2011年04月18日

海炭市叙景



 これもアートヴィレッジセンターでした。 ここは行くときはやたら続く。



 舞台はタイトル通り北国の小さな町・海炭市ですがスクリーンに広がる町は



明らかに函館市。 函館オールロケらしく、なんとなく見覚えのある風景もある。



 なによりも降る雪が北国のものなので、懐かしさを覚える。 これって、郷愁?



   『かいたんしじょけい』と読んでください。



 “叙景”というタイトル通り、メインストーリーはありません。 この土地に住む



人々の日々を切り取って積み重ねたもの。 それが最後につながっていくけれど、



安易なハッピーエンドなどにはならず、ただ、人生は続く。



 かつては一大産業だった造船所も、今はリストラの嵐が吹き荒れている。



   組合の話し合いは、紛糾。



 結局仕事を失った青年(竹原ピストル)は妹(谷村美月)を連れて初日の出を見に



行こうと山に登る(それは、二人の子供時代に重なる記憶でもあった)。



 市役所職員(山中崇)が周辺地域開発のため立ち退きをおばあさん(中里あき)に



お願いする。 猫だけでなく様々な動物を飼っているおばあさんは首をがんと振らない。



 ある日、おばあさんがいちばん可愛がっている猫が姿を消す。



 プラネタリウムで働く男(小林薫)は仕事を愛し、星を愛し、訪れてくれる客に



感謝しているが、妻(南果歩)は勝手にスナックで働くようになっており、息子とは



口もきけない毎日。



 代々続くガス店を継いだ若社長(加瀬亮)は、今後はガスだけでは商売はやって



いけないと浄水器販売に目をつけ、東京からやってきた男(三浦誠己)とともに



得意先を回るが、成果は出ない。 しかも再婚した妻には浮気がばれており、連れ子の



アキラは義母によって虐待されている。 何もかもうまくいかないある日、若社長は



ガスボンベを持つ手を滑らせ、自分の足の上に落してしまう(都市ガス地域の方には



わからないでしょうが、プロパンガス地域ではガスボンベを定期的に交換してもらわ



なければならないのです)。



 路面電車の運転手(西堀滋樹)はたまたま路上を歩く息子(三浦誠己)を見かける。



息子は東京で仕事をしているはずだが、といぶかる父親のもとには息子は帰ることは



なかったが、母親の墓の前で鉢合わせをしてしまう。



 そんな点描スタイルに最初なじめず、造船所パートの途中でうっかり寝そうになって



しまったのだが「あぁ、この映画はそういうことか」と理解できてからは立ち直り、



最後まで無事完走。



 プラネタリウムのおじさんが「よかったらこれ」と星座早見表を渡すのがアキラくん



だったり、ブチ切れた義母によって勉強道具一式とともに窓から投げ出されても



いちばん最初に拾うのが星座早見表だったりと、まったくかかわりのなさそうに



見えた人たちのつながりが少しずつ見えてくる過程がミステリアスでもあり予定調和っ



ぽくもあり、でもそれが「パズルのピースがはまっていく」ということなのかもしれない。



   気づけば、それぞれの決断を乗せて

                           路面電車は走る。



 多くを語らない、とても静かな、映画。



 原作もそうなのかなぁ。



 その雰囲気を活かすこと、壊さないこと、それがこの映画の目的のようにも思えて。



 わー、函館市のフィルムコミッション、がんばってるなー、とちょっとうらやましく



なった(あたしの地元は確か函館市と姉妹都市だったか?で、かつて互いのフィルム



コミッションと共同で映画をつくろうとか盛り上がっていたような記憶があるのですが、



今はどうしているのやら)。



 でもあとから事情を聞いたら、この原作を書いた作家(佐藤泰志)は函館市出身で



村上春樹と同期、実力はあると認められながらも不遇な生活を送り、41歳で自殺と



いう衝撃の幕切れを果たした人物とか。 地元の人間としては何か報いたい、と思う



気持ちはわかるし、それが作者の代表作である作品の映画化へとつながったようで



・・・地味ながらこの映画から漂う力強さはそんなスタッフたちの意気込みなん



だろうなぁ、と思う。



   心を閉ざす妹の姿には、何も

   語らずともその思いは見えるようで・・・彼女のその後の人生を考えると、つらい。



 実力も知名度もある俳優さんにまじって現地でオーディションして出演が決まった



方も結構いらっしゃるようですが、素人加減がそんなに気にならなかったのもよかった。



プロの方もかなりオーラ消して演じてたからかな?



 この映画も結構長かったですが・・・(2時間半くらい?)、しかしそれほど長さは



感じなかった。 土地の風景がこんなにも雄弁な映画、他にあっただろうか。



 ただあたしが函館に多少の親しみを感じている(何度も行ったことがあるから)と



いうことだけでは説明がつかない気がする。 この映画の主役はこの町にかかわる



人々である前に、この土地なのだ、ということかもしれない。



 原作を読んでみたい、という気持ちになりました。





 これで、あたしが3・11前に見た映画についてやっと書き終わることができました。


posted by かしこん at 05:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする