2012年12月13日

その夜の侍



 劇団“THE SHAMPOO HAT”の作品は見たことがないのに、あたしの好きそうな



テイストではなさそうだな、的イメージで勝手に判断していたんですが、堺雅人が



出るというならね・・・見ちゃうんですよね、これが。



   「お前を殺して、俺は死ぬ」

            愚かに、無様に、それでも生きていく。



 いつも通りのごく普通の日々のさなか、妻がひき逃げされて死亡。 その事故を



境に人生が変わる被害者の夫・中村(堺雅人)と、加害者である木島(山田孝之)の、



5年後。 社会性や他者の視点といったものが一切入らない一対一の戦いとでも



いいましょうか、勿論相手はお互いであり、そして自分でもある、という。



 この中村がまず相当やばい空気を放っていて。 義理の弟を演じる新井浩文が



この映画の中でいちばんまともな人に見えてしまうほど(新井くんはどちらかといえば



イカレたかやくざっぽい役柄が多い人だから。 そういえばこの二人、『クヒオ大佐』でも



共演していたなぁ)、中村は<壊れる寸前の、立ち直れない男>なのである。



 小さな町工場の社長としてかろうじて仕事はしているが、かつてのように従業員たちと



打ち解けることもなく、妻の残した洗濯物を握りしめてかたまってしまうような。 役者と



してそういう役にチャレンジしたい気持ちはわかるし、今後もそういうことをどんどんする



人なのであろうから、堺雅人の事務所はさわやか青年風イメージのCMの仕事を取る



のはやめようよ・・・とりあえず彼に<癒し系>のイメージを抱いているファンの方々は



見てはいけない映画です。 あたしもファンですが、もうちょっと突き抜けちゃったので、



彼が役者としてその役にどのようにアプローチするのかを見届けたい、みたいなところ



まで来ちゃいました。 自分でも、ちょっとヤバいと思ってます。



   山田くん、かつては爽やかな役も

    やっていたのに・・・すっかりあぶない人の役が板についてしまった。

    むしろ今回は新井くんの好感度があがってしまった。



 一方の木島・・・彼が普通の人だったら、反省や自戒をあらわす人だったら中村は



ここまで自分を追いこまなかったかも。 やくざやチンピラともちょっと違うようで、



彼もまた<壊れた人>なのだ。 すぐ暴力をふるい、狂気じみていて、けれど気分は



ころころ変わって長続きしない。 なにかにこだわったり執着することをまるで恐れて



いるかのように。 多分その根っこには強烈な孤独や誰にも理解してもらえないという



あきらめがあるのだろうが、だからといってその態度は赦されるレベルじゃないんです



けど、というような。



 なのに、普通の人は普通であるが故にこの過剰な何かに引き付けられてしまうん



ですかね。 田口トモロヲ・谷村美月が明らかにおかしいのにすんなり木島に従って



しまうそこらへんにいる普通の人をやっていますが・・・そっちの方がちょっと怖かった



かも。 誰もが抱えるちょっとしたさみしさや欠落を、埋められるならなんでもいいんだ、



みたいな奇妙なまでの素直さ、めいたもの。 これが“市井の人たちのリアル”だという



なら、この国はとんでもなくヤバいことになってます!



 とはいえ、本筋は普通ならば知りあうはずもない二人の、魂のぶつかり合い。



   ・・・でもちょっとあたしにはその感覚が

   わかりにくかった。 個人差か? 女だからか? でも、中村の「君には関係ない

   話だった」という台詞にはどきりと・・・あぁ、その結論に辿り着くまでのこの5年

   だったんだね。 ただ、かなしい。



 あぁ、人生でどうしようもないことに遭遇してしまったとき、人はなんと無力なことか。



虚無に飲み込まれる方が楽だとわかっていながらも立ち上がってしまうのは何故



なのか。 そしてそんな姿をあとから思い返してみると、なんて滑稽なことか。



 人生は全然ドラマティックじゃない。 期待したとおりに物事は進まない、むしろ期待を



すり抜ける方へと進むみたいに。 わかってるんだけど、それを改めて示されても・・・



重いなぁ(まぁ、そういう映画なんですけど)。



 だからこそ、ベタな人生送ってる感じの従業員さんの涙に、心揺さぶられるのかも



(なんだかんだ言って彼がいちばんまともな人だったのか・・・高橋努さん、好演!)。



 やはり、THE SHAMPOO HATはあたしが好きなテイストではなさそうだ。


posted by かしこん at 05:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする