに隠れて吸う姿の情けないこと)。 さすが、ビル・マーレイ!

  ヴィンセントが教えてくれたこと1.jpg ま、こういうところを見ちゃったら、母親としては「息子に悪影響!」って怒りたくもなりますわね。
 人間には100%善人もいなければ100%のクズもそういない、という実はすごくいい話だったなぁ。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする