2013年05月16日

リンカーン/LINCOLN



 本編の前にスピルバーグが登場。 「ハロー、ジャパン。 この映画の歴史的な背景に



ついて簡単にご説明します。 奴隷制度の南部と自由の北部、それが南北戦争です」



みたいなことを言っており・・・いくら簡単に説明するって言ったって、簡単すぎではないの



ですか?!



   命をかけて夢見た 真の「自由」

                      スピルバーグ監督が描く衝撃的感動作



 「有名な演説シーンも、派手な戦闘場面も暗殺場面も描かないで、リンカーンの本質に



迫る」というような前評判を聞いてはいましたが、さすがに南北戦争の泥仕合のような戦闘



場面から映画はスタートする。 でもそれもさほど長くは描かず、戦闘報告を黒人兵・白人



兵の順にリンカーンにするところから本格的にこの映画は始まる。 もう登場から、彼は



この世界にはいないような、別の次元に存在するかのような佇まいで、丹念なメイクと



ソフトだが甲高い声からダニエル・デイ=ルイスだと知ってはいるけどわからない。



   それがリンカーンを、より孤独に見せる。



 白人兵よりも黒人兵の方が賢そうに映しているのも意図的なんでしょう(もっとも、自分



たちに関わることだからこそ黒人の方々のほうが必死だからということなのかも)。 少し



ばかりボーっとした感じの白人兵役にルーカス・ハースがあてられていたことに椅子から



落ちそうになった(『E.T.』のエリオット少年だった人である)。 サービス?



 南北戦争の終結! 奴隷解放!、みたいな派手な盛り上がりが期待できそうな映画



なのですが、実際は<アメリカ合衆国憲法修正第13条>を下院で可決させられるか



どうかがメインだったのでした。 奴隷解放宣言を出そうとも、南部の人々が黒人奴隷を



自分の所有物として主張するならば、現憲法では財産所有権は守られてしまう。 そして



彼らの立場が“所有物”のままならば正当に就職できない・解放されても行き場所がない。



だから修正案を通さなければ戦争を終えたくても終えられないのだ。



 これって、<理念による自由の戦い>なのか?



 ともかく、下院で可決するための人数集めに奔走する、まさに“票集め”の日々を地味に



かつ赤裸々に追うストーリーでありました。



   鍵を握る男、スティーブンス議員(トミー・リー・ジョーンズ)。



 ま、国務長官ウィリアム・スワード(デヴィッド・ストラザーン)がロビイストを仕掛けて買収



作戦に裏から乗り出しているわけですが、なにしろ勝負は下院議会でですから。 そこで



不用意な発言をしない・過去の自分の発言内容を覆すような真似もしない、とつっこまれ



ないための応答がカギになります。



 理念のためにはどんな手段も選ばない、というのが結局は民主主義ってやつなんだな、



とあきらめの境地になった・・・。 何年か前のイギリス映画『アメイジング・グレイス』でも



奴隷売買禁止法を通すためにいろいろ工作してましたが、あれは演出がコメディ寄りの



部分があったので許容できた(むしろ面白かった)。 しかしこの映画では堂々と「次の



地位と引き換えに」とかやっちゃっているので(勿論、自らの信念で行動する人たちもいる



のだが)、「そんな、ろくに仕事もしていないのに数合わせだけの議員っているのか?」と、



某新聞が持ち上げていた<複雑で遠回りな民主主義の手続き>というやつに嫌気がさして



くる。 この場合はよかったが、その理念が間違っていないと常に保証はできるのか?



買収されて考えを変えるような(もしくはもともと考えを持っていないような)人間が存在する



ことも考慮するのが民主主義? 買収するのもされるのも人として勝ち取った自由?



 なんだか、あたしは釈然としない。



 だからこれで感動してと言われても・・・できません。



 ただ、当時の下院では賛成か反対か名前を呼ばれた議員がその場で全員の前で意見を



述べなくちゃいけない、というのはすごいプレッシャーだろうなぁ、とは感じた(映画もそこだけ



ものすごい緊迫感)。



 が、リンカーンは常に超然としている。 彼が感情をあらわにし、声を荒げる場面はCMでも



使われてた「Now! Now! Now!」のところ(早く下院を通過させろと話しているとき)と、早くに



病で亡くした三男のことをいまだに引きずっている妻メアリー(サリー・フィールド)に対して、



「お前がそうだから私は悲しめないのだ!」というところぐらいか。



   リンカーンの長男ロバート(ジョセフ・

        ゴードン=レヴィット)の苦悩も今一つ深みが足らず・・・結局すべての人が

        リンカーンの引き立て役なのだ。



 確かに彼は戦争を早く終わらせたいのだろう、修正案を通過させて奴隷制度も本質的に



撤廃したいのだろう。 しかしそれが彼の心からの願いには感じられず、ただその役目を



背負ってしまったからやるにすぎない、みたいな軽さを感じるのだ。 だから、これから



暗殺されることもわかっていて、まるで楽しげに出かけたみたいに見える。



 やることは、もうやったから。



 ・・・この映画から、何を学べとスピルバーグは思っているのか。



 無茶を承知でやり遂げる強い指導者が必要ということ? そう見こんだ人には協力せよと



いうこと? 目的のためには多少のあくどい手口は見逃せということ? 政治は清廉潔白で



なければいけないとはあたしは思わないが・・・でもある程度の節度は必要かと(相手にも



よるけど)。



 もやもやした気持ちでエンドロール。 ジェイムズ・スペイダーの名前を見かけて倒れそうに



なった。 えっ、どこにいたの!? ちなみにジャッキー・アール・ヘイリーとリー・ペイスには



気づいてニヤニヤしちゃいましたよ。



 目を皿のようにしてCAST一覧を見据える・・・ビルボ! 買収実行部隊のロビイストの



リーダーじゃないか! 出番結構あるのに、台詞もそこそこあるのに、全然気づかなかった



・・・(もっさりひげのせいか? 彼が老けたからか? かつてのハンサム度が下がっている



からか?)。 真実を知りたくないので、パンフレットは買わないどころか見本をめくるのも



やめた。



 長かったし・・・(150分ですけどもっと長く感じた)、いろいろとつらい映画だったなぁ。


posted by かしこん at 06:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする