『制裁』/アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム
スウェーデンのまた別のミステリ・シリーズを発見。 『ミレニアム』三部作と同じ
訳者の方です。 というか『死刑囚』という本を買ってしまったら(スウェーデンでは
死刑がないはずなのにな〜、と思って)、よく見たらそれが第3弾となっていたので、
先に第1弾を読むことに。

そしたらば、性犯罪者に甘いスウェーデンの法律の壁が新たな悲劇を生む、と
いうこの国にも通じる内容でございました(別にシリーズではないのでは、単発で
読んでも問題ないのでは、と思ったら二作目からは脇役だったストックホルム市警の
警部&警部補が主人公になり、一作目に出てきた囚人の仮釈放が問題になったりと
連動していて、やはり順番に読んでいる方がよいと思われます)。
登場人物が多く、かつスウェーデン特有の馴染みのない名字なので一見さんには
少々辛いものがあるかもです(慣れてきているあたしも最初のほうはちょくちょく
登場人物一覧を見ましたが、ほんとのチョイ役は載ってなかったり・・・
『ミレニアム』シリーズはその点親切でしたね)。
性犯罪者で連続幼女誘拐殺人犯を、被害者の父親が復讐のため追いまわして殺す、
というだけの話じゃないところがポイント。 そして犯人について幼年期のトラウマが
的擁護論を一蹴してしまうのもよし(ただのボロクズとして描かれているのが大変
よろしいかと)。 むしろ、復讐を果たした父親を英雄視し(そこまでは心情的に
わかります)、自分たちの身近にいる“ちょっとおかしい人たち”を連続殺人犯と
同じく「ロリコン変態野郎」と決めつけ、私刑にしようとする変な勢いに乗っちゃった
市民の恐ろしさを生み出した点を描いたところが深みを生み出したような。
まぁ、内容は結局因果応報論に終始してしまうのですが、仮定ですが「死刑の
ない国」がこのような暴走を生み出すのならば、罪には相当の罰をと望む市民が
いる限り死刑制度は有効なのでは・・・と考えてしまいました。
『ヒプノスの回廊』<グイン・サーガ外伝22>/栗本薫
結局、読んでしまった・・・。
“これまで文庫に収録されていなかった作品の寄せ集め”なのだから統一性など
あるはずもないのだが、それも含めての『グイン・サーガ』なんだな、と今更ながらに
思い知らされたというか・・・奇妙な気持ちになった。

もともと、本編と外伝の関係がこんなに曖昧なシリーズも珍しいんじゃないか、
という作品ではあった。 本編に主人公が延々登場せず、その間外伝で活躍して
いたり(そしてその物語を外伝にする意味もよくわからなかったり)。
そう思うと外伝ってなんでもありなんだな〜、と。 たとえ本編で命を落とした
人物も、外伝で時を遡ればいくらでもまた活躍してくれる。
勿論読者の中にキャラクターたちは生きているんだけれど、物語としても誰が
書こうが世界観というそれなりの約束を守ればいくらでも書き続けていけるんじゃ
ないだろうか、本筋の核心に触れなくても。
まぁあたしは本編での<コンピュータ>・<ホストマスター>の登場にがっくり
きちゃった人間なので、アウラ・カーがどんな存在であろうとも失望とかしないって
ことに自分でもびっくり。
もはやグインの生い立ち・存在の謎よりも中原の歴史、主要人物たちのその後
(というか生涯)が知りたくてずーっと読んできたんだな、ということに改めて
気づいた。
5月から他の作家の競作による『グイン・サーガ・ワールド』が刊行されるよう
ですが・・・なんかもう抵抗を感じないかも、と考えている。