2012年02月29日

J・エドガー/J. EDGAR

 J・エドガーといわれて、はじめは誰のことかわからなかった・・・エドガー・フーバーと言ってくれたらわかったのに。 つまりタイトルからも、公人ではなく私人としての彼を描きますよ、という監督クリント・イーストウッドからのメッセージなのか。 レオナルド・ディカプリオが20代から80代までの彼を演じています。 というわけでアメリカがまだ暗黒の時代を長々と走り抜ける私的な叙事詩といったところか。
 多分『グッド・シェパード』の後? 『パブリック・エネミー』と一時期かぶり、このあとに『大統領の陰謀』や『フロスト×ニクソン』がくる・・・という時代かと。 実はこの映画に対して事前情報を持たぬまま行ったので、エドガーの母がジュディ・デンチ、エドガーの秘書がナオミ・ワッツという豪華配役に動揺、ついつい期待してしまいます。

  Jエドガーポスター.jpg これは、いくつぐらいのときであろう・・・。
 「8人の大統領に恐れられた男」みたいな予告コピーがありましたが、実際エドガーに手こずらされている場面が何度もあるのはロバート・ケネディぐらいです。 しかもそのロバート・ケネディが『バーン・ノーティス』のマイケルでちょっと笑ってしまったんだけど、結構似てるかもと思い直す(でもあたしには『ケネディ家の人々』のバリー・ペッパーが印象深いので彼でもよかったなぁ、と)。
 若き日のエドガーはとても切れ者で、コンピューターのない時代にコンピューター的システムをアナログ世界で構築しようと孤軍奮闘。 国会図書館の図書検索システム(書籍カードから場所を探すあれですね)をつくり上げたのは彼だと知ってびっくり! そういうセンスがある人なのでしょうが、ファイルキャビネットの中身をただABC順や事件順にするのではなく“独自の理論で”ファイルわけをし、読み方を知っている人しか閲覧できなくさせた、というのはまさにパスワードの手法。 情報セキュリティの感覚が徹底してる! 犯罪者の指紋収集にも並々ならぬ情熱を見せ、科学捜査の基礎を確立するために費用は惜しまない(上司は渋い顔をするが、いつも押し切られる)。

  Jエドガー3.jpg そしてFBIには、自分の美意識にかなった人間しか入れない。 ダークスーツのイメージはここから。
 その成果がエイフィス(現在アメリカで使われている犯罪者探査システム)につながっているわけですね!
 というわけで彼の功績はそれだけでも十分素晴らしいと思うのだが、偉大なる母にもっと認めてもらいたい気持ち、まだ司法省の役人だった若き日に、当時の上司の家に爆弾が仕掛けられたことで燃え上がった共産主義憎しの気持ちは一生涯消えなかったらしく、晩年の彼の判断を狂わせることに(というか時代が変わったことを認めたくない気持ちなのか)。 引き際を間違える大物は、つらい。
 それにしても、序盤から漂うエドガーの同性愛嗜好に、腐女子ではないあたしもドキドキしてしまったんですけど! いえ、露骨なシーンがあるわけではないのです。 些細な目くばせ、言葉の選び方・・・などなど、そこに“抑圧された感情がある”ということにどきどき。 時代はまだ同性愛を容認してはいないし、まして司法省からFBIの初代長官になった男である。 そんなスキャンダルは赦されるわけないわけで・・・なおかつエドガーは自分がゲイであることを自分自身でも認めようともしていないという屈折感。 『ミルク』の脚本家の方だそうで・・・さすが!

  Jエドガー2.jpg 上に冠する者の孤独だけでなく、自分を受け入れられないことからくる孤独も。
 そんなエドガーに出会ってしまい、弁護士志望だったけどエドガーへの献身の道を選ぶクライド・トルソン(アーミー・ハマー)は生涯をエドガーの側近として、ときには彼に罵倒され、ひどい目に遭いながらも素直になれない“恋人”への想いをあくまでまっすぐ持ち続けており、かなりの健気さに胸がキュンキュンしてしまう。
 実は男性陣の老化特殊メイクは結構無理が見える部分があって寂しいのですが、ミス・ヘレン・ギャンディ(ナオミ・ワッツ)の老けメイクは見事というしかなく、老化しているにもかかわらず美しい・・・やはり、女優が相手ではメイクも一味二味違うのか?!
 結婚せずにエドガーに尽くしたミス・ギャンディ、若い頃エドガーにプロポーズされているのだが「仕事に生きたいので」と断っている。 彼女の背景はまったく語られることはないけれど、知りたくなりました。 エドガーとトルソンの関係は知っていただろうに、何も言わず、ただ忠実な秘書であり続けた姿には「女性だから」というだけで仕事をさせてもらえなかった時代の意地もあるのかもしれません。
 常に「ミス・ギャンディ」と呼びかけるエドガーも、ときには「ヘレン」と呼ぶときもあって。 それが厳格で不器用な上司の心の内を見せるときならば、この人のために働こうと思うのかもね。
 FBIの地位向上のために何でも利用するエドガーのやり方が反発を買うのは当たり前だし、敵もたくさん作っただろうに、トルソンの忠告も聞かずにブルドーザーのように進む・・・自分と主義主張が同じか近くなかったら絶対に一緒に仕事をしたくないタイプ。
 ミス・ギャンディえらすぎます!
 自分の提唱する科学捜査の見せどころ、と張り切ったリンドバーグ子息誘拐事件は今では冤罪という見方が強まっているだけに(そういう説はあるよと匂わせてはいるものの)、もう少し突っ込んだ表現をしてもよかったのではないかしら。 知らない人にはよくわからないままだと思う。
 どちらにせよ、回想録を執筆させるエドガーにとっては過ぎた事件、利用し終わった事件という扱いなのかもしれないが・・・。
 なんとも物悲しくなる映画だった。
 ディカプリオ、これでオスカーの主演男優賞にノミネート、の声も聞こえてましたけど結局ノミネートされなかったのは、老けこんでる時期の演技がまるでマーロン・ブランドにしか見えないからじゃないかなぁ、と思ったり。

ラベル:映画館 外国映画
posted by かしこん at 04:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする