2011年03月07日

ブラックランズ/ベリンダ・バウアー

 19年前、叔父のビリーは行方不明になった。 連続児童殺害事件の被害者になったと思われるが、逮捕された犯人は否認、ビリーの遺体は見つかっていない。 
 帰ってこない被害者に残された家族は心を閉ざし、やりきれない思いを抱えている。 甥であるスティーヴンは、ビリーの遺体が見つかれば祖父や母の心の傷が埋まるのではないかと、このうちが“普通の家族”になるのではないかと考え、今日も遺体を探して荒野をめぐる(舞台はイギリス南西部のエクスムーア。 ヒースがところどころに茂る水のにじむ荒野があり、犯人はそこに死体を埋めていたから)。

  ブラックランズ.jpg なんかそれだけで泣きそうになってくる。

 見つからない子供と残された家族の葛藤、どうにか見つけ出そうとする少年、という基本設定は『ラスト・チャイルド』とほとんど同じと言っていいでしょう。
 しかしディテールは違います。 こっちでは犯人は捕まっていて収監中。
 ただスティーヴンはどうしてもビリーの居場所を知りたくて、刑務所の犯人に手紙を出してしまうという別方向にスリリングな展開に。
 分量も『ラスト・チャイルド』の半分だし、神がかった不思議な感じは出てこないし、むしろこちらのほうが読みやすいかもしれない。 が、やはり母親は愚かだし、主人公にとっての親友は種類は違えどろくでなし。 共通項が多いので近い時期に読むと印象がかぶるのは間違いなし。 どっちを先に読んだかでかなり評価が変わってしまうかも。
 で、あたしは後から読んじゃったわけですが・・・でも、よかった!
 『ラスト・チャイルド』と違ってスティーヴンはちゃんと学校に通っているのだが、教師からもほとんど認識されていないし暴力をふるうとともにカツアゲも平気でするいじめっ子までいて、彼の孤独は深まるばかり。 だからこそ荒野でシャベルをふるうことが彼の存在理由であり、居場所になってしまっているということになんか泣けてくるのである。
 何度、「ちゃんとした施設に入れてあげてよ!」と思ったことか(それにしてもアメリカもそうだが、イギリスも明らかな犯罪に近いいじめに対して教師側は何の対策も講じないのか? 見て見ぬふりなのか、ほんとに気づいていないのかどっちなんだ? 子供は自分がいじめられていることを周囲の大人に知られることを極端に恐れる、というのはどこも共通なんだなぁ)。
 そして厳格で一家の不和のすべての元凶にも思えるスティーヴンの祖母(しかしほんとの原因は“事件”なんですけどね)の存在が物語を引き締める。 彼女が目立ちすぎるが故に母親の影が薄いというか、余計愚か者っぽく見えてしまうのが残念ではある。
 愚か者と言えば右に出るものがないのがスティーヴンの親友ルイスである。
 こんなアホとは早く縁を切れ!、とあたしが親戚のねーちゃんだったら説得してやりたいところだが(そしてルイスの親のところに怒鳴りこんでやりたいところだが)、男同士の友情は女には理解できないつながりなのか、それとも自分が普通ではないと自覚してしまっているスティーヴンにとっては友人でいてくれるだけでありがたい存在なのか、いやだと思うところがあってもぐっと文句を飲みこんでしまうスティーヴンが痛々しくて・・・。
 スティーヴンと犯人の視点で交互に紡がれるこの物語、後半はスピーディーなスリラーへと展開しますが・・・幼児性愛者とか快楽殺人者ってのは更生などしないものだ、としみじみ感じてしまう(更生するような資質があれば怪物になるラインは踏み越えない)。
 しかしわかっているだけで6人の少年が殺されているのに(そして遺体が見つかっていないのが3人)、死刑判決じゃないってのが信じられない。 イギリスっていまは死刑のない国だっけ?、と考えつつ、そしてあたしは“死刑のある国”に生きていることをごく平然に受け入れていると気づかされる。
 正直、死刑制度の何が悪いのか、あたしにはわからない。
 終幕での町の人々の行動には描かれている以上の謎が潜んでいるような気がするのだが・・・しかし祖母の登場によりあたしはいきなり堤防が決壊したようにどーっと涙が流れた。 嗚咽もなく、すすり泣くでもなく、ただただ涙だけが流れ続けたのだった(これがいわゆる「女優泣き?」)。
 すべてが片付いたわけじゃない、スティーヴンにはまた別の心の傷が残る。
 それでも、彼が手にできたのは明らかな救いだった。
 そのことに、安堵できたのでした。
 こんなにも読後感のよいサイコスリラーはなかなかありませんよ。

ラベル:海外ミステリ
posted by かしこん at 02:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆ 読んじゃいました | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする