2011年05月27日

ブラック・スワン/BLACK SWAN



 ナレーションがないのに「映画で一人称」をやったのってすごくないか!?



 というのが最初に来た感想です。



 そして予告で感じた通りに、見事なホラー映画に・・・。



   純白の野心は、やがて漆黒の狂気に変わる・・・。



 『アンチクライスト』が妻から夫の攻撃(とはいえ妻も夫も監督自身の具現化なん



ですけどね)だったのに対し、『ブラック・スワン』は徹頭徹尾、とにかく「自分自身を



追いこむ物語」。



 NYのバレエ団に所属するプロのバレリーナ、ニナ・セイヤーズ(ナタリー・ポートマン)は



芸術監督のルロイ(ヴァンサン・カッセル)から「清楚で気品があり、理性的かつ完璧な



踊り」と称賛されるが、優等生の枠から出られないことを責められる。 折しもずっと



プリマだったベス(ウィノナ・ライダー)を引退させ、新たな段階にバレエ団をもって



いきたいルロイはまったく新しい振り付けで『白鳥の湖』を行うと発表、キャストも一新



するという。 新しい人物も加わり、どうしても主役になりたいニナはオーディションの



プレッシャーから精神のバランスを崩していく・・・。



   ニナ、バレエ団でもちょっと浮いてる感じ。



 ニナは母子家庭で、母親もかつてバレエをやっていた人物ということもあり母親の



ニナへの依存度は半端ではない(母親としてはニナに成功してほしいのだが、あっさり



自分を越えられるのもまた許せない、みたいな二律背反が見受けられる)。 母親の



呪いもまた、さりげないけど怖いわけです。



 鏡の多様は、“鏡に映る自分”が“自分”だったり“そうありたい自分”だったり、実は



“母親”だったり、“必要以上に臆病な自分”だったり・・・と、ニナの内面をわかりやすく



表すバロメーター(画面上のちょっとした細工により、どういう状態なのかすぐわかると



いう親切設計です、怖いけど)。



   鏡の中に映り込む自分がまた鏡の中に

          ・・・古典的手法ですが効果はやはり高い。



 出番は少ないが、役目を追われたベス役のウィノナ・ライダーが最近の中でいちばん



いい演技をしていたような。 他の映画のように「老けた!」とか感じさせずに、



リアルに“追い落とされる者”の苦しさや悔しさ、苦々しさを体現していた。 いつかは



ニナもそうなるのだと、これもまた彼女を追いこむ要因。



   ベス、すさんでます。 配役の勝利?



 黒鳥(ブラックスワン)に必要な狡猾さやたやすく王子を誘惑する妖艶さを表現



するのに苦しむニナだが、ライバルのリリー(ミラ・クニス)はプライベートから



黒鳥そのもののような女性。 役を奪われることを恐れるニナは彼女のすすめに



従って「悪いこと」にも手を染めてみるのだが、不安は消えず・・・しかし公演当日、



ある出来事で吹っ切れたニナは見事な黒鳥のパ・ドゥ・ドゥを踊る。 だが・・・。



   どこまでがメイクでどこまでが幻覚か、

                観客も蒼ざめますわよ。



 こんなことを言っていいのかわからないが、他者を傷つける方向に行った『アンチ



クライスト』よりも徹底して(本人が意識していることではないが、結果として)自分



自身を追いこんでいくニナのほうが、あたしは共感できました。 やばいけど、すごく



こわいけど。 現実と幻覚、事実と記憶の区別がつかない恐怖は、なんか感じたことが



あるような気がしてニナがとても痛々しかった。



 更に痛いのはトゥシューズを脱いだときの割れた爪・にじむ血(余談だが新しい



バレエシューズを自分用にアレンジしていく様はすごく面白かった。 分解して



テーピングしたり、靴底にハサミで切り込み入れたり)、そして皮膚がくっついた



指! しかもそれをじわじわはがす! しかし向こうの爪切りは眉毛切りみたいな



小さなハサミなんですね。 それで切ってたらますます爪の先がとがりそうだけど。



 が、いちばん怖かったのは黒鳥を踊るときのニナのありえない顔の角度だった。



 悪魔的なものすら感じた。 実際はボディダブルの本職バレリーナさんにナタリー・



ポートマンの顔を合成したらしいけど・・・CGの違和感でなく存在としての違和感



だったので、あれはありだと思います。



 黒鳥パートのインパクトがものすごかったので、終幕の白鳥の部分がバレエとしても



映画としても弱くなっちゃったかなと感じたけれど、やはり映画はただのサイコホラー



ではなく、押しつぶされそうだった弱々しい鳥が、自分の才能を確信してこれまでの



殻をすべて脱ぎ捨ててバレリーナとして一流に成長した、という話だと思いたい。



   覚醒。



 しかし、一流になるためにはこれほどの犠牲を払いますよ、その覚悟はありますか?、



と問いかけられているかのようだ・・・。



 『ダンシング・チャップリン』を見たので草刈民代さんの肉体美と比べたらナタリー・



ポートマンはまだまだだけど、でも背中とか二の腕あたりはかなりいい線いっている



ように見えた(肩幅細い!)。 そりゃ予算がなくなっても自腹でバレエの稽古を



続けただけのことはあるわ、とナタリー・ポートマンの役者としての意地を見たと思う。



 そしてヒロイン一人称映画だけあって、印象的なのはみな女性・・・ヴァンサン・



カッセルすらも実はどうでもいいみたいな潔さ、好きです。



 ただ・・・これは日本の都合ですが、拡大公開になって果たしてよかったのかどうか。



 あたしは時間の都合でシネコン・ミント神戸で見てしまったんだけど、かなりの



客の入りにもかかわらず、ほとんどの客がエンドロールで席を立つ・・・。



 余韻が台無しじゃ! わかったのか?、この映画のこと、ちゃんとわかったのか?、



と聞きたくなった(いや、あたしの解釈が正しいとは限りませんが)。



 あぁ、いつものようにシネ・リーブル神戸で見ればよかったなぁ、と後悔。



 やはりミニシアターの映画ですよ、これは。


posted by かしこん at 03:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする