2011年03月05日

冷たい熱帯魚/COLD FISH

 意外にも、シネ・リーブル神戸でいちばん大きなスクリーン。 てっきりあたしは『洋菓子店コアンドル』のほうがそっちだと思ってたんですが・・・しかし結構、客が来る。 首都圏では連日立ち見が出るほどだと聞いたけど、そういう映画が同じように神戸で流行るとは限らないしなぁと思ったのですが、あたしの予想よりもはるかにお客がいました(ちなみにこれは『英国王のスピーチ』公開前の出来事)。
 園子温作品、映画館では初めてです。 以前、『紀子の食卓』をたまたまWOWOWで途中から見てしまい・・・なんか目が離せなくなってしまった記憶あり。 この人の作品も、観客を不安に陥れるというか不穏な空気でこちらをおののかす。 ハケネとはまた違う意味で、要注意です(だから評判の『愛のむきだし』はまだなんか見れていない)。
 それで覚悟とともに見る今作。 ファーストカットから、もう投げやりな人生が全開。
 based on a true storyって出たよ・・・マジですか。

 小さな熱帯魚店を営む社本(吹越満)は妻と娘と三人暮らし。 しかしどうやら妻とは最近結婚したばかりのようで、娘は前妻との間の子供のようである(前妻の存在には一切触れられない)。 娘は高校生なのか卒業してるのか不明だがそくらいの年齢で、明らかに何もせずに遊び回ってばかりである。 食卓は一応三人で囲むも、会話もなく、娘は携帯電話で男友達からの呼び出しがあれば父を無視で途中で出ていく。 そして妻の出す食事は冷食品のみである。 明らかに問題を抱えているのに、社本は何もしない、何もできない。
 ある日、娘が万引きで捕まったとスーパーの店長から電話がかかる。 夫婦で娘を引き取りに行くが、反省のない態度に店長は怒り狂っており、警察を呼ぶという。 そこを「まぁまぁ」と取りなしたのは、地域で“アマゾンゴールド”という大きな熱帯魚店の社長である村田(でんでん)だった。
 人当たりがよくて、世話好きそうで、声が大きくて人を自分のペースに巻き込むのがうまい、そしていつしか人を支配する。 そんな人物と出会ってしまったことで、短いスパンで社本の人生は大きく変わることに。
 と、こんなところでまだ映画開始20分といったところである。 とにかく早い、展開というか行動というか。 だから社本は深く考える間もなくどんどん流されてしまったのか、もともと考えないタイプだからこの流れに巻き込まれてしまったのか、観客もただただ怒濤の展開に流されていくだけである。

  冷たい熱帯魚2.jpg なにしろまともな人が誰も出てこない。

 更になにしろR+18指定なので、エログロさ加減が容赦ない(まぁ、だからこそのR指定ですが・・・)。 こちらが受け止める前にどんどん先に進んでいくので、気持ち悪いとか考えるゆとりもない。 それも、ある意味すごいなぁ。
 あたしはてっきり北九州の事件がネタモトかと思ったので、「ニュースで聞いたのよりつらくないわ」とむしろ安心してしまったのだが、実際は“埼玉県愛犬家連続殺人事件”がネタモトであるらしく、かなり実際の事件そのものの流れに近いストーリーらしい。 この事件の発覚後、国内では阪神大震災・地下鉄サリン事件と立て続けに大事件が起こったためにマスコミはあまり報道をしなかったそうで、確かにあたしも知りませんでした(大阪の方は記憶にあるけれど)。
 おぞましいことも恐ろしいことも、目の前にしてしまえば人の感覚は簡単に麻痺する。 なによりもこんなことをする人間が確かに存在する、という事実はどうしても否定できないわけで、気持ちが悪いとかといって避けて通れないんだなぁと考える。
 あたしは他人を操ったり利用したりいらなくなったら簡単に捨てて「透明にする」ことによろこびを見い出したり、それが自分のために必要なことなんだと考えたりはできないが、実際そういうヤツはいる。 こればかりは、どうしようもない。 あとはいかに関わらずに対処するか。 この映画はそんな究極の人生指南でもあると思う。
 面白いです、と堂々と言うのはうしろぐらい気持ちになるが、かといって面白くないことはなく、144分をあっという間に持っていく力も確かにあり、むしろ実際の事件がベースだからかそれ以上に重いものを付け加えることができなかったのか、“突き詰められた悲惨さの中にある滑稽さ”がにじみ出てしまい、ラストにはなんだかわけがわからないのだが爽快感すら漂ってしまうのだ。
 誰も救われないのに。 希望なんてかけらもないのに。
 所詮、人間は人間でしかない。 高尚でもなんでもないただの生き物にすぎないのだ、という事実を確認するかのように。

  冷たい熱帯魚1.jpg 久々に、抑えた演技で。

 吹越満はいつもの怪演を封印し、ただ流されてしまうことに戸惑う男を静かな佇まいで体現。 でも、実は最初から壊れてるんですけどね(年頃の自分の娘と3歳しか違わない女と結婚するか、普通)。
 が、いちばんすごいのはでんでん氏である!
 いつもわりと「とにかく人のよさ丸出しな人・もしくはいい人っぽいが裏に姑息っぽいところがありそうな人」という雰囲気を出す役者ではあるが、今回はその中にある“いい人さ加減”と“自覚のない狂気”とを同居させたキャラクターとして普通にいる、というすごさ。 裏の顔と表の顔、とわかれてはいない状態をナチュラルなのかハイテンションなのかもわからない絶妙なリアルさで表現(こんな人、どっかにいそうと思わせるのだ、これが)。 わかりやすくたとえるならば、『悪人』における妻夫木くん以上の覚悟と努力が必要だっただろうこの役を、彼はいわば普段の2時間ドラマに出るのの延長線上で演じているように見えるのだ(2時間ドラマがのんきな仕事だと言ってるんじゃないですよ。 つまりはそれくらい、「演技することに必要以上に意識してないように見える」ということです)。 そんなことがあるはずないのに!
 彼を主演男優賞に呼べるか?、日本アカデミー賞よ!
 黒沢あすかさん、お久し振り・・・と思ったら「えっ!、そんなエロいほうにいっちゃって大丈夫?」と女優生命を心配したくなる鬼気迫る熱演ぶり。
 この三人、すごすぎます・・・。

  冷たい熱帯魚3.jpg “熱帯魚”のイメージ変わるわ・・・。

 見終わった後は結構平気、って思ったけど(なんかすごく気持ち的に疲れたけど)、「小さい水槽がいっぱい並んでるお店にはちょっと入りたくないな・・・」と気がついたら感じており、がっちりトラウマになった模様。
 でもベースが同じく日本人のセンスだからですかね、ハネケより不快感は少ない感じがしますよ(比較してどーするよ)。
 問答無用の問題作、という看板に偽りなし!

ラベル:日本映画 映画館
posted by かしこん at 02:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 movie | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする