2015年05月02日

偽りの街/フィリップ・カー

 以前、法月綸太郎がフィリップ・カー『静かなる炎』を褒めているのを見て、「あぁ、ちょっと気になっていたんだよね」と買ってみたら、実はシリーズ物で(それが第5作)、遡って4作目『変わらざるもの』も買ったはいいが、やはり1作目から読むべきよね!、と古本屋を探してみたがない(それまでが、そこそこ前の話)。
 この前、ふと思い立って(というか思い出して)図書館で検索したら、あった!
 しかも翻訳は東江一紀! こ、これは読まないといけないだろ!
 ということで図書館から借りだし数ヶ月・・・予約を入れる人がいないのでずーっと借りっぱなしにしておりましたが(無許可延滞ではなく、いったん返してからまた借りるパターン)、読み始めたらこれがまた面白く、あっという間に読み終わってしまいました。

  ベルリン三部作1偽りの街.jpg それでも平成4年6月発行の新潮文庫。

 なんと舞台は1936年のベルリン。 私立探偵のグンターの元にある調査の依頼が舞い込んだのがすべてのはじまり。 “わたし”の語りで進む正統派ハードボイルドでありながら、ナチスがどんどん台頭し始める渦中という時代設定がこの小説を特別な存在に。 状況が悲劇的になればなるほどユーモアが冴える皮肉が、グンターの不屈の精神を表すようで、そしてベルリンやドイツがその後辿っていく恐るべき道を示しているようで。 東江節健在!、を堪能できるという意味でもとてもうれしい一冊でした。
 まだ街中で親しい者同士の間ではナチスや総統への陰口(?)を言えるけれど、ゲシュタポの存在は無視できなくなってきており、強制収容所は動き始めているけれども街にはユダヤ人の姿はまだある(ドイツ人優遇は始まっているが、公然とナチスを批判する者はドイツ人でも投獄されたり処刑されたりもする)、という、のちの現在からみれば“歴史”の一部なのだけれど、その当時だって確かに“現在”だった、というリアル感もとてもよくて。
 グンター自身ははっきりした政治信条を持っているわけではないけれど、本能的に<人間として>正しいと感じるものを抱いているので、彼が持つ状況にそぐわないほどのユーモア感覚を、あたしは大変好ましく思った。 なんとなく、森雅裕を思い出させる文体でもあり。
 しかし『偽りの街』以降の『砕かれた夜』『ベルリン・レクイエム』はまとめて<ベルリン三部作>と呼ばれているそうな・・・(だから一作目は不完全燃焼の謎が残って次作へ続いている)。 あぁ、続きを読まなければ!
 4作目以降は出版社も変わり、訳者も変わっていますが、東江さんの当時の体調を考えたらもう無理な感じだったんだろうし、<ベルリン三部作>とはまたかなり系統が変わっているようなので(というか、時代的に、年齢的に軽口を叩いてばかりはいられない状況になっていくのであろう)、それはそれでぐっと違う世界観になっていることを期待。
 さっ、2作目の予約を入れるか!

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする