2012年07月21日

ブラック・ブレッド/PA NEGRE



 スペイン映画で子供が主人公、となれば見ないわけにはいかず。 『デビルズ・



バックボーン』、『パンズ・ラビリンス』とはずれなしだし! が、ポスターを見て気に



なったのは<ダーク・ミステリー>というコピー。 たとえば<ダーク・ホラー>や



<ダーク・ファンタジー>はわかりますが、ダークミステリーって何?



 ミステリにダークとかあるか?!



 だってミステリということは謎がある程度論理的に解明されるということではないのか、



解明されなきゃホラー扱いでしょう(もしくは<サスペンス>に逃げるか)。



 が、見終わってから、<ダーク・ミステリー>というコピーをつけたかった人の気持ちが



わかりました。 ミステリとしての解決もあります。



   大人たちの嘘が、僕を悪魔にしていく

    嘘をついた 殺してしまった 決断しなければならなかった

    心揺さぶる緊迫のダーク・ミステリー



 スペイン映画なのになぜ英語タイトル?、ということで最初『ブラック・ブレッド』が



何のことか全然わからず・・・(ブレッドが人か何かの名前かと思ったり)。 ポスターで



つづり見て、原題を知って、「黒いパンってことか!」と遅ればせながら気づきました。



白パンと黒パン、つまり富や財政状態の象徴(しかし現在ではヘルシーな生活という



観点から精製され過ぎた小麦よりも黒パンのほうがステータスが高いという皮肉)。



 描かれているのは、スペインにとって闇の時代、内戦後のカタルーニャ地方。



 冒頭から無慈悲で衝撃的な展開が! もうそれで、観客(あたしです)の心はわし



づかみされ! まだストーリーの全貌がまったく明らかではないのですが「来た来た



来たーっ!」と、そりゃーもう盛り上がってしまいました。



 これ、みなさん、見てくださいよ! DVDじゃなくて、是が非でもスクリーンで!



あえて言うなら『裏切りのサーカス』に匹敵するぐらいの名作でした!



 衝撃の出来事の結末だけを、11歳の少年アンドレウ(フランセスク・コロメール)は



森の奥深くで目撃する。 死の間際に幼馴染の少年が言い残した「ピトルリウア」。



   この少年が大変素晴らしいのですが、

この映画の撮影自体が彼のトラウマになっていないかと心配(それくらい、いろいろつらい)。



 ピトルリウアは森のより奥にある洞窟にすむという伝説の怪物の名前。 警察に



その話をするが勿論取り合ってはもらえない。 しかし殺人事件として判断した警察は、



アンドレウの父ファリオル(ロジェール・カサマジョール)を容疑者として考えている



ことが伝わり、“アカ”と呼ばれていた過去のあるファリオルは逃亡を決意する。



 おお、スペイン・闇の時代だ!



 高校で世界史をとらなかったあたしは諸外国の近・現代事情に大変疎くてですね・・・



スペインで内戦があったとかフランコ政権という独裁時代があったとか、知ったのは



全部映画からだという。 詩人のフェデリコ・ガルシア・ロルカが死んだのもそのせい



だったと『ロルカ、暗殺の丘』で知ったぐらいですよ(しかもアンディ・ガルシアにつられて



見ただけだったので、内容がハードでびっくり)。



 話は横道にそれましたが、この時代のスペインは貧富の差も激しいが正義か悪かの



境もまた曖昧。 働く母一人では息子の世話まで手が回らない、とフランス国境あたりの



祖母の家に預けられるアンドレウですが、いろんなところから集まってきている子供たちは



残酷すぎるほど正直で、それも試練かもしれないがアンドレウの慰めにはなりえない。



 いや、子供というのはそういう存在だったのだろうか。 大人の都合に振り回されて



否応なく成長するしかない生き物なのか。 父は「子供の義務はただ楽しく遊ぶことだ」



みたいなことをいいますが・・・それが許されなくなったら無理矢理大人になるしかない



のですか。 そのタイミングもきっかけも、誰も教えてはくれないけれど。



   いろんな過去も事情も抱える大人は、

    正直、子供のことなど構ってられない。



 それでも子供は子供なりに世界を盗み見て、自分がどうすればいいのか考えを



めぐらすことになりますが・・・ほんとに、まわりにろくな大人がいないんですよ。



アンドレウは悪魔になるわけじゃない、自分の未来を考えて利用できるものはした方が



いいと考えただけ。 それを誰が責められるのか。 誰も信用できないと知ったとき、



よりどころになるのは自分がしっかり勉強して医者になることだと決心するしかある



まい? こんなにもはっきりと自分の子供時代を切り捨てる痛みをここまで正面切って



描いた映画、そんなにないですよ!



 だからつい、泣いちゃいました。



 それとも、誰しも子供時代はナタでぶった切られるように終わるのかしら。



 そうじゃない幸運な人のほうがはるかに少ないのかしら。



 どちらかといえばぶった切られた方のあたしは激しく疑問に思いました。



 それと、ガローテ! 『サルバドールの朝』に出てきた世界で一番残酷な死刑道具が



説明もなしに置いてあったのにびっくりしました。 知らない人には意味がわからないと



思う・・・スペインは内戦時代のことをまだ引きずっているのか、それとも語り続けることで



ひとつの過去として線を引こうとしているのかどっちなんだろう(どちらでもないかも



しれないが)。



 スペイン映画、やはりいいなぁ。



 こういう重たさに心えぐられてむしろ好印象とは・・・あたしは子供時代にどれだけの



トラウマがあるというのか、それを改めて考えるのはイヤだなぁ。



 でも、この映画は素晴らしかったです。


posted by かしこん at 05:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする