これは映画情報番組『ハリウッド・エクスプレス』で紹介されていたのを見て、「わー、観たいなぁ」と思っていたのだがそのときは日本公開時期は不明で、そもそも神戸で上映してくれるかどうかも問題だったが、なんとか109シネマズHAT神戸だけでやることが判明。 しかし仕事の時間との調整が難しく、最終日のレイトショーにどうにか滑り込んだのでありました。 その頃にはロバート・デュヴァルのアカデミー賞助演男優賞ノミネートが報じられていたにもかかわらず、一日の上映回数が増えることもなかったなぁ(でもそのおかげで上映予定が一週間延びたのかな、という気はする)。
大都市シカゴで有能な悪徳弁護士として名を馳せるハンク・パーマー(ロバート・ダウニー・Jr)は、たとえ依頼人が有罪だとわかっていてもその辣腕ぶりで無罪を勝ち取り、金をふんだくるタイプ(そういう相手からしか依頼を受けない)。 しかしハンクの父ジョセフ・パーマー(ロバート・デュヴァル)は地元であるインディアナ州の小さな町で判事を長年務めており、町の人々からの人望も厚い。 ハンクの若い頃からこの父子は折り合いが悪くてほぼ絶縁状態だったが、突然の母の訃報により再会。 が、やはり長年の確執の溝は埋まらず、シカゴに戻るハンクだったが、兄グレン(ヴィンセント・ドノフリオ)から、父が殺人罪で逮捕されたと連絡を受け・・・という話。
<押しが強くていけ好かない男>、というキャラはすっかりロバート・ダウニー・Jrのはまり役になってしまったが、昔はもっと繊細な役もやっていたのになぁ・・・と切ない気持ちになっていたここしばらく(『アイアンマン』もガイ・リッチー版『シャーロック・ホームズ』もキライじゃないですけど)。
でも、観ていけば今回はちょっと抑え気味というか、ロバート・デュヴァルを引きたてる受けの演技になっているのであった。 そういう匙加減ができるなら、もっと別なタイプの役もやってほしいなぁ、と思ってしまうのだが・・・。
それにしてもつくづく、アメリカ映画って<父と息子の物語>が多い。 逆に日本では<母と息子の物語>が多すぎなのであろうか。 <母と娘>・<父と娘>もあるけど、<父と息子>は割合としてかなり少ない気がする。 まぁそこが、国民性というやつですかね。
父にかけられた殺人容疑は事実なのか否か、真実が明らかにされる場は法廷なのだけれど、法廷場面は意外と少ない。 それ以外の場で主だったキャラクターたちの関係・背後説明が最小限の台詞で不自然さなしに過不足なく表現され、ハンクがひねくれたきっかけと父の厳格さが頑固さに変化したポイントに近付いていくのが地道にスリリング。
よくできた脚本である。
結局、事件における真実は曖昧なままの気がするけど、実際の法廷というのもそんなものなのかもしれない(“合理的疑い”で判断するしかないというか)。 現実には真実の再現フィルムなんてないからね。 それよりも、裁判の過程で開かされる、ハンクと父の関係性の決定打のほうがドラマティック。 黙して語らぬ父親も、法廷では真実を語らなければならない義務があるから、その場でしか真実を話せない(ほんとは言いたくないのだがという葛藤もありあり)、というのも哀しいのだが・・・ずっと心に秘めていた思いを激白するロバート・デュヴァルはこのシーンと、家のバスルームで意図せず老醜をさらしてしまう場面とでオスカーにノミネートされたんだな!、と納得する熱演。
まさに歳をとらねばできない役どころ。
この二人がメインということしかわかっていなかったので、ハンクの元カノ・サマンサにヴェラ・ファーミガ、その娘に『ゴシップ・ガール』のブレアことレイトン・ミースター、判事を告発する側の手ごわそうなディッカム検事にビリー・ボブ・ソーントンという豪華メンバーがいて、しかも末の弟役のジェレミー・ストロングは『パークランド』でリー・ハーヴェイ・オズワルド役をやった人だと帰ってきてキャリアを調べるまで気がつかなかった。 さりげないカメレオン俳優っていっぱいいるなぁ、と実感。
語られない部分は結構あるのだが、ラストシーンは今後のハンクのキャリア転換を十分に暗示していて、内容が内容なのにどこか希望に満ちている。
思っていたよりも素敵な映画だったなぁ。
どうやらこれは、ロバート・ダウニー・Jrが立ち上げた映画製作会社の第一作であるらしく、今後もアクション大作ばかりやる気じゃないぞ、という彼の意志表示のように感じられた。 かつてのような繊細な演技力が十二分に発揮される役柄を今後に期待したい。