2012年05月07日

ドイツの小さな町/ジョン・ル・カレ



 個人的に今年は(もう5月なんですけど)「ジョン・ル・カレを追いかけよう!」という



気分です。 大物相手に何を今更、ではあるのですが、ほんと今更ですみません。



 というわけで、割と初期の作品『ドイツの小さな町』であります。



 それはまだドイツが西と東に分断されていた時代。 ボンにある英国大使館員リオ・



ハーディングが多量の機密書類とともに姿を消した。 英国外務省はこれを重く見て、



公安部のアラン・ターナーを調査のために派遣する。



 <ドイツの小さな町>とはボンのことなんですね。 西ドイツの首都だというのに、



イギリスから見たら取るに足らない町ということなのか? 文中にも「この村のような



小さな都会」とも表現されていますし・・・意外。



   現在絶版のため、

    図書館から借りだしました。 上巻には鉛筆の書き込みが多数あり、

    原書との読みあわせをしてたみたい。 誰かからの寄贈本だな。



 ハーディングは現地採用なので、イギリス本国に彼の情報はない。 アラン・



ターナーはハーディングと接触があった人物一人一人にインタビュー(というか、



半分尋問)をしていき、ハーディングの人となりを解明しようとしていくのですが・・・



これがまた、地味な会話劇なのです。 しかし執拗なターナーの質問に対して



激昂する人も出てきて、爆発する感情がときどき地味さを吹き飛ばします。



 そして大変困ったことに、この後も出てくるのかどうかわからない人にもジョン・ル・



カレは均等に描写の手を緩めず、さりげない一行にその人物の今後を示唆したり、



その先の彼らがどうなるのか読者に心配をさせるというテクニックをいかんなく発揮!



まんまと引っかかってドキドキしちゃいました、あたし。



 時代は冷戦下ですので、ハーディングが何故書類を持ち出したのか、彼はどこに



いるのか、などがわかっても全く解決にならないという(それでもどのように機密



書類を持ち出したのか、には推理小説的に正しいトリックが使われている)。



 淡々としてるくせに実は熱い正義感を内に秘めているアラン・ターナーは、多分



ジョン・ル・カレの描くひとつの理想的な(もしくは典型的な)スパイ像なのかな、と



いう気がする。 ストーリー上直接関係はないですが、『ナイロビの蜂』を思い出させる



表現もあって(園芸に入れ込む気持ちの部分)ついついにやり。



 アメリカは無防備都市に原爆を二発落とし、イギリスはドイツに蛮人を派遣した、と



いうくだりにはため息が出ちゃいましたよ。 国と国のやりとりには個人の感情の入る



隙間はないし、国の指示で動く(もしくは裏で国を動かす)組織はそもそも変化を嫌うし、



官僚は利己的だし、かといって国民に「動け!」と煽動する人たちは無責任というか



・・・でもこれはその時代だけの話ではなくて、実は今もだ、というのは非常につらい話



・・・進歩がない、変わっていないってことだから。



 今、ジョン・ル・カレが改めて読まれるべき、となってきた理由がわかりました。



 今の勢いならハードなものもがんがん読めそう、ということで長らく放置していた



トム・ロブ・スミス『エージェント6』を手に取ってみる。 これまた今更感ですが・・・



まぁそれがあたしのタイミングです。


posted by かしこん at 04:03| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする