2013年04月11日

偽りなき者/JAGTEN(THE HUNT)



 トマス・ヴィンターベア監督の作品であれば、とりあえず見ます。 しかも今回は



マッツ・ミケルセンが主演で、少女のちょっとしたウソから小児性愛者の烙印を押されて



しまった男の顛末・・・ということで「これって現代の『るつぼ』ですか?!」と予告を見て



勝手に盛り上がってしまいました。



 冒頭、男たちの休日のバカ騒ぎからにぎやかに始まるのだが、その先のことを考えると



すべてのカットからとても不吉な予兆が感じられる。 あぁ、ヴィンターベアだなぁ、と



(ひどい話になることはわかっているのに)、ちょっとうれしくなる。



   決して、譲れないものがある――



 ルーカス(マッツ・ミケルセン)は、かつては学校の教員だったが町が寂れていくとともに



職を失い、妻とも離婚し一人息子を奪われ、それでもなんとか幼稚園の職員としての



仕事を得、もうすぐ18になる息子を呼び戻して二人で暮らしていこうと考えている。



町には昔からの友人たちもいて、休日には揃って山に鹿狩りに行ったり、ビールを飲んで



騒いだりする日々を送っていた。 ある日、親友テオ夫妻の娘である幼稚園児クララからの



好意を受け取らなかったルーカスは、気づかぬうちにクララを傷つけており、それに気分を



害したクララが発した一言に過剰反応してしまった園長は専門家を呼ぶことにして、想像を



悪い方へと持っていく。 ルーカスの知らぬところで事態は大事(おおごと)になっていく・・・



という話。



   ほとんど、クララに誘導尋問。

     それにしてもクララ役の子、うますぎるんですけど。



 デンマークの諺に「子供と酔っぱらいは嘘をつかない」というのがあるらしい。 確かに



わざわざ子供がつくような嘘とは思えない、本来ならば厳しく追及するべき内容である



(しかも昨今のミステリ作品では被害者が異常性愛者、特に幼児性愛者であれば同情の



余地なしという流れができている)。



 しかし、ルーカスと観客は彼が無実であることを知っているのである(が、それ以外の



人は誰も真実を知らない)。 これがもう、すべてのカットがスリリングの理由です。



 ルーカスは自分がどんな疑いをかけられているのかよくわかっていないのではっきりと



した反論もできない。 しかし一度そう見られてしまったら噂の口に戸は立てられず、



あっという間に広まって気がついたら町中の人が自分を敵視している、と気づいたときの



恐怖は不可解であるが故に真綿で首を絞められるようにじわじわと身体中に伝わってくる。



誰もが自分を無視する、店での買い物も断られる、子供の頃からの親友にも信じてもらえ



ない・・・。



 特にショッキングなシーンがあるわけではないのです(警察に呼び出されるけど、取り



調べのシーンなどは出てこない)。 町での生活の一コマ一コマの積み重ね、という描写が



中心で静かで地味すぎるほどなんだけれど、緊迫感がまったく途切れないのはひとえに



マッツ・ミケルセンのくたびれきった男の姿の奥に秘めた信念があるから。



   マッツ・ミケルセンは“デンマークの至宝”

   (ときには“北欧の至宝”)とも呼ばれる男。 『007カジノロワイヤル』のル・シッフル役で

   語られることが多いですが、あたしはオランダ映画『誰がため』でやられました。

   一体何ヶ国語話せるんだろう? そして今回、ハンサム度は封印。



 勿論、長年の友人の中にはルーカスのことを信じてくれる人もいるが、少数派。 むしろ、



同じ町に住んでいながらもルーカスのことを知らない人々のほうが噂を鵜呑みにし、彼への



嫌がらせや排除要求がエスカレートしていく様が(これまた明確には描かれないんですが)、



ネット社会の行く末を暗示しているようで大変恐ろしいのです。



 つまり、世界を繋いでいるインターネットも、小さな町と人間の心理や原理は同じなのね



・・・匿名性が保持される分、余計に普段ならしないようなこともしてしまう、というのも似て



いる・・・。 ヴィンターベア、社会派だわ〜。 全然『るつぼ』じゃなかった、まったく違う



着地点だった、ということにあたしは驚きつつ(映画の途中でラストはそうなるんだろうなぁと



薄々わかっていたけれど、ほんとにそうなったらなったですごく衝撃だった)、映画としての



見事さにうなる。 やっぱり好きだ、トマス・ヴィンターベア


posted by かしこん at 05:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする