2013年06月30日

二流小説家 シリアリスト



 「大丈夫か?」とわかっていても確認したいときがある。



 そんな動機で見に行くのもどうかと思うけど・・・でも<上川隆也、映画初主演>だし。



 小説家としてはいまいち売れず、いくつもの名前を使い分けて雑文書きとしてどうにか



生計を立てている赤羽一兵(上川隆也)だが、ある日、死刑確定囚の連続殺人犯の呉井



大悟(武田真治)から手紙が届く。 赤羽の書いたエロ小説のファンだという呉井は、



赤羽になら自分の告白本を書いてもらってもいいと言う。 もしかしたら、これは売れる



作家になるためのチャンスかもしれない、しかし何故自分なのか、これは引き受けても



いいことなのか。 そしていつしか赤羽はとんでもない事態に巻き込まれていく・・・という話。



   必ず貴方もダマされる! “連続”殺人事件、“連載”開始。



 もともとの原作はアメリカのだし(それを日本でやることがそもそもチャレンジだが)、長い



から二時間にまとめるとしたら家庭教師に行ってる女子高生のところはカットかなぁ、とか



思っていたら原作の要素全部詰め込んでるわ!(とはいえ、家庭教師と学生という関係では



なく、おじと姪になってたけど)。 そう、原作にある程度忠実にと考えるあまりに詰め込み



過ぎになっていて、むしろ全体的に浅い印象になってしまっているのが残念。 主人公



(原作ではハリー)は気弱で押しに弱く、優純不断で自分の中にある小さな野心も持て余す



ような人物、というアメリカ人にしては珍しい性格の印象だったのですが、日本人に置き



換えると結構普通にいそうな人ではある。 見た目では『遺留捜査』の糸村くんより髪が短い



ぐらいの違いしかないが、“結構いい大人なのにダメな人”という感じを上川隆也はぼんやり



しつつうまく出してるかな、と思う。 でもそういう人はつっこんでくれる人が近くにいるから



輝くのであって、彼がひとりで動いている間(もしくはつっこんでくれない相手と一緒にいる



間)は主人公なのに印象薄いのです。



   多分、この映画で褒められるのは武田真治だろう。



 その反面、呉井(原作ではクレイ)との対面のシーンではおどおどする部分と強気に出る



部分、本質に迫りたい気持ちなど複雑な心境が見え隠れ。 キレかかった人をやらせたら



似合いすぎの武田真治もまた原作のイメージよりは知性的になってるけど、しっかり魅力



あるキャラになっていた。 二人の会話はクラリス・スターリングとレクター博士と言うよりは、



<ものを生み出す側>と<鑑賞者>の立場の違いを明確にした芸術論を戦わせている



感じで面白かった。 で、当然その会話の中に事件の謎を解く手がかりが潜んでいるの



だけれど、あえてその台詞をフラッシュバックさせない演出は勇気があるなぁ、と思って



しまった(それだけ観客を信頼してくれているのだろうか、気づかない人はなんで赤羽くんが



真相に辿り着いたのかわかんないと思う。 その分、映像でフォローはしていたけど)。



   ま、伊武さんもいつもの感じではあるけど、

      今回は彼のユーモアあふれる空気にだいぶ助けられましたよ。



 いろいろ詰め込み過ぎなため前半は大変スピーディーで、あっという間に連続殺人事件が



起こりますが、その後は少々中だるみ・・・。 メリハリがあるのはいいけれど、停滞したら



まずい。 刑事さん(伊武雅刀)と赤羽くんが一緒に動き始めたらやっとテンポができてきて、



もっと早く彼と動いてたらもっと面白くなっていたのではないか、とくやしい思いを。



 なんだ、あたしは実は期待していたのか・・・。



 戸田恵子や賀来千香子をそんな脇役でさらっと使い捨てか!、という意外性はあるけど。



 最後は『相棒』以降の東映のわるいクセ、社会派視線を入れてしまうがため急にラストが



重たくなるし! 原作の面白さはいい意味でのB級路線をひた走った爽快感にあるのに、



その精神をこの映画では受け継いでくれなかった。 どうせ原作に忠実にやるなら、小手



先の設定よりも本質的なところを守りましょうよ。 せっかく味のあるキャストを揃えて、



原作者にも来日してもらったんだしさ。



 これがうまくいけば翻訳ミステリの日本置き換え、定着するかと期待したのに・・・あ、



やっぱり期待していたわ。


posted by かしこん at 05:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする