2015年02月06日

誰よりも狙われた男/A MOST WANTED MAN

 新開地の二番館・シネマ神戸(Cinema Kobe)にて、『誰よりも狙われた男』鑑賞。
 ここは二本立て・入れ替えなしでいつでも女性は1000円なので、できれば二本とも見たいところだが、時間の関係上、同時上映の『フルスロットル』は割愛(すでに以前見ているから)。とにかく目的は、神戸市内初上映の『誰よりも狙われた男』なのである。
 9.11から十年後ぐらいの時代設定、イスラム過激派に神経を尖らせまくるヨーロッパ・アメリカという今日にも続く題材なので、『裏切りのサーカス』よりも大変わかりやすく、けれど過剰に説明しない・豪華キャストという意味では共通するものがあり(こっちも地味な映画であるが緊張感はなかなか)、やっぱりジョン・ル・カレすごいなぁ!、と今更のように感じ入った次第。
 結局、映画を見るまでに原作は読み終われなかったのだが(というかかなり最初の部分で止まっているが)、三人称多視点導入の原作に比べ、映画はその要素を残しつつもフィリップ・シーモア・ホフマン演じるギュンター・バッハマンに重点を置いた構成に。
 ダニエル・ブリュールをちょいとした脇役に使ってしまうという太っ腹さにも、あたしは大変驚きました。

  誰よりも狙われた男P.jpg その瞬間、世界の全てが敵となった。
   『裏切りのサーカス』のジョン・ル・カレがあぶり出す、“現代”の<リアル>諜報戦。

 ドイツ・ハンブルグ。 海から一人の若い男がこっそりと上陸するところから始まる。
 ギュンター・バッハマン(フィリップ・シーモア・ホフマン)が指揮を執るテロ対策チームは、街中の監視カメラからその男、イッサ・カルポフ(グレゴリー・ドブリギン)に着目。 イスラム過激派に関係すると予測されたからだ。 しかしギュンターの組織の権限は大きくなく、強硬論を唱える別部署からの圧力もあるが、ギュンターはあえて彼を泳がせる道をとる。
 その一方でイッサは旧友を頼り、人権団体弁護士アナベル(レイチェル・マクアダムス)に接触、「銀行家を探している」というが・・・。
 ギュンターは大局を見据えてテロの資金源となっている人物を摘発したいと考えているが、手っ取り早くあやしい人物を捕まえて背後関係を自白させれば済むと考える別組織(その中にはCIAもあり)も絡んできて、ギュンターたちの邪魔をする。
 強行突破特殊班を導入するなど野暮、標的に静かに近づき言動をすべて把握、情報戦と心理戦で事態を収拾しようとするギュンターのやり方は、あたしが思うところの<諜報戦>そのもの! そこで『ジョーカー・ゲーム』と比較するのは無意味だが、「あぁ、あたしはこういうのが観たかったよ・・・」としみじみ盛り上がるのだった。

  誰よりも狙われた男3.jpg 追われていることに気づき、逃げるアナベルとイッサ。 地下鉄での些細な攻防ながら、ハラハラ。
 しかもイッサが探していた銀行家はトミー・ブルー(ウィレム・デフォー)で、好きなキャスト過ぎてニヤニヤ笑いが止まらない。 そして強面ウィレム・デフォー演じるトミーは常に強気で自信にあふれる男であるのに、ギュンターを前にすると自分の持つ弱さがいきなり露呈するような表情に。 こういう振り幅もなかなか見られない!
 誰に対してもいつも変わらない“ギュンター・バッハマン”という男、その揺るぎなさが頼もしくもかっこよく見えて、でも本心は見えないのでドキドキ。 CIAエージェントとして出てくるロビン・ライトが男装の麗人っぽい風貌で一瞬「誰?」と思わされたが、この女の態度に大変ムカつき、アメリカの正義を振り回されることに辟易している人々の気持ちがわかってしまう。
 ちなみに、ギュンターは英語読みではガンタ―になるらしい(舞台はドイツだが台詞は英語です)。
 細部をはしょっている感はあるが、無駄なシーンはひとつもないと思える映画は本当に観ていてうれしい。 しかも抑制された美しいショットが多く、危うい綱渡りを擁護してくれているように感じる。

  誰よりも狙われた男1.jpg 彼の頭の中は、多分<テロ根絶>のためにフル回転。 そのためには自分の身も省みない勢い。
 だからこそ、ラストの衝撃は半端ない。
 自然体のように見えて、すべて感情をコントロールしている男ギュンター。 そんな彼がラスト近くで放つ咆哮は、慟哭であり落胆であり、やり場のない怒りであり無力感であり・・・、あらゆるすべてのマイナスの感情にあふれていた。
 それ故に、あたしの心もまたやりきれなさで胸がいっぱいになる。 そんな彼の去り行く姿とともに放り出されて、どうしていいのかわからない。
 それでエンドロールって・・・ひどすぎるよ!
 呆然と、黒い画面に流れていく白い文字を眺めていると、不意にフィリップ・シーモア・ホフマンともう一人(名前忘れましたがスタッフの方)に捧げる、というテロップが出た。
 ・・・愕然とした。
 まさに懇親の演技とも言えるギュンターのような役を、たとえル・カレが続編を書いたとしても二度と見ることはできないのだ。 最期の主演作品だもん。
 『ハンガー・ゲーム』3作目などでも彼の姿は見られるだろうがまぁ、脇役。 ここまでメインで見る機会はもうない。 個人的には『カポーティ』よりもずっと、このギュンター役のほうが素晴らしい!、と思えていたから余計に。
 じわじわと、涙が目に滲んでいった。 帰りの電車でも鼻水が止まらないのは、温度差のせいばかりではなかった。

posted by かしこん at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする