2012年03月12日

パーフェクト・センス/PERFECT SENSE

 ほんとは『人生はビギナーズ』とこれとで「ユアン・マクレガー二本立て!」を目論んでいたのですが・・・なかなか時間が合わず。 そうこうするうちにこっちが終わってしまうわ!、ということで急遽見に参りました(現在は神戸での上映は終了しています)。 そしたらば『人生はビギナーズ』のパンフレットは品切れ・追加入荷予定なし、ということで・・・そちらの方がはるかに人気があるようです。 ユアン個人の人気は関係ないの?

  パーフェクトセンスポスター.JPG 五感が、消えていく・・・

 シェフのマイケル(ユアン・マクレガー)は女性とベッドを共にした後、「僕、ひとりでないと眠れないから帰ってくれる?」と女を追い出すある種の人でなし。
 一方、感染症学者のスーザン(エヴァ・グリーン)はいつも変な男に引っかかっては傷ついて自分の世界に閉じこもる。 そんなふたりが<突然憂鬱な気分に襲われ、悲しみに打ちひしがれた後、嗅覚が消える>という謎の奇病が流行り始めた頃に出会う。 その病はそれだけにとどまらず、人々の感覚がひとつずつ失われていく。
 はじめ、ナレーションはスーザンなのかと思ったけどまったく違う人で、これはもう過ぎてしまった出来事をあとから語っているのかな、という感覚にとらわれる。 だってナレーションは感情を抑えるように淡々と事実だけを読み上げていくような感じだったから。

  パーフェクトセンス4.jpg スーザンが失恋を友人に報告するシーン。 一体ここはどこですか?、な泥炭地が美しい。
 ある感情が爆発し、それがおさまるとひとつの感覚が失われているという全世界を覆う謎の奇病が描かれますが、『アウトブレイク』的でも『コンテイジョン』的でもない、どちらかといえば『ブラインドネス』に手触りが似ている映画かな、と感じた。
 そう、文学的要素が高いというか、それでいて『TIME』よりもSFマインドがあるというか。 サンダンス映画祭に出された作品ということであまり期待していなかったのですが(低予算故のアイディア倒れの作品が経験上多いから)、これは意外にも拾いもの!
 ナレーションによって場面ごとに繰り返される“ライフ・ゴーズ・オン”(それでも人生は続いていく)のフレーズが否応なく印象的。 何かを失っても、他の感覚が鋭敏にある、人はその状態に慣れる、というのがさりげなくもリアル。

  パーフェクトセンス2.jpg ダメ男だが笑顔がキュート。
 マイケルくん、なかなかのダメ男です(前向きでやる気があるのにダメ男って・・・と残念度がかなり高い)。 しかもマイケルとスーザンは恋仲になるんだけれども、それって吊り橋効果ですよね?、というくらいお手軽なお付き合いというか・・・他に相手がいないからですよね? 現実逃避したいからなんですよね?、という感じでこの二人のカップルには特に何も感じない・・・。 むしろ先に発作がきたマイケルを取り押さえようとしながら「そんなこと言うなよ!」と泣きながら抱きついていたシェフ仲間さんのほうがいい味を出していた。
 ちなみにマイケルのお店で出すのは「魚介が得意で、フレンチやイタリアンの要素を融合した創作料理」のようなのですが・・・最初、厨房に入ったオーダーが「オマールエビと、ハギス」だったのであたしは倒れた・・・イギリス人の食生活はかなり改善されたと聞くが、うまずい伝統食を愛する気持ちは簡単には消えないのね(だからってそれをオマールエビと一緒に注文する?)。 字幕では出なかったけど「リコリスでも食べるかい?」みたいな台詞もあったし、近未来設定なのかもしれませんが、イギリスの食、おそるべし!! 味覚がなくなったときもレストランのオーナーは、「あとは小麦粉と油があればいいんだ!」って叫んでたし、栄養素はそれだけじゃないだろう、と感じるあたしは日本人でよかったと思いました。
 と、そんなわけでディテールが非常に気になる映画であります。
 公園のバイオリン演奏者が嗅覚を失った後、公園に集う人々に音楽を聴かせ、「森を散歩しているところをイメージして。 苔が敷き詰められた部分を歩くときのにおいを」というパフォーマンスにみんなが心の中の記憶に降りて行ったり、いつか目が見えなくなる日が来るかもしれないと現在盲人の方に習って目隠しをして道を歩く練習をしている人たちがいたり、絶望という状況を日常に変える工夫をしている普通の方々の姿がじーんときます。
 マイケルは臭覚や味覚がなくなった後も、人々を楽しませるために料理の歯ごたえや温度にこだわってメニューを変えてみたり。 でも、いくら味がわからないからといってお風呂場で石鹸食べるのはどうかと思ったけど・・・。

  パーフェクトセンス5.jpg それでも、町が荒れ果てる瞬間はくる。
 ナレーションは言う。 もう未来がないと思う者は略奪に走るが、人生は続くと考える者は乳牛の世話をし、木を植えると。 荒れ果てた街でも倒れた自転車を立てかけるおじさんがいるように、どんな状況であっても理性を失わない・もしくは普段の習慣を変えない人の存在はありがたい。 人間ってまだ捨てたものじゃないと思えるから。
 でも、もし明日世界が終わるとしても、日本人の多くはあたしを含め、普通どおりの生活をしてしまうんじゃないだろうかという気はする。 愛する人と離れ離れなら、会いに行こうとかはあるかもしれないけどさ。
 静かに静かな終末を描いた映画でしたが、科学は無力でしかないけれど不思議なほど悲壮感が薄く、意外と人間って愛すべき生き物かもと思わせてくれる映画。
 仏教的な無常感と通じるところもあるかも。 西洋文化がそんな感覚を広く受け入れてくれるようになったら、現在の宗教対立ももっとゆるやかにならないだろうか。 そんな希望も、抱いてしまいました。

ラベル:外国映画 映画館
posted by かしこん at 04:19| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする