イタリア映画ですが、『THE BEST OFFER』という英題がついた方のプリントで見ました。 ジュゼッペ・トルナトーレ監督・脚本、エンニオ・モリコーネ音楽、主演はジェフリー・ラッシュで美術品にまつわるミステリー。 そう知ったら見ずにはいられようか! そして世間ではジュゼッペ・トルナトーレといえば『ニュー・シネマ・パラダイス』なのだろうけれど、あたしには『題名のない子守歌』のほうが評価は上! ミステリーと銘打っているからには最期まで解けない謎がさぞ散らばされているのだろう、という期待もあって。
待ち受けていたのは、壁の向こうから姿を現さない女――。 トルナトーレが仕掛ける極上のミステリー。
天才的な審美眼で世界でもトップレベルにいる美術鑑定士でありオークショニアのヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)だが、プライベートでは極度の潔癖症で人間嫌い。 絵画の美しい女性に囲まれる時間を憩いにしているという、映画開始数分で観客の誰もに「こいつ、イヤなやつ!」と思わせるタイプ。 そんな彼は当然携帯電話も持たないし事務所の電話も当然出ない。 しかし、「誕生日に鳴った最初の電話はいい知らせ」ということわざ(?)のため部下に薦められてたまたま出た電話で、若い女性から資産家であった両親が遺した屋敷中の美術品を査定してほしいという依頼を受ける。
あっさり断ろうとするものの「掘り出し物があるかもしれない」という下心が働き、とりあえずそのヴィラを訪ねてみることに。 しかし見事にすっぽかされ、ヴァージルは怒り心頭! その後も口実をつけては依頼人は姿を現さないのだった。
しかしこれ以上書くとネタばれになりそうだよ・・・いや、ミステリーと宣伝してしまっている段階でかなりのネタバレなんですけど(まぁ、コピーでここまでは書いてあるし)。
とりあえずあやしい人がたくさん登場するんですよね・・・特にドナルド・サザーランドとジム・スタージェス。 で、ヴァージルもすぐ人を疑って癇癪を爆発させるんだけど、それが誤解とわかったり何か事情があったと知ればすぐ謝罪してまた信じる。 ヴァージル、どこか甘いんだよ! しかし、それは彼の人間嫌いの裏には他の人を信じたい・自分も受け入れてほしいという欲望が隠れているからなんですけど。
そしてストーリーはあたしの予測通りに進む。 こうなってほしくはないんだがなぁ・・・、という方向に。 それでも引きつけられて見てしまうのは、ひとえにジェフリー・ラッシュがうますぎるのと、「愛が芸術なら贋作もあり得るのか。 贋作の中にも美しいものはある。 偽りの中にも真実がある」という言葉のせい。
冒頭でイヤなやつと思わせられたヴァージルが姿を見せない依頼人のために奔走するうちに、いつしか自分より優先するものができていく過程を見せられて変わっていく様子を見ていっているあたしは、次第にヴァージルに対して同情の念でいっぱいになってしまったのだった。 多分これ、監督の思う壺よね。
ラストの10分ほどは細切れのカットの積み重ねで、時間軸がわからないようになっている。
だから見る人によってそれは究極のバッドエンドにも映るだろう。
でもあたしは違うと思う。 自分が決める“美”という基準にがんじがらめになっていたヴァージルは、これまで積み上げてきたものを失ってしまったけれど、でも“彼の美”という呪縛からは自由になって、自分が予想もしなかった美しさを感じられるようになった。
だからハッピーエンドなのだと、あのラストシーンは希望に続いているのだと思いたい。
一般的に、男性は度し難いロマンティストだと言われるが、あたしもまたそんな人々にちょっと理解を示すほどにはロマンティストであるらしい(でも基本的にロマンティストの個人差の枠は大きいですけどね)。
リピーター割引実施中ですが、そしてよくわからない部分はいくつかありますが(たとえば彼が選んだ指輪の台はゴールドに見えたけど、次に彼女が指にはめたカットではプラチナに変わっていたりとか。 そもそも指輪を渡すシーンもない。 本来ならば“あるべき場面”がいくつか抜けている感じもあるけど、そういう部分をこの映画は説明する気なさそうなので)、ストーリーはほぼ補完できたし謎は謎のままでいい部分もあるし、次はWOWOW放送でもう一回観たいかな〜。
これは謎を解くミステリーじゃない、むしろ進んで騙されたい映画。
もしくは、人生こそがミステリーという、美しさには陶酔と苦痛と悲嘆も混ざっているという、そんなひとつの真実。
あぁ、素晴らしかった。
これにて、今年のあたしの観た映画は終了。
例年に比べて数は少なかったけど、満足度は大きい。
今年も長い記事にお付き合いくださいまして、ありがとうございます。
それでは、みなさまよいお年をお迎えください。