2015年05月03日

セッション/WHIPLASH

 とても観たかったこの映画。 オヤジ好きのココロをくすぐるJ・K・シモンズの存在、低予算ながらアカデミー賞の候補に挙がるという新鮮さへの期待、などなど。
 予告編でもその不穏な空気は十分漂っており、ジョン・カビラはアカデミー賞授賞式(生中継)のときにこの映画を「『フルメタル・ジャケット』meets『愛と青春の旅立ち』」と表現したけれど、ほんとなのか? なんかホラー映画みたいなんですけど?
 ま、確かめるためには自分で観るのがいちばんです。

  セッションP.jpg アカデミー賞が飛び付いた才能と狂気
   <完璧>を求めるレッスン。二人のセッションは誰もみたことがないクライマックスへ――。

 アメリカを代表する名門音楽大学へ入学したニーマン(マイルズ・テラー)は、自分の将来は約束されたものとバラ色の未来を夢見ながら、世界に通用するジャズドラマーになるための努力は惜しまない青年。 まず彼の目標は、鬼教師との評判ながらも実力はぴかいちのフレッチャー(J・K・シモンズ)が指揮をする大学のクラブバンドに入ること。
 ニーマンに穏やかで優しげな言葉をかけるフレッチャーだったが、いざクラブバンドの練習に加わってみると、まさにそこはフレッチャーによる“恐怖政治”の場。 おぞましいほどの罵声、暴力も辞さないフレッチャーの指導に頭がおかしくなりそうになりながらも、なんとかしがみつこうとするニーマン。 この二人はいったいどこへ向かおうとしているのか・・・という話。
 ドラムが題材、というのは個人的には新鮮で、「うおぉ、ドラムってここまでやらないといけないのか(ということはマリンバ・パーカッションなどの方々も同じような努力と苦労をしてるのね!)」ということを改めて思い知ったり。 シンバルに飛び散った汗が次第に赤く染まっていくカット(スティックを持つ指のマメがつぶれて出血しているため)とか、低予算だからこその工夫がチープにならず、あまり見ないアングルやカットになっていて好印象。
 フレッチャー先生がいつも黒Tシャツにジャケット(指導するときはジャケットを脱ぐから基本黒Tシャツ姿のみ)なのも衣装を用意する余裕がないからなんだろうけれど、それが彼の得体の知れなさを表してもいて、アイディアの勝利、って感じ(パナマ帽姿もダンディだよ、J・K・シモンズ!)。
 ただ、若干ディテールに問題あり・・・ドラマーにとっては命ともいえるスティックを、肝心な時に何故忘れる?、とか、何故時間を守れるよう工夫しない?、など、ニーマンくんは自分で自分の首を絞めているというか、スリリングさを自分で作り出している部分も・・・。 脚本も書いている監督のデイミアン・チャゼルはあの迷作『グランドピアノ 狙われた黒鍵』の脚本家だそうなので・・・そういう詰めの甘さ、納得。 今回は自分で監督もしたから、そのへんのアラを編集などで自分である程度カバーできた、ということなのかもしれない。

  セッション3.jpgそれにしてもニーマンくんには、いろいろと問題ありで困ったもんだ。
 それは若いからなのかもしれず、自分の才能に少なからず自負を持っているためだからかもしれず、怖いもの知らずのお年頃だからなのかもしれない。 「才能があれば何でも許される」と根本で思っている彼の傲慢さは、主人公として観客の共感を得られづらい。
 しかしそれはフレッチャーも同様で、いくら「才能を最大限に引き出すため、伝説の存在となりうる演奏家を生み出すため」という目標のために手段を選ばないスパルタ式指導法は<パワハラ>という言葉では追いつかないレベルまで行ってるし、なにより本人は自分が正しいと思っているみたいだから手に負えない(でも実際は彼がどう考えているのか、どこまでが計算の上の言動のなのかまったくわからないようになっていて、そのあたりが実にホラーなのである)。

  セッション2.jpg アップになると爬虫類系の顔が強調されるのもまた、ホラー演出か。
 邦題は『セッション』であるが、原題は“WHIPLASH”。 劇中にそういうタイトルの曲(ドラムが見せ場)も出てくるが、つまりは<鞭打ち>ってことである。
 至上の音楽を前にした究極の師弟愛、という映画、と読み取ることもできるのだけれど、実際のところそんなことではなくて、結局は「鞭を振るうのはどっちか」という主導権争いのような、互いが目指すものがどっちがレベルが高いかというおとなげないケンカのような気もして・・・少なくとも音楽映画ではない、気がする。 だってせっかくのクラブバンドジャズを扱いながら、バンドとしてのグルーヴ感はまったく描かれないもの(この映画にかみついたジャズミュージシャンは、そこが気に食わないのであろう)。
 『はじまりのうた』『君が生きた証』と比べれば、“音楽映画”という同じジャンルには入れられない。 あくまで、“音楽を題材にしたホラー映画”だと思う。 勿論、それはJ・K・シモンズの存在があったから可能だったわけで、彼がいなければこの映画はどうなっていたかわからないと本気で思う。 助演男優賞、もらって当然です。
 そんなわけで、いろいろアラはあるものの、個人的にはかなりキライじゃないというか、むしろ大変面白かったです。 心を読ませないフレッチャー先生の言動にドキドキしながら走り抜けた緊迫の107分。
 キャリアも長い実力派ながら地味な存在だったJ・K・シモンズに脚光を浴びせ、さらにオスカーを与えたというのも個人的にはうれしい話。 いろんな意味で話題になってるし、低予算で日本でも縮小公開の洋画が大ヒットしてくれれば、それはそれでありがたい話なのです。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする