2013年09月14日

タイピスト!/POPULAIRE



 これは予告を見て、「フランス映画がキュートさを前面にして売り出してきた!」と



確信しました。 “映画史上、最も可憐で、最も過酷な戦い”と言われちゃったら見ない



わけにはまいりません。



 1950年代のフランス、世の女性たちは社会に出て働くことを望んでいたが、田舎では



仕事がなく、女は家の手伝いでもしていろ的価値観がまだ幅を利かせている。 実家が



町で唯一の雑貨屋を営んでいるローズ(デボラ・フランソワ)は子供の頃から店にあった



タイプライターに親しみ、その腕に自信を持って都会に出て、憧れの職業“秘書”になろうと



家を出るが・・・という話。



   マドモアゼルのド根性見せてあげる。

     素敵な上司は鬼コーチ。 目指すはタイプ早打ち世界一!



 採用試験に臨んだ保険会社ではいかにも有能そうな女性たちがいっぱい。 ローズに



してみれば精一杯のお洒落も「田舎から出てきました」と自らばらしているようなもの。



しかしその恥ずかしさにめげず面接に向かい、彼女は自分のタイプの速さを社長である



ルイ(ロマン・デュリス)に見せつける。 ルイはそのスピードに、タイプ早打ち世界大会



優勝の可能性を見る。 そんなわけで秘書としての仕事はそっちのけ、いかに速くタイプを



打つかの訓練が始まる。



   これ、スポ根でしたか・・・。



 ルイは若い頃スポーツ選手だった、という経歴もあり、集中力と持久力が絶対必要な



タイプライター早打ち選手権のためには基礎体力から。 自己流の指二本打ちを正しい



十本指タイピングに強制させられ、ブラインドタッチの会得、評価の高い文学書を自分で



打ち直す(「よく使われる表現が出てくるから」とルイは言うのであるが、ビジネス文書に



『モンテ・クリスト伯』などの文章に関連はあるのか? 早打ち選手権はビジネス文書では



ないんだな!)。



 そういう意味ではまだまだ女性は社会的に役に立つ仕事をしていたとはいえないし



(タイプ早打ち選手権はほとんどイベントで、国内優勝者はタイプライター会社のイメージ



モデルになる。 形を変えたミスコンテストみたいなものだ)、秘書として働く女性も多くは



その上司と結婚するというパターンもあったようで(となれば遊ばれて捨てられた女性は



もっといるであろう)、そう考えるといろいろかなしくなってくる。



 しかしそういうかなしさを観客にあまり気づかせないように、画面はいたるところにレトロで



ポップなお洒落感であふれている。 ルイのライバルで親友のボブ(ショーン・ベンソン)が



アメリカ人なのも、フレンチカルチャーの上手い引き立て役になっているし。



 ローズは「自分を対等に扱ってくれなきゃイヤ!」という性格で、勝気なところはいいの



ですがろくに仕事ができないのに扱いだけは対等って・・・理想を夢見る世間知らず感が



全開で、それを苦笑しつつ許すルイがすごく大人に見えた! 実際、大人なんですけど。



 ロマン・デュリスって、今のフランス映画界ではいわばユアン・マクレガーみたいな位置



づけなの?、と感じてしまった。



   予選から白熱。



 予選、勝ち残り、次の予選、勝ち残り、の繰り返しになってしまうところを、発表の瞬間は



あまり見せずに間接的に結果を伝え、観客の興味をクライマックスまで引っ張っていった



工夫は素晴らしい。 フランス国内最大のライバルであるマドレーヌ・エシャール(なんと



ミュウ=ミュウだ!)が、いかにも「ざーます系」な黒縁メガネをしていたのが面白かった。



 確かに、映画史上、最も可憐で、最も過酷な戦いでした。



 ルイの幼馴染でボブの妻を演じたベレニス・ベジョが『アーティスト』のときとはまったく



雰囲気が違う年齢相応の役で出ていたのがとても新鮮でした。 いやいや、そもそも



デボラ・フランソワが『ある子供』のときと比べて全然違うから(だからこそ『ある子供』で



共演していた若すぎたバカのジェレミー・レニエが、いつの間にか「欧州を代表する演技派」



と呼ばれるようになっている『最後のマイ・ウェイ』も見たかったのです)。



 エンドロールではタイプライターの歴史が展開。 これでは日本語のタイプライターは



ワープロが登場するまで無理だったよな、ということがよくわかる(そりゃ昔の電報は



カタカナのみだよな〜)。



 フランス映画もわかりやすいのをつくるようになったよなぁ、と感嘆。 楽しかった!


posted by かしこん at 20:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする