2012年03月13日

なのはな/萩尾望都



 WOWOWがつくっているオリジナルのノンフィクション番組で、石巻が舞台の



映画『エクレール〜お菓子放浪記』を震災後のみなさんにどうやって見てもらうかを



追ったドキュメンタリーを見た。 2010年に地元でロケし、大勢の方がエキストラで



参加しているし、映画製作者側もやはり地元で見てほしいから、と。



 震災関連番組は一切避けてきたあたしだが、ついこれは見てしまった。



 そして途中から、もう涙が止まらない自分がいた。



 まず、上映できる場所がない。 エキストラとして参加してくれた方も現場では



避難所の責任者になっていて時間が取れない。 石巻市民の中でも、見たい人・



見たくない人の意見がバラバラ。 機材の調整その他の問題もあり、上映が



なかなか実現化できないまま時間が過ぎる。 けれど時間は人の心を動かす。



 「正直なところ、映画なんか見ていられる状態じゃない。 でも、美しかったこの町の



姿はやっぱりもう一度見ておきたいから」と言う人。 「ロケの時エキストラに参加して、



いつも隣に座っていた人が津波でなくなった。 もしかしたら映画に映っているかも、



その人の姿を見られるかと思って来た。 いや〜、映ってたね〜」とうれしそうに言う人。



 あぁ、なんで東北の人はこんなにおだやかで、強いのだろう。



 三分の一くらいは残っていたティッシュの箱が空になり、次の箱をすぐに取りに



行かねばならないほど、泣いていた。



 あたしは自分の感情が爆発する場所を探していたのだろうか? それともこうなる



ことがわかっていたから地上波の特集番組をガン無視していたのだろうか(いや、



これらには怒りがこみ上げそうだから避けたのかもしれない)。



 そして、あたしが素直に向かい合えるものがここにも。



   なのはな/萩尾望都



 <シリーズ・ここではないどこか>のうち、3.11後の作者の悲しみと怒りが



ストレートに出された作品群をまとめたもの。 通常の単行本にするには分量が



少なすぎるので、書き下ろしを含めても豪華本で登場。



 白中心の地味装丁ですが、カバーをめくれば本体は鮮やかな菜の花が咲き



乱れていて、胸が熱くなる。



 3.11後にすぐに描きたくなったという『なのはな』は、かなり話は萩尾望都に



してはストレートすぎるくらいなのだけれど、ナホちゃんが幻視するチェルノブイリに



いる少女に、



 「あなたはチェルノブイリにいるあたしだね?」



 「あたしは、フクシマにいるあなた」



 と、わかりあえるシーンには泣いてしまった。



 『プルート夫人』『雨の夜―ウラノス伯爵−』『サロメ20XX』の放射性物質



三部作は基本的には同じ話なのだが、その怒りと熱さは他の作品にめったに見られ



ないもの。 人間の自分勝手さも含め、それでも寓話に収まっていることがすごい。



 『なのはな−幻想『銀河鉄道の夜』』は書き下ろし。 『なのはな』の続編で、



宮沢賢治世界を引用しながら福島に・世界に安心をもたらそうとしてくれる。 たとえ



それが心の救いにしかならなかったとしても。



 それが、「世界が終わらないように、世界が次の世代に続くように」という作者の強い



願いなのだから。



 この作品が作者の既に名作とされている作品群と並んで後世に残るかどうかは



わからない。 けれど、同時代に生きる者として読むべき意味はある。



 あたしはさんざん泣いて、自分の中に蟠っている感情の整理がまったくついて



いないことを思い知る。 個人レベルでの一年は、短い。


posted by かしこん at 04:28| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする