ヒューマン・ファクター/The Human Factor
1979年作品。 グレアム・グリーンの原作のスパイものというイメージでしたが、オットー・プレミンジャー監督の遺作であることで有名らしい(現在、WOWOWでプレミンジャー特集をやってまして)。
冒頭から地味(『裏切りのサーカス』よりも違う方向に地味である)。 いや、むしろコントの気配(『裏切りのサーカス』にもコント的な要素はあったね)。 現在から見たら冷戦時のスパイ活動はもはやコントの領域なのかもしれない。
とりあえず舞台は英国情報部(MI6)。 機密情報が東側に漏洩していることが発覚し、部内に二重スパイがいるのではないかと上層部は疑う。 しかしこの映画は<誰が二重スパイなのか>をスリリングに暴き出すストーリーではなく、情報部員として生きている人々の生活をつぶさに描きつつ、何故二重スパイという生き方を選んでしまったのかを炙り出す(誰が二重スパイかということはわりとすぐわかってしまうので)。
出てくる人たちはそれぞれスパイなので、腹の探り合い的な静かな心理戦がメインか。
二重スパイの末路は、はっきりと描かれない。 希望があるように見えるけど実際は絶望という状況に、握られていた黒い受話器が落ちる唐突な幕切れ。
なんか、ジョン・ル・カレともまた違う世界だな・・・グレアム・グリーンも読まないとダメか、という気持ちにさせられました。
ある戦慄/THE INCIDENT
1963年映画。 モノクロです。
ニューヨークの深夜、無軌道なといえば聞こえはいいが、ただ単に反社会性人格ですか?な若者二人がカツアゲやら暴力やらを繰り返しながら夜の街を歩いていく。 もうすでに不穏な雰囲気が全開で、あたしはちょっと息が苦しくなってくる。
ところ変わってニューヨークの地下鉄、扉が壊れててひとつしか開かない車両に年齢も人種も事情もバラバラのお客が次々と乗り込んでくる。 観客(あたし)が乗客たちそれぞれが抱えている問題を知る頃に、無軌道な若者二人がこの車両に乗り込んでくる。 そして一気に車内の空気はおかしなことに。
自分には関係ない、と無関心を装う乗客にも二人はナイフをちらつかせ、誰も関係ない者はいないと示す。 で、乗客一組ごとに笑顔で精神的な攻撃を加えていくのである。
・・・これ、『ファニーゲーム』か?
地下鉄とはいえ各駅停車であるが、扉がひとつしかない → 出口もまたひとつ。
若者二人が乗客が席を立って降りることを阻み、誰も乗ってこれない・誰も降りられない恐怖の密室に。 乗客には女性もいるとはいえ十数名、本気になったら若者二人ぐらいなんとかなりそうなんだけど、どうもこの時代のニューヨークではまだ違う階層の人たちとは交流しないという不文律でもあるみたいで、一致団結する姿は見られない。
結局、事態を打開するのはオクラホマ出身で最近ニューヨークに来たばかりという青年。 まだニューヨーカーではないからこそ自分の内なる正義感に正直になれたということなのか。 しかしそれを目の当たりにしても、他の乗客たちは車両から降りたら振り返りもせずに無言で立ち去る。
たかだか100分ほどの映画ですが、なにもかもが戦慄ですけど!
しかも無軌道若者の一人が、マーティン・シーンだった・・・(若すぎて後半ぐらいでやっと気づいた)。
自分が乗客の一人だったらどうするか・・・も含めて、トラウマになる映画だった。